お嬢さまの未来
『ただいま帰りました。』
『このみさん、お帰りなせいませ。』
クリスマス会を終え、このみが自宅に帰るとすでに麗も帰宅していた。
『如何でしたか?』
『はい。大変でしたがみんなに喜んで戴きました。』
『クリスマス会のお話ではございませんわよ。』
『はい?』
『成績の事に決まっているでしょう?今日は終業式なのですから。』
麗の興味はクリスマスより通知表だ。
ずっと家庭教師を付けて勉強をさせているのだから気にならないはずがない。
『どうぞ。ご覧下さい。』
『お母さま、お先に失礼致しますわ。』
本来なら実母の康子が先に見るのが礼儀であるが、殊のほかこのみの成績向上に尽くしてきた麗な康子も権利を譲る。
『まずまずですわね。』
全てが5ではないものの、3以下はなく、1学期の成績を全て上回った。
『これも全てお姉さまのお陰です。ありがとうございます。』
『でもまだまだですわ。このみさんの実力なら全て5も可能ですから。』
麗は言い切る。
『お姉さま、それは買いかぶり過ぎです。』
『そんな事はないですわ。ワタクシはこのみさんは以前より聡明な方だと思っていますの。でなければ今井家の養女になんてお父さまのお話は戯れ言と却下していましたから。』
今井家において麗は源一郎より決定権がある様だ。
『3学期以降は全て5でなければ許しませんよ。お父さまお母さまの結婚式の参列も考えねばなりませんわ。』
少し鬼姉の素顔が垣間見えた気がした。
『畏まりました。』
『それはそうと、クリスマス会は如何でしたの?』
暗い気分に落としたと思っていたらすぐに上げてくる。
麗とは姉妹という関係になるがこのみは奴隷になった気分だ。
『はい。いずみさんのお友だちで中田陽菜さんという方が参加されまして、その方が中学に行って女子の制服を着たくないと言って少し会が荒れそうになりました。』
このみは陽菜の事をどのように言えば良いか考えながら話した。
『その中田陽菜さんは、男の子になりたい方なのですか?』
『まだ分からないと言っていましたが、私は性同一性障害の可能性があると思っています。』
『このみさん?』
『はい。』
麗が少し考えこんでこのみに尋ねた。
『三中の制服を変えようというお話を聞いた事はありますか?』
『いえ?初めてです。』
突然麗がなにを言い出したのか理解出来なかった。
『ワタクシが三年生の時に知香さんが入学されましたが、その時にPTAの会長だったお父さまが男の子がスカートを穿く時代なら制服を男女の差が少ないブレザーにしてみてはと提案したのです。この地域は冬は冷たい風が吹きますし、スラックスを穿きたい女子もいるはずだと言ったのですが、根強いセーラー服、詰め襟学生服の支持者が反対して提案は凍結されましたの。』
このみも初めて女装をしたのがこのセーラー服だったので思い入れはあるが、ブレザーの制服も着てみたいと思う。
『来年、このみさんが今井の家に入る事でお父さまがPTA会長に復帰する事が水面下で内定しておりますの。来年度は幾人かの生徒にモニターになってもらい、新しい制服を着てもらうつもりなのですわ。』
モニターの生徒を見て他の生徒たちが好反応なら反対派を黙らせる事が出来るというのだ。
『陽菜さんがそのモニターになれば良いのですね?』
『このみさんもですわ。今井源一郎の提案なのですからその次女である事をアピールするためにもこのみさんが率先して新しい制服を着なくてはなりません。』
『ブレザーの制服も着てみたいとは思いますが、アピールするって……。』
わざわざアピールする意味が分からない。
『貴女は知香さんと比べると地味なのですわ。このみさんは将来のために政治力を着けなければなりません。自己アピールは政治力のひとつなのです。』
このみは将来政治家にさせられるのかと不安になってきた。
もしかすると麗も怪我がなければ同じ様に教育を受けて政治家になる道を進んでいるはずだったかもしれない。
(私はその代り?)
そのために勉強をさせられるならつじつまが合うけれど、このみ自身はそこまでの才能は自分にはないと思っている。
『…………。』
このみはお嬢さまでいる事が荷重に感じてきた。
『このみさん。』
『は、はい。』
『ワタクシが出来なくなった事を押し付けようとしてごめんなさい。このみさんにはやらなければならない事がありますものね。自由に生きて構いませんのよ。』
麗がこのみの顔色を見て態度を変えたのは分かった。
本当は自分の代わりになって欲しいのだ。
『お姉さま。私、手術を受けた先の事はまだ考えておりません。もしお姉さまの願いに応えられる様に成長したならその時は頑張ります。』
『ありがとう。このみさんは優しいわね。』
とりあえずの目標は3学期のオール5である。




