田中くんと中田さん
『いや、上田に言われたから……。』
突然陽菜に言い寄られて、田中は戸惑う。
『ダメだよ、みんなに聞こえてるよ!』
このみがパーティションの裏に来て静めた。
『陽菜ちゃん、パーティーは楽しくやろう。言いたい事があるなら終わってからにしてね。』
『ごめんなさい。』
項垂れた陽菜を見て、根は素直だとこのみは思っている。
(それにしても私じゃなくなんで田中くんに言ったんだろう。)
このみは不思議に思った。
気を取り直して陽菜は朗読をし、プレゼント交換の時間になるとサンタクロースに扮した村田がプレゼントを配る。
『悪いごはいねぇがぁ~!』
『村田くん、それ違うから。』
後から村田の田舎は秋田で、3日後新幹線で帰省すると聞いた。
『お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう。』
パーティーが終わると三、四年生たちは喜んで帰っていった。
『いずみちゃん、双葉ちゃん、お疲れさまでした。』
『こうちゃんありがとう、楽しかったよ。』
いずみは笑ってこのみに答えた。
『田中くん、嫌な気分にさせてごめんなさいね。』
男子なのに似合うからと女装させた事がかえって裏目に出てこのみは田中に謝った。
『気にしてないよ。嫌いじゃないし。』
田中は女装が好きなのかもしれない。
『……男のくせに……。』
『陽菜ちゃん、言いたい事あるんでしょ。もう下級生いないから堂々と言って良いよ。』
陽菜がぼそっと言ったのを聞いて、このみが優しく言った。
(まずは話を聞いてみよう。)
『男なのにこんなひらひらした服が好きだなんて信じられないの。』
『確かに田中くんは男の子だけど、私も身体は男の子だよ。』
陽菜の言う事は分からなくもないがなぜこのみではなく田中なのだろう?
『上田さんに対してもそう思っています。でも、見た目も話し方も完璧だから言えません。田中さんって声は低いのに可愛い格好が好きだなんておかしいです。』
自分の中での価値観なんだろうか?
『陽菜ちゃんは男の子になりたいの?』
『……別に男子になりたいって訳じゃないよ。けど、ひらひらした服とか好きはじゃないの。後、生理が来るの嫌だし、おっぱいが大きくなって来るのもダメ。大人になったらお化粧しなきゃいけないのもイヤ。』
話し方が女の子っぽいのは男になりたい訳ではないからなのか?
『でも、僕は普段からこういう格好をしている訳じゃないよ。嫌いじゃないとは言ったけど、好きだとは言ってないし。』
田中は淡々と話す。
『陽菜ちゃん、田中くんは私がお願いして女装しただけだから。私が言われるのは仕方ないけど、田中くんを責めないで。』
『分からないの!』
このみの説得に陽菜にキレた。
『なりたくない身体になって、中学に行ったら穿きたくないスカートを穿かなきゃならないなんて耐えられない!』
田中に噛み付いたのは八つ当たりの様だ。
思春期の身体の変化に対する心の揺れにどうしようもない苦しみを抑えきれず、関係のない田中を責めたのだと思う。
『やっぱり、陽菜ちゃんも性同一性障害なのかもしれないね。』
このみは分析した。
『そうなの?でも男じゃなきゃイヤって訳ではないよ。』
本人の意識はそこまでの拘りはない様だが、身体の変化に違和感があるのは性同一性障害の可能性はある。
『一度、お父さんお母さんに相談してみて、病院に行ってみる?』
『病院ってずっと通わなくちゃならないの?』
性同一性障害ならこのみの様にずっと病院に通って治療する必要がある。
それがいやなら女性らしく変化していく身体もスカートの制服も受け入れざるを得ないのだ。
『自分らしさってみんな人それぞれだからさ。上田さんみたいに病院に通い続けるのは大変かもしれないけど、その先に中田さんの自分らしさがあるならそれを追い求めるのもありじゃないかな?』
田中が言った。
『なんか中田さんの気持ち、分かる気がするんだよね。僕は上田さんみたいに女の子になりたいって思わないけど、可愛いとか女装が似合うって言われる事が多いんだ。今日みたいに請われれば女装する事もあるかもしれないし、それはそれでありだと思ってる。中田さんも自分に素直になってみれば少しは楽になれると思うよ。』
『田中さん……。』
陽菜は田中を見た。
『僕も中田さんが中学で自分らしく生きて行ける様に協力するよ。』
『ありがとうございます。』
途中までこのみが説得していたはずなのに、田中にポジションを奪われてしまった様だ。
『陽菜ちゃんが納得したんだから良いか。』
果たして、陽菜は病院に通って性同一性障害と診断を受け、男の子になる道を選ぶのか、今のまま女性としての自分を受け入れるかは分からないが、後悔しない様に結論を出す事を祈るこのみだった。




