波乱のクリスマス会
麗の元でバスケットボールの基礎を教えてもらういずみは目に見えて上達していった。
練習には上西や、時にはこのみも加わる事もあり、スティールやクロスオーバーも覚えた。
『いずみちゃん凄いね。全然付いていけないよ。』
このみも男子の頃は身体を動かすのはきらいではなく、今井家でも時折麗の練習を手伝ってはいたが、毎日必死に練習に来るいずみに敵わなくなってきている。
『いずみさんは素質がありますわ。中学でデビューしても他の生徒に負けないと思います。』
麗も太鼓判を押した。
『こうちゃん、見守り隊のクリスマスなんだけど、今年はお姉ちゃんたち受験だから頼めないの。お願い出来ないかな?』
放課後見守り隊では毎年クリスマス会を行なっている。
去年までは中学生の知香やのぞみたちが準備や進行をしていたが、受験のため今年は参加出来ない。
『このみさん。いずみさんの頼みですからお受けなさい。』
『お姉さま、ありがとうございます。』
麗に言われなくても承諾するつもりだった。
今年のクリスマスイブは終業式で金曜日なので、学校が終わったらそのまま会場のある商店街の雑居ビルに向かう事になる。
このみは一年生の遥や、同級生のしおり、真理、豊、村田などに声を掛け、中学生だけで10人の協力者が集まった。
『司会はいずみちゃんと双葉ちゃんにお願いします。普通にやってくれれば良いからね。』
このみは2年前、アニメのキャラクターの扮装で司会をした事を思い出しながら言った。
その時、いずみと双葉は四年生で見守り隊の世話になっている現役としてこのみの司会を見ていた。
『クリスマスの主役はあくまでも小学三、四年生の方たちで中学生のみなさんはお手伝いです。女子はメイド服、男子はワイシャツに蝶ネクタイでお願いします。』
このみの事だからまたメイド服を着させられると不安がっていた男子たちは安堵している。
『あ、田中くん。田中くんはメイド服着てもらっても良い?』
『え、僕だけ?……良いけど。』
田中は文化祭でも男子の中では唯一ウィッグをかぶらずノーメイクでメイド服を着た女顔の男子だ。
嫌がられると思ったけど、意外にすんなり了承した。
『なんだ田中、お前女装趣味あんのか?』
村田から冷やかし半分で質問される。
『特にそうじゃないけど、文化祭の時自分でも似合うって思ったから。』
田中はナルシストなのかもしれないとこのみは思った。
『こうちゃん、六年生でもう一人来るって子がいるんだけど。』
『良いんじゃない?見守り隊にいた子なの?』
六年生なら2年前のクリスマス会に参加しているはずだ。
『三年生の時だけ来た子だから一昨年はいなかったんだけど、ちょっとめんどくさい子なんだよね。』
『めんどくさいってどんな子?』
わざわざ参加してくれるんだから興味あるのだろうが、このみは気になる。
『う~ん、はっきり言うと、こうちゃんと正反対の子。』
(正反対って男になりたい女の子って事?)
『こうちゃんに一度会ってみたいとか言ってたからクリスマス会のお話したけど、気を付けた方が良いよ。ケンカ売ってくるかもしれない。』
『ちょっと嫌だね。でも大丈夫、ケンカはしないから。』
このみは笑っていずみに言ったが、気になる子だ。
クリスマス会の当日になり、このみたちは学校から直接会場に集まった。
『いずみちゃん、双葉ちゃん、ちょっと来て。』
このみが司会の二人を呼んだ。
『これ、どうしたの?』
このみは色違いのお揃いのロリータドレスを出して二人に見せた。
『萌絵さんに借りてきたの。これを着て知香さんと萌絵さんが卒業パーティーの時に司会したんだって。』
『あ、分かった。お姉ちゃんから写真見せてもらったよ。』
知香たちがこれを着たのは3年前だが、いずみたちも同じ六年生になったのだ。
『こんにちは。』
『あ。来たよ、こうちゃん。』
いずみがこのみに例の子が来たのを告げた。
『中田陽菜です。宜しく。』
髪は短く、ボーイッシュなスタイルだが可愛い子だ。
『上田このみです。今日は宜しくね。パーティーだからいっぱい食べたり飲んだり出来るけど、主役は今放課後見守り隊に来ている三、四年生だからね。いずみちゃんたちも司会やってくれるの。』
『分かりました。』
陽菜はこのみをじろじろ見た後、素直に返事をした。
『さ、三、四年たちを入れるよ。』
三、四年生たちが席に着いて、蝶ネクタイをした男子とメイド服を着た田中と女子がプラのコップにワインの要領でシャンパン風ジュースを注いだ。
ケーキが配られ、商店街の会長が乾杯の音頭を取り、パーティーが始まった。
『はるちゃん、お願いがあるんだけど。』
『なに、いずみちゃん?』
『この本朗読してほしいの。クリスマスにぴったりだと思って。』
『私が読むの?』
いずみと陽菜の会話を聞いている限り、普通に女子の会話に聞こえる。
(確かに男の子っぽい格好はしているけど。)
このみが陽菜に渡したのは[賢者の贈り物]という物語だ。
『難しくない?』
『はるちゃんなら読めるから大丈夫だよ。』
本が好きないずみは何度も読んだのだろう。
『分かった、読むよ。』
陽菜が席を立ち、パーティションの裏に隠れて準備に入った。
『あ、ごめん。』
飲み物の整理をしていた田中が陽菜の肩とぶつかった。
『あなた、なんで男なのにそんな格好しているの?』
陽菜が田中に噛み付いた。




