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祖父母との和解

『お……お久し振りです。』


康子は、育三郎と幸代に対し他人の様に挨拶をした。


『康子さん、せっかくなので座って貰いなさい。』


テーブルを挟んで奥から源一郎、康子、麗、頼子が座り、手前にはこのみ、育三郎、幸代、リカルドが座った。


『長年の非礼、申し訳ございません。』


康子は育三郎と幸代に謝った。


『なに、康子もだいぶ苦労した様じゃないか?このみもひねくれず真面目な子に育っているし、私たちはなにも言う事はない。』


『ひねくれてはいませんが、男の子のはずだったのに女の子になってしまいました。』


一同大笑いをする。


『まあ、それも時代なんだろう。最初は驚いたがな。』


祖父母もこのみの事を認めてくれた様だ。


『それにしても、みなさんご存知だったのでしょうか?』


『先週このみと麗さんが突然こっちに来たんだ。それで源一郎くんと康子が再婚すると聞いてな。』


『まあ、麗さんとこのみさんが?』


先週、麗とこのみは遥を連れ立って買い物に行ったはずだが、お土産を貰ってまんまと騙されてしまった。


『でも、頼子さんたちが事前におじいさまの連絡先を調べていたのです。』


このみが行くと言う前に連絡は取る予定だったのだ。


『私が上西に調べる様指示をしたのだ。やはりこのままではいけないだろうと。しかし、康子さんも結構頑固だから言うタイミングを図っているうちにこのみに言われてな。』


遅かれ早かれ再会する事になっていたのだ。


『お母さま。私、ずっとおじいさま、おばあさまの事を知らずに来て寂しく思っていました。』


このみが寂しさを吐露した。


『このみさん、ごめんなさいね。』


『お母さま……。』


麗が続いた。


『ワタクシも、おじいさま、おばあさまを早くに亡くし、寂しい思いをしてきましたのよ。このみさんのおじいさま、おばあさまならワタクシにとってもおじいさま、おばあさまだと慕いたいのですが宜しいでしょうか?』


『麗さん……。』


『私たちは構わんぞ。ただ、うちは古い工場なので麗さんを招き入れる事は出来ないのだが。』


『お仕事は暫く続けられるのですか?』


源一郎が尋ねた。


『いや、もう歳だし後継者もいないからほとんど稼働していないんだ。』


織り物産業自体が衰退し、かなりの工場が閉めている。


『源一郎さん、ひとつお願いがあるのですが。』


育三郎が源一郎の目を見て行った。


『もともと、康子の為に作り掛けた打掛けが家にありますが康子が出ていったので未完成のままになっているのです。残り4ヶ月というのは今の私にはきつい仕事ですが、是非完成させて康子に着てもらおうと思いますが如何でしょうか?これを私の最後の仕事にしたいのです。』


『それは素晴らしい!どうだ、康子さん?』


源一郎は康子に聞いた。


『はい。こんな私にそこまでして戴けるなんてもったいない話ですが。』


『おじいさま。』


このみが話を割って入った。


『お母さまと私は最近着付けのお勉強をしているのです。』


『そうか。それならこのみにも式用に一番良い振袖を用意しよう。』


育三郎の言葉に源一郎も目を細めて喜んだ。


『差し出がましいと思いますが、工場をお閉めになられるならご自宅をリフォームしては如何ですか?そうすれば麗もこのみも伺えるのではないかと思うのですが。』


育三郎と幸代も高齢でバリアフリーでない古い家は危険過ぎる。


『実は私が引退したら、若い人に今ある機械を譲ろうと思っていたのです。ただ、今の若い人にはあまりにも古い機械なので、少し整理を出来ればと考えていたのです。』


『それは良い考えです。失礼でなければご自宅を拝見させて戴けないですか?』


源一郎と育三郎の息は合う様だ。



食事が終わり、市街地にある祖父母の自宅に移動する。


このみにとって生まれて初めての母の実家訪問である。


狭くて車イスは入れないので、麗と頼子、リカルドは外で待っている。


『ノコギリの屋根ってこうなっているんだ。』


育三郎の工場も三角のノコギリ屋根で窓から明かりが射し込んでいる。


着物を織るための大きな機械が並んでいるが、今使用出来るのは一部だけだそうだ。


『狭くて危ないですね。お部屋も拝見して宜しいでしょうか?』


工場と住居はつながっているが間口が狭く、段差も大きい。


『良かったら康子さんとこのみを戴く代わりに、無償でリフォームさせて下さい。また、若い人がここで仕事が出来るスペースも作りたいと思います。』


『お父さま。』


『どうした、このみ?』


『その若い人にというお話ですけれど、学校に将来服飾デザイナーになりたいと言う先輩がいるのですが。』


このみの言葉に源一郎はピンと来た。


『萌絵くんと奈々くんか?』


文化祭のメイド喫茶対決では源一郎はこのみのクラスと萌絵たちのクラスを引き分けと評価していた。


『お父さまはなんでもお見通しなのですね。この機械や場所が萌絵さんや奈々さんのやりたい仕事に合うかは分かりませんが、お話をしてみても宜しいでしょうか?』


『まずはおじいちゃんに聞きなさい。』


『このみの友だちか。一度会って話を聞く事にしよう。』


このみと源一郎の話を聞いていた育三郎が直ぐに答えた。


『受験生なので今すぐは無理ですが、お話はしておきますね。』


『そうだ、ばあさん。打掛けは出せるかな?』


『はいはい。』


幸代が奥の倉庫に行き、桐の箱を持ってきた。


『わあ、きれい!』


金襴緞子の打掛けを見たこのみはつい大きな声を出した。


『ほぼ1年掛けてここまで仕上げたが、まだ少し掛かるのでリフォームの件はこれが完成したらお願いして宜しいですか?』


『分かりました。貴重な建物と機械でしょうから気を付けて取り掛かります。』


こうして康子と育三郎、幸代の関係は雪解けした。

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