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15年ぶりの再会

『ワタクシ、この度康子さんと再婚をする事になった今井源一郎の娘で麗と申します。』


『失礼だが、その車イスは?』


『事故で脛椎をやられてしまいましたの。』


麗と育三郎が中心となり話が進む。


『隣は妹さんですか?』


幸代が遥を見て尋ねた。


『今井家で働かせて戴いてます西山遥と申します。今日は麗お嬢さまのお付きで同行しております。』


『貴女、中学生よね?』


『おばあさま、元はと言えば私が原因で父から養育費が入らなくなり、女性になるための手術の費用も掛かるので今井家にお願いをして働いていたのです。それがきっかけで再婚する事になり、遥さんが代わりに働いてくれると申し出てくれたのです。』


『なるほど、いろいろ細かい事情がある様だが、全ては丸く収まった訳だな。』


『ではこのみさんは今井さんのお嬢さまになる訳ね。』


『は……はい。』


祖母からお嬢さまと言われてこのみは照れた。


『それで、急にここを訪ねて来たのはどうしてだ?』


やはり長年の蟠りはあるのだろうか?


『私、生まれてずっとおじいさま、おばあさまに会った事がございませんでした。先日、あるお年寄りの方の死に接する機会がありまして考えたのです。母の結婚式におじいさま、おばあさまを呼ぶ事が出来ないだろうかと。』


『なかなかこのみは優しい子の様だな?しかし、順番が間違っている。康子が直接来るべきではないかな?』


『おじいさん!』


育三郎の言う事はもっともである。


筋を通さずに結婚式に参列は出来ないのだ。


『承知致しました。ワタクシが責任を持って康子さんを説得致しますわ。』


『お姉さま?』


本来なら実の娘である自分が説得するべきなのに、麗が買って出るとはとこのみは思った。


『このみさんも言いにくいでしょうし、ここは姉のワタクシにお任せ戴けませんでしょうか?』



『ただいま帰りました。』


祖父母との会話を終え、3人は帰宅した。


『お帰りなさいませ。今日はどちらへ行かれたのですか?』


『お買い物です。お母さまへのお土産もございますわ。』


お土産はアリバイである。


『お母さま。今度はお母さまもご一緒に如何ですか?だいぶ紅葉が見頃の様ですし。』


『紅葉ですか?良いですね。』


康子も乗ってきた。


『来週の日曜日は大丈夫でしょうか?』


『私はこの通り、予定はありませんのでいつでも結構です。』


ふたつ返事で決まり、翌週を待った。



日曜日になった。


『旦那さまもご一緒されるのですか?』


『うむ。麗から話は聞いたが、私も行くべきだろう。』


康子にはまだ祖父母と会う話はしていないが大丈夫だろうか?


『今日は上西くん、悪いが留守番をしてくれ。リカルドと遥くんでは心配だからな。』


遥の留守番が心配なのではなく、リカルドが遥になにかしでかさないかの心配だった。


『畏まりました。最近植木の手入れが滞っておりますので良い機会です。』


『遥くん、寂しいだろうが頼んだぞ。』


『畏まりました、行ってらっしゃいませ。』


近頃は遥もすっかり慣れて、一通りの仕事は任せられるほどになっている。


リカルドの運転で一行はK市を目指した。


車でK市に行くには高速道路だとかなりの遠回りとなるので、利根川の橋を渡り、I市から真っ直ぐ県道を進んでいく。


『紅葉の名所ってどちらへ行くのですか?』


行き先を聞いていない康子は、この道が自分の実家へ行く方向なので焦っている。


『上西がK川の上流が良いと調べてくれました。上流のU湖にあるお食事処の予約もしてあるそうです。』


『K川……。』


渡良瀬川の支流であるK川はU湖から南下し、市街地の康子の実家辺りで進路を東に変え渡良瀬川に合流する、K市民には馴染みの深い川である。


車はK市に入ると、三角屋根の古い建物がいくつか見られる。


『ノコギリの歯みたいですね。』


自分の田舎のはずだがこのみには初めて見る風景だ。


『あれは窓の部分から光を取り入れて織り物の色を確認するのです。』


『康子さんはよくご存知ですね。』


康子が思わず解説してしまい、すぐに源一郎が反応した。


神社の脇を抜け、だんだん住宅が少なくなってくると回りの山々が赤や黄色に染まっているのがはっきり見える。


『こんなに近くなのに空気が全然違いますね。』


『良い場所ですね、康子さん。』


『は、はい……。』


康子はK市が自分の生まれ育った街だとは源一郎にもこのみにも言っていないが、二人が知っている様な話っぷりをするので気が気でない。


やがて車は大きなダムの脇を駆け上がり、湖の畔に到着した。


『コチラニヨヤクヲシテイマス。』


湖畔に立つ平屋の店は梅の屋という屋号の小さな店だった。


予約した小上がりには麗のための準備をしてあり、リカルドが麗を抱き抱えて座らせた。


『康子さんはビールで宜しいかな?』


『い、いえ。私は……。』


婚約者とはいえ、康子は源一郎にまだ慣れきっていないので、この様な時はつい恐縮してしまうのだ。


頼子も勧められてビールを頼み、運転手のリカルドはコーラ、麗とこのみはジュースを注文した。


飲み物が運ばれるのを待っていると、店のドアが開き育三郎と幸代がやって来た。


『あ……。』


康子が口を開けたまま、硬直してしまう。


約15年ぶりの再会であった。

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