康太、知香に会う
康太が中学校に来たのは初めてだったが、来年の春からは毎日通う事になる学び舎である。
華やかな飾りに包まれた校門をくぐり、受付を済ませた。
パンフレットを見るとクラス毎に様々な出し物があり、時代を反映しているのか障害者福祉をテーマに、車イス体験が出来るクラス等もある。
(三年生の教室から行ってみようかな?)
三年生の教室は3階にあるが、階段の脇には車イス用の昇降機があり、実際に車イスに乗って体験が出来る様である。
(この学校に障害がある生徒っているのかな?)
この時はまだその生徒と大きな関わりを持つとは康太も思っていなかった。
小学生には三年生の教室はレベルが高く感じて教室の前で尻込みしてしまった。
(一年生の教室に行こう。)
再び階段を降りて、一年生の教室に向かうと、知香のいる一年A組の教室には人だかりが出来ていた。
(なんだこれ?)
壁に[トランスジェンダー白杉知香来室11時半から]と書かれている。
(凄い有名人なんだな。)
とりあえず教室の中に入ってみる。
『いらっしゃいませ。小学生かな?』
女子生徒から声を掛けられた。
『あ、はい。来年入学予定の六年生です。』
『可愛いね。どうせ来年になったら学生服着るんだからセーラー服着てみない?』
髪も少し長く、可愛い顔付きなので似合いそうだとその女子生徒にセーラー服を勧められたが突然セーラー服を着ろと言われても心の準備が出来ていない。
『え?あ……なんか白杉さんのお話を聞いてみたくて来たんですけど。』
『ともち……白杉さんのお話?あと30分くらい待てるかな?今ならまだ席空いているから座って待ってて。お話終わったらセーラー服着てみなよ。』
生まれて初めての女装は来春進学する中学校のセーラー服だ。
席に案内された康太は胸の鼓動が止まらない。
空いていた席は直ぐに満席になり、その後も教室に人が集まってきた。
(これってみんな白杉さん目当て?)
立ち見の人もいっぱいになり、教室に入れない人も廊下から知香を一目見ようとしている。
突然廊下から拍手が上がり、人の波を掻き分けて女子生徒が教室に入って来た。
(白杉さんだ!)
その生徒は即席に拵えたコーナーに立って挨拶をした。
『こんにちは、白杉知香です。』
教室が歓声に包まれた。
(これが白杉さん……?普通の女子より女の子みたい。)
知香は集まった観衆に戸惑っていた。
『こんなに人が集まってびっくりしているんですが……えと、何か私に質問とかありますか?』
『スリーサイズ教えて!』
高校生の男子から声が上がった。
『すみません、ヒミツです。』
まるでアイドルタレントに対する質問だ。
『お肌のケアはどうしているの?』
今度は生徒の母親の様だ。
『おかあさんと一緒の化粧水と乳液を寝る前と朝にしています。』
中学生の男子といえばニキビ顔のイメージがあるが、知香の肌は滑らかである。
『男子と女子のどっちが好きですか?』
康太も好きになる対象が男子か女子かは多少関心がある。
『まだ恋愛とか分からなくて……ごめんなさい。』
残念ながら答えは出なかった。
『すみません、本人困っているのでもう少し本質的な質問にして貰えますか?』
下世話な質問が多いのでスタッフの生徒から注文が付いた。
『手術とかはどうするんですか?』
女子になるには手術をする必要があると康太も気付く。
『お医者さんの話では本来は20歳にならないと手術出来ないと言われていますが、戸籍は18歳になれば変更出来ると法律が変わったので高校三年生になったら手術も出来るかもしれないんです。それから戸籍の変更願いを届ければ3週間くらいで戸籍も女性になります。』
(手術をすれば戸籍も変えられるんだ。)
康太の心が揺らいだ。
生半可な気持ちではなれないが、自分も女の子になれるだろうか悩んだ。
『今日はありがとうございます。私は生徒会の仕事があるのでこれで失礼しますが、みなさん楽しんで下さい。』
知香が質問を打ち止めにして帰ろうとしたので、康太は焦った。
『あ、あの……。』
思いきって、手を挙げた。
『なんでしょう?』
(うわっ、勢いで手を挙げたけど、どうしよう?)
康太は意を決して知香に向かって言い放つ。
『来年、三中に入学する予定なんですが、僕も白杉さんみたいに女の子になりたいです。』
(言っちゃった……。)
回りの客を気にする余裕など全くなく、康太の目には知香しか入っていない。
『ごめんなさい、ちょっと時間をくれますか?良かったら1時に生徒会室に来て下さい。あと、ここでセーラー服着れるからそこのお姉さんに言って写真撮って貰ってね。後で見せて貰うから。』
知香から自分のセーラー服姿の写真を見たいと言われ、康太の胸は爆発しそうだ。
『良かったら高校生の先輩方もセーラー服着れますから着てって下さい。』
そう宣伝をして、知香は教室から出ていってしまった。
知香がいなくなると教室は静かになり、先ほどの女子生徒が声を掛けた。
『君、あんな大勢の人の前で女の子になりたいだなんて凄いね。お名前教えてくれる?』
『上田康太です。』
『私は志田雪菜だよ。ともちとは幼なじみで小さい頃から女の子の格好させて遊んでたの。康太くんはなんで女の子になりたいって思ったの?』
雪菜は優しく康太に尋ねた。
『あの、下級生の女の子とよく遊んでて……。それと、お父さんみたいになりたくないから……。』
『そうかぁ。康太くん可愛いし優しそうだからともち絶対喜ぶよ。さ、この中で着替えて。』
雪菜に案内され、康太は更衣室に入った。