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このみの職業体験

二年生は毎年、地元の企業などに出向いて3日間職業体験を行なっている。


『今回協力してくれる企業は約50社あります。希望する職種がある方はプリントに書いて提出して下さい。』


プリントには様々な職種の企業が書いてあり、その中から自分の希望する職種を記入する。


(知香さんは去年保育園に行ったんだよな。)


一学年上の知香は、保育士になる夢を見出だし保育園で職業体験を行なったが、このみの場合自分の置かれている立場がころころ変わってしまい、将来なりたい職業を考えている余裕はなかった。


書かれている職種は駅員、美容師、スーパーの店員、工場などの他、スイミングスクールの指導員やいちご農園というものもある。


(看護師も良いなぁ。)


毎月、病院通いをして看護師に世話になっているこのみは看護師を第一志望にして提出した。


看護師は特に女子には人気の職種だったが、このみは他の女子生徒二人と共に、地元の病院で3日間職業体験をする事になった。


『このみさんのナース姿、見てみたいですわ。ところでどちらの病院に行かれるのですか?』


『はい、森山記念病院です。』


『まあ、ワタクシの入院した病院ですわ。』


麗はそう言ったが、市内に大きな病院は3つくらいしかない。


『事故があって入院した時はワタクシ、絶望の淵にいましたの。バスケットが出来ない身体になってしまい、もう死んでしまいたいと思ったのですが、看護師さんが絶対に諦めないで、死んだらおしまいだと諭してくれたのですわ。おかげでこんな可愛い妹に出会えたのです。今でもその看護師さんに感謝ですわ。』


『その看護師さんのお名前は覚えていらっしゃいますか?』


今でもその看護師が病院にいたら、お礼を言おうと思った。


『たしか……原田さんと申したかしら?』


『原田さん?』


このみは原田と言う名前は聞いた覚えがある気がしたが、直ぐには思い出せなかった。



翌日、体操着を着たこのみは、同じく体験に来た藤田楓と木原穂花と共に森山病院に行った。


『おはようございます。今日から3日間職業体験をします、上田このみです。』


『あら、上田さん?』


ナースステーションで挨拶をすると、応対してくれた看護師長はこのみを知っている様である。


『私は看護師長の原田美子です。原田美久の母親って言えば分かるかな?』


『あ、美久さんのお母さん!……ですか。後、以前姉が大層お世話になったと申していました。』


原田美久は知香の同級生で、美久自身も看護師を目指している。


『上田さんのお姉さん……ですか?』


美子の記憶にはなかった。


『あ、失礼しました。来年の春に姉となる今井麗の事です。』


すでに家庭内では姉妹として当たり前に暮らしているが、まだ正式には麗の妹ではない。


『あの今井さんの?凄いわね。麗ちゃんもだいぶ変わったって美久から聞いたけど、元気なの?……あ』


後ろに並んでいた後輩看護師たちからの冷たい視線に気付き、話を戻す。


『みなさんには今日は午前中、館内を案内します。午後はナース服に着替えてもらって、入院患者さんを一緒に診てもらいます。宜しいでしょうか?』


『はい。』


このみたちは美子の案内で館内を回る。


1階は朝から診察待ちの患者でいっぱいだった。


『1階は受付、会計、薬局と診察室があります。診察室は内科、外科、小児科、心療内科、整形外科に分かれています。』


待っている患者の多くはお年寄りだが、幼児や小学生、松葉杖を付いて歩く若い患者もいる。


『この奥はあなたたちには刺激が強いかもしれないけどしっかり感じとってね。』


案内されたのは霊安室だ。


『亡くなった患者さんは一時的にここに運ばれるの。葬儀屋さんに連絡をすると霊柩車が迎えに来てご自宅か祭場に移動する間ね。』


『師長さんはたくさん亡くなった人を見ているんですか?』


『この仕事を長くしているとね。お年寄りだけでなく、事故で病院に運ばれた患者さんや、小さい子も見たわ。そういう時は本当に辛いわね。』


かなり重い仕事なのだとこのみたちは思った。


『うちの子もね、小さい頃から看護師になりたいって言っているんだけど患者さんが亡くなった時は家に帰って必ず言うの。この仕事は辛い事の方が多いから。』


美久が看護師になるのは親としても嬉しいが、現実の厳しさに耐えられるかという問題もあるのだ。


『私は祖父がここで亡くなったので覚えています。』


穂花が言った。


穂花の祖父は長く入退院を繰り返し、入院時に看護師を見て自分も憧れを持った様だ。


『亡くなった祖父の顔が凄く穏やかだったので、喜んでいたと思いました。もし自分が看護師になって亡くなった患者さんを送る時もそんな感じで送れたらと思います。』


凄くしっかりした考えを持った穂花を見て、なにも考えていない自分をこのみは恥じた。


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