初めてのお着物
文化祭の翌日は月曜日で振り替え休日である。
このみと康子は朝から頼子の着付け指導を受けていた。
足袋を履き、下着にあたる肌襦袢と裾よけを付け、さらに長襦袢を着る。
最近は肌襦袢と裾よけが一体となった着物スリップもあるが頼子は基本から教えている。
『まず、今日は初めてですから感覚を掴んで下さい。』
着物はなんといっても紐を多用する。
着付けに慣れると腰紐3本程度でも着られるが、体型によって補正が必要な時などは本数が多くなる。
『キツくないですか?』
『はい。』
最近は締め付けないコーリンベルトなどが主流であるが、あくまでも頼子はこれが本来の着付けと言った。
このみは紅葉をあしらった鮮やかな朱色、康子は菊の模様の着物を着付けてもらう。
『二人ともお似合いですよ。次回はご自分で帯以外は着付けられる様にしましょう。』
徐々にハードルを上げていく様だが、このみは洋服より動きの取れない着物の方が女性の美しさを強調出来ると実感した。
『おはようございます。……このみお嬢さま、きれいです。』
10時になり遥が来るとまずこのみの着物姿に驚いた。
『着心地は如何ですか?』
『最初は苦しかったですが、だいぶ慣れてきました。今日は1日着物で過ごしてみます。』
『着崩れはみっともないのでくれぐれもお気を付け下さい。』
長い時間着続けるとどうしても着崩れてしまうが、自分ではまだ直せないのだ。
『今日は昨日遥さんと赤坂さんに書いて戴いた似顔絵を飾ろうと思いましたが、遥さんお願い出来ますか?』
『え?私が飾るのですか?』
もとよりお嬢さまがやる事ではないが、このみはわざと遥に言ってみた。
『遥さん、お嬢さまの命令は絶対ですよ。』
頼子が叱る。
『しかし、赤坂さんが描いた麗お嬢さまの絵は素晴らしいですが、私が描いたこのみお嬢さまの絵は見るに耐えられない仕上がりですから。』
『本来なら口答えは許されませんが、そこまで言うなら遥さんの絵を見てみましょう。』
遥が筒に包まれた2枚の絵を出し、康子と頼子が確認する。
『まあ。』
『これは……。』
遥は恥ずかしさで手で目を覆った。
『麗さんの絵はとても素晴らしいですが、このみさんの絵も上手く特徴を捉えてますわ。』
絵の上手さより個性的なところを康子も頼子も評価した。
『遥さん、是非お飾りしましょう。旦那さまも喜びますよ。』
遥は仕方なく2枚の絵を延ばして額に入れた。
『もうすぐ上西が帰って来ますので、お願いしましょう。』
今日は麗は学校なので上西は学校まで送りに行っている。
上西が戻り、壁に額を飾る。
『良いね。それぞれ違うのが面白い。』
上西にまで言われ、遥は開き直るしかなかった。
今日は家庭教師も来ないので、昼ごはんの後はのんびり過ごしていた。
『せっかくのお着物ですから、日本のお遊びをしてみては如何でしょうか?』
頼子が用意したのはおはじきである。
『遥さん、懐かしいですね。』
このみは放課後見守り隊にいた時、学校で誂われていた遥を励ますためにおはじきやお手玉を覚え、一緒に遊んだのだ。
『このみさんには私が教えたのですよ。』
康子もこのみから女の子の遊びを聞かれて教えたのでみんな懐かしい思い出があった。
おはじきに飽きると頼子は百人一首を出してきた。
この家にはなんでもあるみたいだ。
『麗お嬢さまも小学生の頃はよくお遊びになられました。』
車イス生活になる前の話である。
『全部の札を使うのではないのですね。』
一対一で100枚ある札のうち25枚づつ使うので半分は空札となる。
25枚の札をそれぞれ並べ、読み手が読んだ札を取るのだが、札には読み手が読んだ句の5・7・5・7・7のうち下の句の7・7
しか書かれていないので知らない短歌だと下の句まで読まれないと分からないのだ。
頼子が読み手となり、康子、このみ、遥が交互に対戦するが札を取るまで時間が掛かる。
『普通のかるたより奥が深いです。』
頭も目もかなり疲れたところでインターホンが鳴った。
『はい、どちらさまでしょうか?』
『大森いずみです。麗さんにお貸しする本を持って来ました。』
遥といずみは放課後見守り隊で一緒だった事もあるし昨日は麗たちと遥の教室に来ていたから分かるが、本の事は聞いていない。
『麗お嬢さまは学校に行かれております。』
このみは家にいるが、いずみは麗に会いに来たと言ったので余計な返事は言えない。
『どなたですか?』
機転を利かせて頼子がこのみに聞こえる様に大きな声で遥に聞いた。
『はい、大森いずみさまが麗お嬢さまとのお約束という事で参られました。』
『いずみさんですね。私のお友だちでもありますので宜しかったらお通しして下さい。』
セキュリティの問題もあるのでいちいち面倒臭いのだ。
遥の案内でいずみがリビングに入ってきた。




