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メイド喫茶対決の行方

このみはいずみに昇降機の鍵を渡し、教室に戻った。


このあとこのみはメイド服に着替え、麗や知香が来るのを待つ事になる。


文化祭も2日めの終盤を迎え、どのクラスもだらけムードになっている。


(なんか荒れてるな。)


二年C組も一見ちゃんとやっている様だが、このみは危機感を募らせていた。


(これではお姉さまや知香さんには見抜かれてしまう。)


真性お嬢さまの麗や準備中の視察でも厳しく減点した知香の目にはちょっとした気の緩みが命取りになると思った。


『古谷さん、ちょっと。』


このみは学級委員の美奈を呼んだ。


『ちょっとみんな弛んでいるみたいだから、ローテーションを変えた方が良いと思う。』


『今から?』


自分の出番がない生徒は他のクラスの展示を見たり自由なのだ。


『今いる子を全員下げて。田中くん、村田くん、安田さんと古谷さん、それと私の5人で最後までやるよ!』


この5人は今井家で直接指導を受けていたメンバーだ。


『分かった、みんな呼ぶよ。』


このみが珍しく攻めの姿勢を見せ、美奈もこのみに応じた。


勝ち負けもあるがプロのメイドとしての集大成を姉や尊敬する先輩に見せたいという思いがあったのだ。


メイド服に着替えたこのみは深呼吸をして知香たちを待った。


その間にも客が来て美奈たちは懸命に接客をしている。


『いらっしゃいませ。』


(来た!)


知香たち一行が教室に入って来た。


『田中くん。』


このみは自ら接客に行かず、田中を付かせた。


田中は女の子っぽい体型だが声が低い。


緊張した面持ちで田中がオーダーを取りに行く。


『いらっしゃいませ。』


田中は女性では出せない低い声で言った。


『知香さん。』


『はい。』


知香も麗もこのみが田中を二人の席に付けた理由を理解した。


声は低いが無理に女性っぽく高くするのではなく接客を受ける側が一番心地よく感じる高さをこのみと田中は練習していたのだ。


『たぶんあの男子、女の子になりたい訳じゃないと思うけど、素質は充分ありますね。』


女装男子が一番苦労するのは声である。


しかし、無理に高い声を出すより相手が違和感なく聞こえるトーンを堂々と話す方が自然なのだ。


『あれ、男の子なの?』


知香やこのみを見て目が肥えているはずのいずみも迷った。


田中の接客は麗が見ても知香が見ても完璧なものだった。


『このみさんに脱帽ですわ。』


自ら接客をするのでなく、田中を付かせたこのみに麗も知香もこのみのメイドとしてのスキルの高さを感じるのだった。


このみは麗や知香を見て軽く微笑んだ。



文化祭の閉会式が始まり、知香が最後の挨拶をする。


『みなさん、お疲れさまでした。今年は例年以上に盛り上がったと思います。生徒会も只今を持ちまして新しい執行部に代わりますが来年以降ももっと盛り上がる様、期待しています。ありがとうございました。』


引き続いてメイド喫茶対決の結果発表となる。


これは知香の発案のため、生徒会長特別賞として表彰されるのだ。


新しい生徒会副会長の村田義人が壇上で発表する。


『厳正な審査の結果、メイド喫茶対決の勝者は二年C組に決まりました!』


最後のこのみの執念が実った形になった。


発表したしおりは自分のクラス故に複雑な顔をしている。


学級委員の美奈が壇に上がり、知香から表彰状をもらい受けた。


『上田さん、良かったね。』


『はい。みんなも頑張ってくれたからです。』


正直、このみは負けたと思っていた。


準備のうちに知香から減点2をもらい、父・源一郎の評価も同点で華やかさで劣る二年C組に勝ち目はないと自己判断したのだ。


しかし、知香が視察した2日めの終盤は他のクラスもだらけムードだった様で、帰り際に麗から三年C組の態度は酷かったと聞いた。


もし、ローテーションを崩して立て直さなければ二年C組も評価が低いままで逆転は不可能だったと思う。


三年C組は賞を貰えず、個人賞としてクラス全員の衣装を作った望絵と奈々が選ばれた。


大賞はシンデレヲの劇をやった三年A組、企画賞は遥がいる一年B組だった。


閉会式が終わり、生徒たちは片付けのため教室に戻った。


『おめでとう!』


『やったね。』


祝賀ムードの中、このみはやりきった思いと一抹の寂しさを感じていた。


(これでもうメイド服を着る事はないんだな。)


明日からは習い事をしながらお嬢さま教育を受けなければならない。


このみにとってはメイド服は戦闘服であり、自分の一部として機能していたパワードスーツの様なものだった。


丁寧にメイド服を畳み、衣装箱にしまいながらこのみは小声で言った。


『ありがとう。』


涙は流さなかった。


メイドだった頃は頼子に叱られる度に悔しくて流した涙は見せない。


そう誓ってこのみは衣装箱を閉じた。

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