お姉さまといっしょ
文化祭の2日目は麗が上西夫妻と共に学校にやって来て、このみは受付で出迎えた。
『ようこそお姉さま。』
『このみさん、昨日みたいにメイド服はお召しではないのですか?』
麗は昨晩、源一郎からさんざん文化祭でのこのみの話を聞いていたのだ。
『お姉さま。あのメイド服で一日中校内を歩き回る訳には参りません。』
このみのロングメイドだと廊下を歩くだけでも邪魔になる。
『今日は午後1時からの担当ですので後ほどお見せ致します。』
このみのメイド姿は以前は毎日の様に見てきた麗たちだが久し振りであるし学校という違う環境なので麗は楽しみにしていた。
『お姉さま、知香さんの劇が始まりますので体育館に急ぎましょう。』
知香のいる三年A組の様に劇をやるクラスは近年なかったので、部活動との兼ね合いから両日共に朝一番の枠である。
そんな悪条件ながら、前宣伝の効果で体育館には多くの観客が集まっていたが、麗は車イスなので前もってスペースを空けてもらっていた。
『今井さん、お元気そうね。』
『浅井先生、ごきげんよう。先生もお元気そうでなによりですわ。』
在学中に世話になった養護教諭の浅井に声を掛けられた。
『上田さんが義妹だなんて職員の間でも凄く話題になっているわよ。苛めたりしないでね。』
『こんな可愛い妹、苛めたりしませんわ。』
奇しくもこれから演る三年A組の劇はシンデレラであるが、知香を主役にするために義妹ではなく義弟という設定で、お婆さんの魔法で女性化をする内容に変更している。
『知香さん、さすがですわね。』
『シンデレラのドレス、萌絵さんが知香さんのために作ったそうです。最近あまり仲が良くないみたいですけど。』
『あら?あれだけいちゃいちゃしておりましたのに。』
知香と萌絵は異色のカップルで親戚も公認の仲であるが、夏休みはほとんど会わないなど最近は陰りをみせ始めている。
『萌絵さんのクラスとこのみさんのクラスがメイド喫茶で闘うそうですわね。』
『はい、萌絵さんと奈々さんの二人でクラス全員分のメイド服を作ったのです。昨日、お父さまが絶賛されておりました。』
このみとしては、源一郎がイーブンと評価したのが気になって仕方がない。
『ワタクシも贔屓はしませんわよ。お相手が萌絵さんたちですから。』
このみは案内するのを止めようと思った。
劇が終わり、知香がシンデレラの衣装のままでこのみたちの前にやって来た。
『麗さん、わざわざありがとうございます。』
『知香さん、お似合いですわよ。劇も楽しく観賞致しましたわ。』
『本物のシンデレラを前にしては影も薄いです。』
知香はこのみを見て言った。
『もう、知香さん!』
『私も着替えたら生徒会の見回りがあるから一緒に行きませんか?』
知香が直ぐ話を切り替える。
『お願い致します。お待ちしておりますわ。』
程なくして知香が制服に着替えて来た。
『いずみちゃん!』
知香は2年前の文化祭で初めて女装した時に一緒に歩いたいずみを連れて来た。
『こうちゃん……じゃなくてお嬢さま、こんにちは。』
『いずみちゃんまで……。いつも通りで良いわよ。』
知香にいろいろ言われたに違いない。
『いずみさんは来年から中学生なのですね。』
『はい。出来ればバスケットボール部に入りたいと思っています。姉やチカねぇから麗さんのバスケへの想いを聞いていましたし、麗さんの映像を観て是非と思ったんです。』
『まあ、嬉しいですわ。ワタクシなどのプレイにそう思って戴けるなんて。』
車イスバスケットボールを始めて一年が過ぎ、若手の注目選手として知られるようになった麗だったがまだ自分のプレイには納得がいかないのである。
『あの、イスバスの今井選手ですよね。』
麗といずみの会話に先生と思われる男性が声を掛けた。
『はい。失礼ですけれど、貴方は?』
『私は今年からこの三中に赴任した水谷と申します。社会科を担当していますが、バスケ部の顧問でもあります。今井さんの話は聞いています。在学中は本当に申し訳ございませんでした。』
水谷は自分の赴任前に起きた不祥事で麗に障害を負わせた事を詫びた。
小学生の頃からバスケットの有力選手だった麗は、チームメイトの妬みによって事故に遇い脊髄損傷の重症を負ったが、当時の顧問は事件を表沙汰にしない様に画策し、麗は泣き寝入りをしたのである。
『今の生徒は生徒会長の白杉さんたちの啓蒙もあって今井さんの事をみな偉大なOBと尊敬しています。これから紅白戦を行なうので是非観戦して下さい。』
『知香さん、また余計な事を。』
麗は知香を睨んだ。
『私は別になにもしていないですよ。ただ、イスバスの今井選手の事教えてって言われたから凄いって言っただけですから。』
知香が言うまでもなく麗は車イスバスケットボールの有名選手に成長しているのであった。
『どうせならイスバスの手本でも見せたら良いんじゃないですか?』
『それは良い!今井さん、是非お願いします。』
知香の発案に水谷が直ぐ食い付いた。
『もう、知香さんたら。』
麗は苦笑いしながらもやる気を見せた。




