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このみの習い事

2学期が始まって体育祭や文化祭などの学校行事が忙しくはなっても、このみの家庭教師による勉強は続いている。


『だいぶ力は付いてきましたし、最初の頃と違ってやる気もあるので教えがいがあります。』


広田先生にはそう評価されている。


平日は夕方5時から2時間であるが、効率的な指導により学力は向上し、学校の授業も楽しくなってきた。


『では今日はこれで。』


『ありがとうございました。』


お辞儀をして広田先生を見送ると、麗が車イスのままこのみの元に来た。


『お勉強お疲れさま。』


『お姉さま、ありがとうございます。』


『今日はこのみさんのためにお父さまが早くお帰りになっていますわよ。さあ、お食事に致しましょう。』


今日はこのみの誕生日である。


このみは麗の車イスを押して、ダイニングテーブルに着いた。


普段は帰宅が遅い父の源一郎も秘書のリカルドも先に座って待っている。


頼子がケーキをテーブルの中央に置いた。


『このケーキはお母さまがお作りになられましたのよ。』


去年までは母子二人しかおらずショートケーキを買っただけでもちろん蝋燭などはなかったが、今年は母の手作りチョコレートのホールケーキで14本の蝋燭が乗っている。


頼子が火を着けリモコンで部屋の電気を消す。


『宜しいのでしょうか?』


『良いですわよ。』


このみが勢いよく息を吹き掛けて全ての蝋燭の火が消えた。


このみが誕生日のケーキの蝋燭を消したのは初めてだ。


『このみさん、おめでとうございます。』


『ありがとうございます。』


頼子がケーキを切って皿に取り分けてくれた。


食事が始まり源一郎が細長く小さな包みをこのみに差し出す。


『お父さま、これは……。』


『開けてごらん。』


このみが丁寧に包装をはがし、箱を開けるとネックレスが出てきた。


『わあ!素敵です。』


さっそくネックレスを着けてみる。


『お父さま、如何でしょうか。』


『うん、よく似合っているよ。』


『私からはこれを。』


今度は康子から紺色のショールが贈られた。


『今はまだ暑いですが、これからは日に日に寒くなってまいります。お勉強の時に身体を冷やさない様に。』


『お母さま、ありがとうございます。』


ショールには母の愛が込められていた。


『ワタクシからもどうぞ。』


麗からは腕時計のプレゼントが渡された。


有名なブランドのものだと分かる。


『このみさん、それはワタクシの腕時計とお揃いですのよ。』


そう言って麗が腕を上げて自分のしている腕時計を見せる。


『お姉さま、嬉しいです。』


3人のプレゼントはそれぞれが高価なものであるが、このみはそれ以上に3人の愛情を感じていた。


『時に、このみはだいぶ勉強を頑張っている様だが。』


源一郎が話を切り出した。


『はい。お陰さまでだいぶ理解出来る様になりました。』


このみは素直に感謝した。


『勉強も良いが、習い事を始めてみればどうかと思うのだが。』


習い事など、生まれてこのかたなにもした事がない。


『麗の様にピアノでも出来れば良いのだが。』


麗は物心が付いた頃からピアノを弾いている。


『さすがに今からピアノを覚えるのは大変です。』


中学生からでも決して遅くはないのだが、楽器は小さいうちに覚えた方が良い。


『焦らずゆっくり習えば良い。別にもうひとつ、やってみたい事はないか?』


やってみたい事だなんて少し前までそんな余裕のない生活をしてきたのだ。


『……特にございません。』


『でしたら、茶道や華道などは如何でしょうか?』


麗が勧めたのは日本の伝統文化である。


『ワタクシも子どもの頃から一通り学びましたのよ。このみさんはたまに気を抜くと男の部分が出てしまいますので宜しいかと思いますの。』


麗の目にはまだ完璧ではないと映るらしい。


茶道も華道も着物を着て行なうので背筋は伸びるし着付けも覚える事になる。


『分かりました。』


『旦那さま、お願いがございます。』


『康子さん、なんでしょうか?』


源一郎はこのみには呼び捨てにしているが、康子に対してはまださん付けである。


『私もこのみさんと一緒に勉強をしたいのですが。』


(えっ?お母さんも?)


『うん、それは良い。康子さんも付き合いが増えていくだろうし強力なライバルが一緒ならばこのみも張り合いが出るだろう。』


着付けに茶道に華道だなんて覚える事が多すぎる。


『まずは着付けを覚えると良いですね。僭越ですが、私が指導致します。』


話をずっと聞いていた頼子が言った。


『頼子さんが?』


『頼子さんは茶道も華道も一通りやられていますのよ。』


『師範ではないのでそちらは教える事は出来ませんが、まずはお着物を着れなければ始まりません。』


着物には興味があるが、頼子の厳しい指導を受けなければならないとは気が重い。


このみは康子を見たが、康子もばつが悪そうな顔だった。





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