このみの接客指導
体育祭の振り替え休日となった月曜日、今井家に二年B組学級委員の村田義人、古谷美奈、生徒会の佐藤しおりに加え、各班の班長など10人が集まってメイドの接客訓練を行なう事になった。
『奧さま、このみお嬢さま、頼子さん、おはようございます。』
勝手口から来た遥が挨拶をした。
『あら、遥さん。ずいぶん今日は早いですね。』
今日は平日なので麗は学校に行っていて上西も麗の送りの為にいないが、頼子は家で一緒に接客指導を手伝ってくれる。
『私がいつもみたいにのんびりしていたら首になって二年生の方に代えられてしまうので早めに来ました。今日は宜しくお願い致します。』
遥のお尻にも火が着いた様だ。
インターホンが鳴り、村田たちが来た様だ。
『それでは遥さん、二年生の皆さまをお迎え宜しくお願い致します。』
『畏まりました、お嬢さま。』
今日は頼子がいるので普段の土曜日の様にリラックスした雰囲気はない。
遥が二年生たちをリビングに通し、お茶を淹れる。
『私、メイドさんからお茶を淹れてもらうなんて初めて。』
安田真理はこのみがメイドをしている時からこの様なおもてなしに憧れていた。
『私も自分でメイド服を作ったり着たりしたけど本物のメイドさんって違うわぁ。』
服飾部の沢口実花も喜んでいる。
『おはようございます、このみの母です。いつもこのみがお世話になっております。』
『上田さんのお母さん……?』
授業参観などでこのみの母・康子をみんな見た事があるが、雰囲気が違うのにおどろいた。
『皆さま、ごきげんよう。』
ロングメイド服のこのみが現れた。
『なんか違う……。』
着ているのはメイド服だが、このみが着ているとお姫さまの様な優雅さがある。
これには久し振りにこのみのメイド姿を見た頼子も驚いた。
『この2ヶ月でこのみお嬢さまも本当にお嬢さまらしくなりました。素敵でございます。』
このみは厳しい頼子から誉められ、恥ずかしかった。
『申し遅れました。今日みなさんに指導を致します上西頼子と申します。頼子とお呼び下さいませ。』
さっそく、男女に分かれて全員がメイド服に着替える。
小柄な男子生徒はそのまま着れたが、身体の大きい男子生徒用に新たに3着新規製作している。
『やっぱり恥ずかしいよ。』
『男子のみなさんにはこれからメイクを施します。』
そのままではあまりにも不恰好で高級感が出せなくなるので男子全員に本格的な女装をしてもらおうと言うのだ。
『えー?』
『田中さん、あなたはそのままの方が良さそうですね。』
3班の班長・田中陽祐は背格好もこのみと一緒くらいだし、髪も少し長めなので全然違和感がない。
『もしかして田中もそっちの方なのか?』
『違うよ!』
中学二年生なので、クラスの男子の中にそんな生徒は何人かいるが、田中の声は既に変声期が終わって低い。
『女子の方には男っぽさを隠すメイクを覚えて戴きます。当日はみなさんが男子の方に施して下さい。』
頼子がなぜ女装メイクなど知っているのか、このみは不思議に思ったが、強敵三年A組に勝つためには名前と一緒で頼子の存在は頼もしい。
メイクが終わり、ウィッグをかぶった村田らはそれなりに女の子っぽく見え、さっそくしおりが弄る。
『村田くん、可愛い~!』
『バカにするな!』
『村田さん。この服を着ている以上、あなたは女性でありメイドです。その様な言葉遣いは慎みなさい。みなさんもからかったりしてはいけません。』
頼子はぴしゃりと言い放った。
どこまでも徹底するのが頼子の教育であり、このみも遥もそうして仕事を覚えてきたのだ。
『あら、どなたかいらっしゃった様ですね。遥さん。』
『畏まりました。』
遥がインターホンの受話器を取り、応対した。
『お嬢さま、知香さまがお見えになられました。』
『知香さん?お姉さまではなくて?』
今日は振り替え休日なので、他の学校の生徒はいないと知っているはずだ。
遥が玄関に出向き、知香がクラスメイトの原田美久や高木たちを連れてやって来た。
『こうちゃん、久し振りのメイド服だね。』
『知香さん、連絡もくれないで突然どうしたんですか?』
頼子の目が光った。
このみは知香の前でつい普段の言葉になってしまったのだ。
『私たち、文化祭でシンデレラの劇をやる事になってね。本物のシンデレラを見て勉強しようという事で来たんだけど先客がいるみたいだね。』
リビングにはたくさんのメイドがいる。
『本物のシンデレラだなんていつもお話している様に知香さんのおかげですから。劇は知香さんがシンデレラ役をされるのですね?』
『成り行きでそうなっちゃったの。こうちゃんも萌絵たちのクラスとメイド対決だから力が入ってるね。』
メイド喫茶対決を最初に提案したのは知香である。
『知香さんたちには接客を受ける側になって戴きましょう。』
頼子がそう言って、しおりや高木たちは席に着く知香たちのイスを引く訓練から始めた。
最初に遥がサイドテーブルを引いてカップにお茶を注ぎ、知香の前に静かに置く。
次に田中が遥を真似てやってみるが、かちゃかちゃと音を立ててうるさい。
『音を立てない!』
直ぐに頼子から叱咤される。
『これはビジネスのマナーでも通用しますので覚えて下さいね。決して無駄にはなりません。』
頼子はそう言ってこのみや遥を教育した様に二年生たちを指導していた。




