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打倒A組!

秋晴れの週末、中学校では体育祭を迎えた。


体育祭は縦割りのクラス対抗となるので文化祭でメイド喫茶対決となる二年C組と三年C組は一時休戦となり、一年C組と合わせて共闘する。


『萌絵さん、おはようございます。』


『……おはよう……。』


このみは萌絵に挨拶をしたが、萌絵の目は充血していた。


体育祭よりメイド服を仕上げる方が大事なのだろうか、夜更かししたのが分かる。


『さあ、優勝目指して頑張ろう!』


三年C組の学級委員で体育祭ではC組の副団長を務める水尾ありさが叫んだ。


最初は個人種目があり、200メートル走、800メートル走が続く。


『借り物競争とか去年なかったよね。』


『ともちの発案だよ。運動が苦手な私でも体育祭を楽しみたいとか言ってさ。』


ともちとはこのみが尊敬している先輩の白杉知香の愛称で、主に中学校で新たに知り合った同級生から呼ばれている様だ。


『ありささんも借り物競争に出るんですね。頑張って下さい。』


このみは2種目後の100メートル走にエントリーしているのでまだ余裕がある。


『萌絵さん、知香さんとありささん、同じ組みたいですよ。』


このみは萌絵に声を掛けたが、萌絵は返事がない。


(寝てるのか……。)


最近の体育祭は熱中症対策で生徒の席もテントの下にある。


体育祭にあまり関心のない生徒にとっては昼寝にはうってつけの環境だ。


号砲が鳴り、借り物の紙を拾ったありさは一度知香を手招きしてなにやら叫んでいたが、知香は一目散に校長先生の方に向かっていき、ありさがこのみの方に走ってきた。


『このみちゃん、来て!』


『え?は、はい!』


なぜか、ありさがこのみを指名して一緒にゴールを目指す羽目になった。


『なんですか、借り物って?』


『これだよ。』


走りながらありさが紙を広げると[男の娘]と書いてある。


(借り物じゃなく人だし。これ知香さんが拾ったらひとりでそのままゴールするのかな?)


どうやら知香の借り物は校長先生の様である。


このみとありさは、運動音痴な知香と高齢の沢田校長に追い付き、4人はほぼ同時にゴールした。


審判が紙を確認して借り物が書いてあるものと間違いないと判断されゴールは成立した。


『同着ですが校長先生と上田さんの脚力を考慮して、A組1位!』


『えー、同時だったのに。』


同着1位でもおかしくないのに、2位にされてしまった。


『このみちゃん、ごめんね。きっと審判が校長と生徒会長に忖度したんだよ。』


ありさが悪態を付く。


『ありちゃん!人聞きの悪い事言わないでよ!』


(知香さんなら忖度もあり得るかも。)


このみは悔しいが仕方がないと諦め、次の自分の出番に備える。


休む間もなくこのみは100メートル走に臨んだ。


もともとこのみは知香と違って運動は苦手ではないし、まだ身体は二次性徴を抑えているだけで女性化をしていないからぶっちぎりで1位になった。


『凄いねぇ~、なんでリレーの選手にならなかったの?』


自席に戻るとありさから聞かれた。


『すみません。他のクラスからクレームが来たら失格になるかもしれないからって言われて自粛したんです。』


その辺の線引きは難しいところだが、体育祭で余計な争いをするより他の足が早い女子生徒にリレー選手を譲った方が良いと思った。


『残念だね~。B組はともかくA組には絶対負けられないから最後のリレーは最強メンバーでいきたいのに。』


まだ借り物競争の恨みがある様だった。


今は二年A組と三年A組は仲間だが、文化祭では敵同士となる。


(ありささん、敵に回すと面倒だな。)


このみはありさを今から戦々恐々とした。



『さあ、最後のリレーで逆転するよ!』


最後のリレーを残して、C組は1位のA組を僅差で追っていて、リレーで1位になれば逆転優勝するのだ。


号砲が鳴り、一年生の女子からリレーが始まった。


各クラスの選手たちは一進一退を繰り返し、三年男子のアンカー勝負となった。


『よし行け~!』


バトンを受け取った時、1位はA組の生徒だったがコーナーで膨らんでしまい一気にC組の生徒がトップに躍り出た。


『やったー、そのまま逃げ切れ~!』


C組のアンカーがゴールテープを切るかと思ったら、最後の最後でB組のアンカーに交わされて2位となった。


『ああ~っ、抜かれた~。』


1位ならば優勝は決定的だったので、このみたちは落胆した。


『優勝!A組。』


『借り物競争で同着でこのみちゃんがリレーに出てれば優勝だったのに!』


ありさの悔しがる姿は半端なかった。


『みなさん、ごめんなさい。力及ばず2位でした。文化祭は頑張りましょう!』


このみはありさの言葉が二年C組に対する宣戦布告に思えた。


ありさの頭の中はもう打倒二年C組なのだ。


(明日からみんな接客の特訓をしなきゃ。)


文化祭は自分の得意分野であり、言い出しっぺのこのみは絶対負けられない戦いだと決意を新たにした。



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