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お嬢さまの新学期

『お姉さま、おはようございます。』


今日から2学期が始まる。


市内の中学校に通うこのみと違い、通学に1時間以上掛かる麗の朝は早いが、その麗が家を出る前にこのみは起きて挨拶をした。


『このみさん、おはようございます。無理をしない様、今までと同じで大丈夫ですからね。』


麗は夏休みのスパルタ教育を乗り越えたこのみに気負い過ぎない様にとアドバイスを送った。


『ありがとうございます。行ってらっしゃいませ。』


頼子に髪をセットしてもらい、ダイニングルームに向かうと、まだ源一郎が新聞を読みながらリラックスしていた。


『お父さま、お母さま、おはようございます。』


『うむ、おはよう。このみも今日から学校だな。』


『はい、お父さま。』


食卓には今井家の朝としては珍しく和食であった。


『お母さま……。』


康子は今井家に来る前からどんなに忙しくてもごはんを炊き、味噌汁を作っていた。


『今日はこのみさんの大切な日ですから和食にしました。』


『康子さん、たまには和食も良いですな。』


まだ夫婦ではない源一郎と康子だが、一緒に暮らしている割にはまだぎこちない様な気がする。


『いただきます。』


懐かしい母の味だ。


自宅を出て、学校へは一人で歩いていく。


車イスの麗と違うので付き添いがいる訳ではなく、また1学期までは先輩の知香と共に学校に通っていたので中学生になってから一人で通うのは初めてであった。


学校を境に、以前住んでいたアパートとは逆の方向なので新鮮な気分だ。


『あれ?もしかして、このみちゃん?』


このみと同じ二年C組の中井さやかが声を掛けてきた。


『どうしたの、その髪型?それにこのみちゃん家こっちじゃなかったよね。』


さやかはなんでこのみがここに居るのか不思議そうだった。


『うん、お母さんが再婚する事になって、夏休みにこっちの方に越してきたんだ。』


このみが普通の会話をするのは久し振りであった。


『私んちその先だからさ、明日から一緒に行こう!』


さやかはとても明るくて、よく喋る子だ。


今までさほど会話をした事はないが、お互い嫌っている訳でなくただ機会がなかっただけだ。


『このみちゃん宿題全部やってきた?』


『うん、終わったよ。』


宿題どころか、連日勉強三昧だった。


『えー、凄い!私まだ残ってるのに。数学、後で見せて。』


『うん、早く学校に行かなきゃね。』


このみも少し寂しさを解消出来た。


学校に到着し、このみは宿題のプリントを渡した。


『先生に報告しに行くから先に教室に行ってて。』


『ありがと。』


さやかがプリントを確認してみる。


『このみちゃんってこんなに数学出来たっけ?』


数学に限らずあまり成績は良くないという印象があるが、プリントを見ると細かく解答が書いてあった。



『おはようございます。田口先生いらっしゃいますか?』


このみは担任の田口先生を呼んでもらった。


『おはよう。あら、どうしたの、その髪?』


校則に引っ掛からない程度に編み上げられた髪を見て田口先生は驚いた。


『はい、いろいろ報告しなければならない事がありまして。』


『始業式始まっちゃうから、とりあえず大事なところだけ言ってくれる?放課後改めて聞くから。』


田口先生は時計を見ながら言った。


『はい。実は母が再婚する事になりまして、夏休み中に引っ越しました。』


『あら、それはおめでたい……話で良いのよね?で、もう籍は入れたの?』


親の再婚話が必ずしも子どもにとって喜ばしい事であるか分からないので田口先生は慎重になった。


『来年の3月か4月になると思います。ですから二年生のうちは上田のままで大丈夫です。』


『引っ越したって事は一緒に住んでいるのよね?住所とお相手……お父さんになる人の名前、教えてくれる?』


『はい、今井……源一郎……。』


『ええーーっ!!』


名前を出せばたぶん先生は知っているはずだから驚くだろうとこのみは思ったが、予想以上のリアクションが返ってきた。


『今井さんって、上田さん今井さんのお家でアルバイトされていたわよね。あの豪邸の。』


学校には家庭の事情でアルバイトを認められていた。


『はい、なのでアルバイトは首です。』


このみは笑って答えた。


『首って言うよりあなた、3階級特進じゃない?それに、あの今井麗さんの妹さんになるわけ?』


麗が中学時代どんな生徒だったかはあまり聞いていない。


なにせ麗と一番親しかったのは知香だった。


知香がこのみに麗の悪口など言うはずがないのだ。


『はい、ちょっと厳しいけどとても優しい姉です。』


田口先生の印象は高飛車で誰とも会話をしないイメージしかなかったので優しいと聞いて驚くと共にこのみが馴染んでいる事に安心した。


『さ、もう始業式が始まるから行きましょう。』


田口先生とこのみは急いで体育館に向かった。

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