探しもの
仕事に出かけなきゃ
忙しい
とにかく忙しい
毎日思う
これじゃ、まるでミヒャエル=エンデのモモ
の中の…
中の…
なんだったっけ
時間を盗んで行くやつら
その状態だわ
少し前まで、所謂デスクワークをしていたのに、突然何かがワーっとなって、そのワーはどんなワーなのかわからないのだけれど、とにかくワーっとなって
「辞めます」
と退職届を出し、就業規則の中にあるひと月後に退職した
求人サイトの、肉体労働系でとにかく探しまくり、すぐに就職できたのはピッキングと呼ばれる仕事だった
夜勤日勤拘らなかったので、スムーズに夜勤になった
夜の8時には家を出て、その倉庫に向かわなければならない
とある通販サイトの倉庫だ
かなり大きく、セキュリティーもばっちりなわけで、おっちょこちょいの私には困ることが多い
ドタバタと、身支度を整えたりしていると、
「おい」
え?おい?
私は独り暮らしだ
テレビは点けていないし、幻聴?
それどころじゃない
もう時間が、ない
「おい、呼んでるんだ、返事をしろ」
幻聴ではないらしい
その声のする場所を探した
何故なら、その声は小さく、聞き取り難かったからだ
すると、テーブルの上に置いた、卓上鏡の端っこに、小さな小さな物質?
メガネがないとよくわからなかったので、メガネメガネと探し、かけてから見てみると、その物質は小人のような、いや、小人を見たことはなかったけれど、多分、小さい人間みたいな形をしているので、小人と言っていいような
ディズニーの何かに出てくるあの小人はまだ大きいな、と思うぐらいミニチュアだった
そうそう、シルバニアという小さなおもちゃみたいなものを見たことがあったが、シルバニアよりも小さかった
「ちょっとあんた、一体なんなの?人の家に勝手に入って!!どういうつもりなのよ!」
急いでいるし、不法侵入だよ!など思ったり、とにかく腹が立ってその小人に言った
「どういうつもり?人の家に勝手に?お前たちの方が、わが物顔してこの地球で好き勝手に自分の土地だの家だの言ってるじゃないか。はっちゃんちゃらおかしいぜ。けっ」
「はぁ~?何この態度の悪い小人は!!あんた、どういう育ち方したんだよ!」
「おまえさ、自分をちゃんと見てるのか?どういう育ち方だ?おまえはどうなんだ。毎日毎日、時間など有り余るぐらいにあるだろうに。寸前になってばたばたと準備して。どういう育ち方したんだ、おい!」
そう言われると…
確かに
両親に、子どもの頃から口が酸っぱくなるぐらい言われた
『あんたはどうしてギリギリになって物事を始めるの!どれだけ時間があったの?それなのに、時間がない、時間がないって。自業自得よ!』
何遍も何遍も言われたフレーズが、チクンと胸に刺さった
「あんたに言われる筋合いないわよ!あんた、泥棒だから!早く出てってよ!」
「泥棒だ?おまえ自分を知ってて言ってるのか?お前は盗んだことはないのか?え?」
「ないわよ!これは自信を持って言えるわ!」
「じゃあ、○年△月×日、そのとき付き合っていた彼氏との待ち合わせをすっぽかしただろ!あの彼氏は、5時間も雨の中待っていたんだぞ!お前は、時間泥棒じゃないか。それに、彼氏の心も傷つけたぞ、障害罪だな」
「ばかなことばっかり言わないでよ!!ふざけるな、この小人野郎!」
「おまえはな、本当にどんな育ち方をしたんだ。そんな言葉を使っていいと、育ったのか、こら!」
そう言われてまた、父に、
「いいか、決して人のことを悪く言ったりしてはいけないんだぞ。それは、どう思われる思われないじゃない、お前の中の問題だ。言葉が全てではない。でも、表現するには、言葉や文字が必要なんだ。だから、できるだけ表現をきれいにするんだ」
そう言われてきたことを思いだした
それは、時々思いだす言葉だった
「ごめんなさい、本当だね。小人の言うとおりです」
「なんだ、素直じゃねえか。よしよし、それでいい」
「はぁ?なんかむかつく、そう言われると!大体ね、あんた、ヘリウムガスでも吸ってるんじゃないの?その声、余計にむかつくのよ!」
「ヘリウムガス?ああ、太陽はな、ヘリウムとな…」
「何わけわかんないこと言ってんのよ!そんなのどうでもいいのよ、いいから出ていって、って言うか、あたしは仕事に行かなきゃいけないの!」
「どうでもいい?おまえはな、やっぱり間違っているぞ。太陽がどれだけのことをしてくれているか、わかってるのか、こら!!」
そう言われたら…
太陽がないと生きていけない
父はやはり、言った
『お天道さまにな、感謝できないやつにはなるなよ』
そんな風に
「ごめんなさい、そうね。太陽は、ありがたいよね」
「なんだ、また素直じゃねえか!よしよし、それでいいんだ。俺のこの声はな、仕方ないんだ。この小さな体ってのもあるけれど、なんとなくそれらしくしないといけねえからな。くくく」
はあ?くくく?
なんだって?それらしくだって?一体全体、どれらしくなんだよ!この小人や…
そう思っていたら
「それらしくってのはな、俺は宇宙から来たからな」
はあ?何、あたしが考えていたこと、御見通しってわけですか?
もう意味がわかんない!
「お前にわかるわけねえな。くくく」
はあ?もう、ほんっとに、にくったらしい!
時間が…時間が…
あ~あ
このままじゃ遅刻だ
「すみません、娘が体調不良で入院してしまいまして。点滴を打ってもらって、明後日ぐらいには出勤できるかと思いますので、はい、はい、ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願い致します。はい、失礼致します」
はあ???
何勝手に会社に電話してんのよ!!!
しかも、声がヘリウムガスじゃないじゃん!
「だから、俺は万能なんだよ、わかったか?」
「わかるわけないでしょ!もう」
でも、なんとなく会社に行かなくて済んだことにほっとした
正直、自分でも毎日地下2階~地上5階までの移動の繰り返しは、意味がない気がしていたのだ
毎日、行くことが嫌になってきていた
デスクワークもそうだった
こんなこと、必要あるのかな
じーっと椅子に座ってパソコンを叩いて
上司の階段認め印をもらって、書類提出
書類の下欄には、四角いマスがあって、そこに○○係長から始まり、△△部長までの決済をもらう
「だろう?な、おまえはじゃあどうしたらいいんだ?」
「どうしたら…どうしたら、いい?小人さん」
「なんだよ、おい。さん付けじゃん!いい子だ、いい子だ」
もう、むかつかなくなっていた
この小人、間違ってないって思ったから
「おまえはさ、これから考えるんだ。じゃあ、自分はどうすればいいのか、じゃあ、自分はどうしたいのか。な」
「うん、わかった。そうだよね。わかっていたの。でも、逃げていたのよ。ありがとう、小人さ…」
そこにはもう、小人はいなかった
意味もなく寂しくなって、私はしばらく泣き続けてしまった
本当は、寂しさで泣いたわけじゃないのかもしれないけれど
それから
数年経って、ふと小人のことが浮かんだけれど
「ありがとね、小人さん」
そう言って、また歩き出した
やっと、見つけたから