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第9話 決意

 「・・・ほら、これでも飲んで落ち着け」


 俺はあくみんに湯気が上がる暖かいコーヒーが注がれたマグカップを差し出す。

 これは宿屋の部屋に備え付けられているものだ。

 あくみんは震える手で受け取ってくれた。


 「・・・・・・ありがとうございます」


 その声には生気がこもっておらず、目もどこか虚ろだ。


 このようなあくみんを見るのは”二度目”だ。

 いつも皆を気遣っていて笑顔を絶やさない可憐な女の子なのに――――――――

 できればこんなあくみんを二度と見たくはなかった。

 今はそっとしておいてあげよう。それは過去に学んだことだ。


 


 「はぁ・・・・・・・・・」


 俺は宿屋のロビーにある長椅子に座り、ため息を吐いた。

 ここまでの距離は短いのにかなり歩いたような気がした。

 俺は頭を抱え込み、先ほどの出来事を思い返す。


 「どうして血なんか・・・・・・」


 繰り返すが<Fantasy Tale>では血などといったグロテスクな表現は再現されない。

 全年齢向けのゲームであるからだ。

 モンスターを剣で切ったときは血が出ることはなく、かつての〈Fantasy Tale〉と同じ表現であった。

 だからプレイヤーもそうなのだとばかり思っていた。

 

 他に気になる点は出血によるHPの減少。

 デバフに出血状態はある。

 バフと同様にアイコンが表示されて、出血状態であることを示してくれる。

 出血状態によるHPの減少は微々たるものなのだが、女性プレイヤーのHPは減り続けていたと思われる。

 HPゲージの意味はあるのだろうか?

 

 「検証が必要だな・・・・・・」


 それは痛覚、俺のこの身体の強度、出血とHPの関係を知るための検証だ。

 〈Fantasy Tale>ではダメージを受けたら少しピリピリと痺れるだけで身体には赤色のライトエフェクトがかかるだけだった。

 何か変化があるのか調べる必要がある。

 その方法は――――――――


 「ちょっと怖いよな・・・」


 俺は背中に掛けていた鞘を下ろして柄を握り、少しばかり刃の顔を出させた。

 これで自分の身体を傷つけるつもりだが、指を少し切る程度。

 

 「・・・・・・・・・ッ」


 人差し指を刃に当て、軽く力をいれて横に滑らせた。

 3ミリほどの深さでパックリと指が切れて、血が溢れてくる。

 そして、そのあとにやってくるじんじんとした熱い痺れ。

 慣れない料理をした時に誤って指を包丁で切ったとき以来の感覚だ。

 つまり、痛みを感じる・・・・・・。


 指を切って血が出ているのに出血状態のアイコンは出ない。

 HPゲージは数ドットだけ減っている。

 そもそも出血状態は特定のモンスターの攻撃を受けなければ発生しない。

 例としてはコウモリによく似たモンスターがプレイヤーの身体に噛みつく吸血のような攻撃。

 コウモリに似たモンスターのHPが回復し、プレイヤーは出血状態に陥る。

 

 「これは検証したくてもできないよな・・・・・・」


 もしかすると血の量が足りないのかもしれないが、男や女性プレイヤーのように大量出血させることなんてできるわけがない。これを今知ることはできなさそうだ。


 「あの、レイヤさん・・・・・・」


 突然の呼びかけに俺は身体をビクンとさせてしまった。

 振り向くと後ろにあくみんが立っていた。


 「あくみんか、どうした?」


 「その・・・宿に来ちゃいましたけど・・・モンスターを倒しに行くべきだと思うんです」


 「えっ!?」


 先ほどの光景を目にしたのに何を言っているんだ?、というのが率直な感想だった。

 

 「せっかくレイヤさんに買ってもらった装備無駄にしたくないですし、迷惑もかけたくないです」


 「ま、待ってくれあくみんは怖くないのか?死ぬかもしれないんだぞ!?」


 「もちろん怖いです・・・でも、あの時の非力な自分はもう嫌なんです!」


 後悔の念がこもった重いトーンだった。

 ”あの時”の事は俺も後悔している。

 あくみんは俺をじっと見つめ、その目には信念が浮かんでいるように思えた。

 

 「そうか・・・あくみんは決めたんだな・・・・・・」


 「はい・・・・・・」


 ”あの時”の事は俺たちの関係を一変させ、取り返しのつかないところまで行きそうになっていた。

 ここで否定してはおそらく二の舞になる・・・。


 「わかった。俺はあくみんを止めはしないさ」


 「ありがとうございます・・・・・・ってどうしたんですか!?その指!?」


 「ああ、これか?さっきのことを検証してたんだよ」


 「そんなことしたら駄目ですよ!指見せてください!」


 それほど大したことはないと思ったのだが、あくみんにはそれなりのケガに見えたらしい。

 あくみんは白い布を取り出して傷口に巻いてくれた。


 「・・・もうしないでくださいね、ばい菌が入ったら大変です」


 「ばい菌が入るのか不明だけどな。・・・それじゃモンスターを倒しに行くか」







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レイヤ 職業ソードマン Lv.5

【所属ギルド】果てなき幻影


【HP】39/45(+20)

【MP】31/31(+10)


【筋力値】19(+5)

【敏捷値】18(+5)

【幸運値】9(+0)

【魔力値】5(+0)


【攻撃力】23

【防御力】43

【回避率】0

【命中率】7


【装備追加効果】無し

【装備追加セット効果】無し

【装備追加スキル】無し


【称号】無し


【装備武器】イルダブルソード

【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング 

【装備ペット】無し


【習得スキル】スラッシュLv.2


【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 バタークッキー×3 薄い布の寝袋 回帰の結晶


【所持金】88MIL




  

 

 

 


 


 

 

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