表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/42

第8話 赤い液体

 「あああああぁぁ、誰か助けてくれえぇぇ!!!」


 女性プレイヤーの肩の傷を見て男は顔を歪ませ、悲痛な叫び声を上げている。

 女性プレイヤーは意識を失っており、肩からはどくどくと赤い液体が湧きだしている。

 肩の傷は一見しただけで相当な致命傷であることがわかる。

 噛み跡がついており、肉が深く抉られて白色の何かも見える。

 ウルフに噛まれたのか?

 いや、ありえない。<Fantasy Tale>ではそんな残酷な表現は反映されていないはずだ。


 「ど、どうして血が・・・・・・」


 あくみんは手で口を押さえてわなわなと震えている。

 その言葉通りその赤い液体の正体は”血”だ。

 地面に鮮血が水たまりのように溜まっている。


 「いや・・・でもありえないだろ・・・・・・」


 俺は呆然とその光景を眺めている。

 理解できていないのだ。

 止まった思考が徐々に動き出し、ひとつの単純な発想に至った。

 

 「・・・・・・・おい!ポーションを使え!」


 男は絶望を滲ませた双眸で俺に向かって言った。


 「そっ、それが駄目なんだ!使っても使ってもHPゲージが減り続ける!」


 「なっ・・・・・・!?」


 妨害効果デバフのひとつに継続的なダメージを受ける状態異常は存在する。

 しかし、それほどHPを削るわけではない。

 だからポーションを1個使えば事足りるはずだ。

 それなのに男は「使っても使っても」と言った。

 

 「あああぁぁ!HPがもうほとんどない!」


 男はそう言うが俺には女性プレイヤーのHPゲージは見えていない。

 パーティーを組んでいなければ見えないからだ。

 

 男はもうポーションを持っていないのだろうか?

 それならば俺のポーションを――――――――――――持っていない。

 節約のためMPを回復するポーションしか買わなかったからだ。

 だとしたら周囲にいるプレイヤーだ。


 「おい!誰かポーションをあいつに渡せ!」


 俺が叫んでも誰も動かなかった。

 見て見ぬ振りをしているわけではない。

 血に怯えて動けない者もいるが、駆け出そうとした者もいる。

 しかし、すぐに動きを止めてやるせない表情を浮かべている。

 

 これはきっと誰もポーションを持っていないからだろう。

 昨日宿屋にはたくさんの人が殺到していた。

 宿泊費で使ったのだ。

 だから、持っていない。


「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」


 男は鼓膜が破れそうなほどのひしゃげた悲鳴をあげてその刹那――――――――――――


 シュウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・


 そんな効果音とともに女性プレイヤーは消えていった。

 それはプレイヤーのHPがゼロになったら起こる現象だ。

 皆黙ってその光景を見ていた。

 

 俺は男の方を見る。 

 男は女性プレイヤーがいたその空間を手でまさぐっていた。

 すると思いつめたような顔をして、何かを呟くと男は無言で腰にあった短剣を抜き、

 胸のあたりを自分で刺した。


 ブシャアアアアアアァァァ!、と鮮血が迸る。

 


 「あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 

 おびただしいほどの血液を流し、男は激痛のためか絶叫する。

 その顔には血管が浮き上がり、表情筋を何度もピクピクと痙攣させている。

 どう考えても苦しんでいる。


 「あぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 男は喉からガラガラとした声を最期に女性プレイヤーと同様に血だけを残して消えていった。


 たった数秒の出来事であった。

 ずっと押し黙っていたプレイヤー達は、

 「きゃああああああああああああああああああああああああぁぁ!!!」

 「うわああああああああああああああああああああああああぁぁ!!!」

 と悲鳴をあげた。

 

 男はなぜ短剣を自分に刺したのか、どうしてこうなったのか、なぜ血が、激痛を感じたのか?

 そのような疑問が次々と生じてくる。


 メッセージで「異世界に転移した」とあった。

 頬をつねるなどしてある程度の五感は鋭くなっていたことはわかっていたが、まさか現実と全く同じなのだろうか?

 プレイヤーウィンドウを開いたり、ステータスを確認できることから異世界といっても<Fantasy Tale>に準拠されており、多少の感覚が良くなっただけだと思っていた。

 しかし、あの男は激痛を感じていたと思う。


 「何だよ・・・それ・・・・・・」


 振り返ってみると俺が攻撃を受けたのはウルフによる攻撃1回のみ。

 大したことはない掠った程度の攻撃だ。

 知らなかった。

 もし五感が現実と同感覚で、この身体の脆さも同じならば、俺は餌に飢える狂暴な狼と戦っていたこととイコールだ。

 何かひとつ一歩でも誤っていれば俺もあのように血を垂れ流して死んでいたかもしれない。

 

 「あいつらは本当に大丈夫なのか・・・?」


 ギルメン達はそのことを知っているのだろうか?

 常に強さを求める奴らだ。

 きっとどこかの狩場にいる。

 

 「レ、レイヤさん・・・・・・」


 俺の服の袖を掴み目を瞑るあくみん。

 こんなことが起こるなんて頭の片隅にも無かったはずだ。

 

 「・・・・・・ここに居ては駄目だ、別の場所へ行こう」


 俺はあくみんの手を取り宿へと向かった。

 予想していた通り、宿にプレイヤーはほとんどいなかった。

 俺の所持金も一日分しかないが。







--------------------------------------------------------------------------------

レイヤ 職業ソードマン Lv.5

【所属ギルド】果てなき幻影


【HP】45/45(+20)

【MP】31/31(+10)


【筋力値】19(+5)

【敏捷値】18(+5)

【幸運値】9(+0)

【魔力値】5(+0)


【攻撃力】23

【防御力】43

【回避率】0

【命中率】7


【装備追加効果】無し

【装備追加セット効果】無し

【装備追加スキル】無し


【称号】無し


【装備武器】イルダブルソード

【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング 

【装備ペット】無し


【習得スキル】スラッシュLv.2


【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 バタークッキー×3 薄い布の寝袋


【所持金】88MIL


 

 


 

 


 


 






 



 


 


 

 


 

 

 

  

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ