第7話 ギルド
「おいおい・・・マジかよ・・・・・・」
俺はその光景に圧倒されてしまった。
どこを向いてもプレイヤー達で埋め尽くされているからだ。
俺とあくみんがやってきたのは昨日行ったタタトス渓谷。
多少はプレイヤーがいると思っていたが、想像の遥か彼方へいっている。
「これだとモンスターを狩ることができないですね・・・・・・」
「ああ、そうだな・・・」
マップに湧出するモンスターにも限りがあるし、再度湧出するにも時間がかかる。
プレイヤー達は現在進行でモンスターと戦っている者もいれば、湧出するのをいまかいまかと血眼になって待ち構えている者もいる。
それにしてもモンスターがほとんどいない。
おそらく、ここにいるプレイヤーは古参やベテランであるからだろう。
モンスターと戦っているプレイヤー達は見事に攻撃を避けるし、パリィも手練れている。
そこですかさずスキルを発動して素早く倒しているからだ。
「参ったな、これだといつになるやら」
この先の狩場へと向かってもいいのだが、あくみんがいる。
レベル1のためリスクを背負わせることはできない。
他のプレイヤーも過疎の狩場に行きたいだろう。
そうしない理由として考えられることは俺と同じでレベルによるもの。
もしくは安全であるから。
これほど多くのプレイヤーがいるのだ、誰かが助けてくれると思っているからだろう。
「どうしましょうか?」
「埒が明かないよな・・・。そうだな、ひとまずトルーアに戻ってあくみんの装備を買いに行って少し先の狩場へ行こう。その装備だと不安だろ?」
あくみんの現在の装備は最初から与えられている初心者装備セット。
アーチャーは弓を扱い、遠距離攻撃を得意としているため前衛を担うソードマンよりもHPが少ない。
「私は大丈夫です。これでも果てなき幻影のメンバーだったんですから!だから先へ行きましょう」
俺への気遣いか、それとも迷惑をかけたくなかったからだろうか?
自分の身を案じていない言葉だった。
「それは駄目だ。あくみんの強さは知っているし疑ってはいない。でもな、自分のことは大事にしろ。
HPがゼロになったら死ぬかもしれないんだ。」
「・・・・・・わかりました、ごめんなさい」
あくみんは俯いて謝った。
そうだ、死ぬ可能性があるんだ。
誰かHPがゼロになったプレイヤーはいたのだろうか?
ここにいるプレイヤーは上級者であるためそのようにはなっていないだろう。
彼らは死ぬ可能性があることをどう捉えているのだろうか。
俺とあくみんはトルーアに戻り武器屋へ。
俺が所持していたアイテムを売り、購入した装備は制限レベル1の安いものだったため、お金の方は何とかなった。
装備強化する分までは無かったが。
ステータスは上昇したため大丈夫だが、お金を貯めたらすぐに強化をしに行こう。
「それじゃあできるだけ人が少なそうな狩場へ行こうか」
「はい。でも、せっかくここまで来ましたしあそこへ寄っていきませんか?」
「あそこってどこのことだ?」
「ほら、あれですよ」
あくみんが指差したのは周囲よりも一段と立派な建物。
それは世界都市トルーアの中央に位置するトルーア城に次ぐ高さである。
その建物は中世ヨーロッパ風で、例えるならば、パリにあるノートルダム大聖堂をビルほどの高さにしたもの。精密なディティールにより重厚で荘厳な雰囲気が醸し出されている。
その建物とは―――――――
「ギルドホールか?何のために?」
「それは勿論決まっていますよ」
「―――――もしかして、ギルドを作るのか?」
「はい、そうです!」
ギルドホールはギルドの創設が可能な場所だ。
また、ギルド単位でギルドルームを購入できる。
ギルドルームというのはギルドメンバーだけが立ち入ることができる空間で、果てなき幻影も所持していた。分譲ではなく賃貸のため毎月お金を支払わなければならず、それなりに値が張る。
ギルドルームを所持していると専用の銀行や保管庫が使えてアイテムを預けることができたから借りていたのだ。
「そうか、そうしたらいいかもしれないな」
ギルドを開設するとギルドホールを借りられるだけでなく他にも利点がある。
レベルを上げることばかり考えていてすっかり忘れていた。
「行きましょう」
入口の大きな扉が開かれていたためギルドホールに入る。
外観と同じで内装も荘厳だ。
室内は特徴的な玄妙で趣のあるステンドガラスからの柔らかな光で照射されている。
【ギルド「果てなき幻影」を結成します。よろしいですか? YES/NO】
ギルドは2人以上のメンバーがいると結成できる、費用はかからないなどといった受付のお姉さんから結成時に強制的に聞かされる説明を受けるとこのログが流れた。
もちろんYES。
「これで再結成ですね!」
「といっても俺とあくみんしか所属していないけどな」
「そうなんですよね、まったくどこに行ったのでしょう」
昨日一日中かつてのギルメンを探していたあくみん。
ぷいっと頬を膨らませている。
「まぁあいつらのことだ、どこかでのほほんと生きてるさ」
「そうですよね、また皆集まったらいいですよね」
「そのためにはあいつらを見つけてあげないとな」
「はい!ところで腕のあれはどうします?」
「え?もしかして消えてしまってるのか?」
「そうみたいですよ」
腕のあれとは俺たち「果てなき幻影」の友情と信頼の証であるタトゥーのことだ。
ギルメン全員の右腕に小さく彫られており、トライバルタトゥーと呼ばれる種類。
針で皮膚にインクを染み込ませるようなものではなく、ショップに行けば数秒で彫られているいつでも消せるシール感覚のものだ。
「どうしますか?ショップに行きます?」
「まずお金が無いからなぁ。それよりも全員揃ったときに彫らないか?初めて彫ったときもそうだっただろ」
「その方がいいかもですね。大切なものですし」
そう、そのタトゥーは俺たちにとってかけがえのないものなのだ。
「それじゃ行こうか」
俺たちはギルドホールの外へ出る、すると男の叫び声がした。
「だっ、誰かあああぁ!助けてくれっ!お願いだ!」
叫んだ男の傍らには女性プレイヤーが地面に横たわっている。
「・・・・・・え?」
思わず声に出していた。
それはありえないことだったからだ。
<Fantasy Tale>内では決して見るはずもないそれ。
女性プレイヤーの肩からは赤い液体が滴っていた。
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レイヤ 職業ソードマン Lv.5
【所属ギルド】果てなき幻影
【HP】45/45(+20)
【MP】31/31(+10)
【筋力値】19(+5)
【敏捷値】18(+5)
【幸運値】9(+0)
【魔力値】5(+0)
【攻撃力】23
【防御力】43
【回避率】0
【命中率】7
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】イルダブルソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.2
【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 バタークッキー×3 薄い布の寝袋 回帰の結晶
【所持金】1088MIL