第5話 再会
「ごめんください~」
扉が叩き終わると女性のよく通る奇麗で澄んだ声がした。
おじいさんはすぐにランプの火をつけて、「どうぞ」と言った。
扉が開きその女性は入ってくる。
平均的な体格で黒色のおさげをぶら下げている。三つ編みではなくただゴムで縛っただけ。
俺はその女性に見覚えがあった。
容姿で判断したわけではない。
その特徴的な綺麗な声で、だ。
その女性はおじいさんに話しかけようとしていたが、俺の存在に気づき顔を向けて、俺と目が合った。
ここで俺は改めてランプの灯りに照らされた女性の顔を確認し手を振った。
「やあ、あくみん。きっと誰か来ると思っていたよ」
その女性の名はあくみ。
あくみんというのは彼女のニックネームだ。
あくみんは一瞬、誰なのかわからず訝しんでいたが、すぐに喜びの表情に変わった。
「レイヤさん!ここにいたんですね!」
あくみんにしては大きな声で叫んだ。
あくみんは俺の素顔を知っている数少ない知り合いだ。
「ああ、あくみんが無事でよかったよ」
「私もです!」
信頼している仲間の一人のためあまり不安は感じていなかった。
このようにして元気にしていることが何よりの証明となるだろう。
「レイヤさん、今まで何をしていたんです?他の人もいないし少し怒りぷんぷんですよ!」
あくみんはニコニコしていたのだがちょっぴり不機嫌な様子に変化。
きっとあくみんは俺や他の奴らを探していたのだろう。
おっと、他の奴らの説明が必要だな。
まず、このあくみんとなぜ知り合いなのかというと同じギルドに所属していたからだ。
〈Fantasy Tale〉ではギルドを創設することができる。
ギルドに所属していると様々な恩恵が受けられるため、俺はギルドを新設した。
そのギルド名は「果てなき幻影」。
俺はそのギルドのギルドマスターであったのだ。今はリセットされたので解散されてしまっているが。
「果てなき幻影」には俺が言った「他の奴ら」が所属していた。
ギルドメンバーである。
俺とそいつらをあくみんは探していたのだろう。
聞いてみるか。
「他のギルメンを探していたんだろう?誰か見つかったか?」
俺はあくみんの質問をスルー。
ここで正直にレベリングをしていましたと言ったらあくみんは呆れ果てるだろうからだ。
「探していましたけど誰も・・・・・・それよりも質問に答えてください!」
しまった、スルーしきれなかった。
おそらくあくみんは俺が何をしていたのか察しがついているのだろう。俺の普段の行いのせいだな。
仕方がない。
ここで嘘をついては余計に自分の首を絞めることになりそうだ。正直に言おう。
「ええと・・・その・・・レベルをだな・・・」
「上げていたんですか!?本当ッ―――――――――――もうっ!」
結局呆れられてしまった。
俺は常にダンジョンに潜っていたため、あくみんに行動を悟られていたのだ。
それよりも他のギルメンが見つかっていないとなるとそいつらもレベリングをしていたのではないだろうか?
俺と似たような思考を持つ、そんなプレイヤーが集まるギルドだったのだ。
あくみんはギルメンの中では常識的な子であり、仲間を思いやる性格のためずっと探していたのだろう。
といってもギルメン全員いい奴なのだがな。
「悪かったよ。身体が冷えただろうし、とりあえず座れよ」
俺は寝袋から出てソファーに座れる余地を作る。
暖炉側を開けたのは俺のせめてもの罪償いだ。
「ふぅ・・・暖かいですね・・・・・・」
寒さからかあくみんの手が赤くなっている。
申し訳ないことをしたな。
「夕食は食べたのか?食べてないならバタークッキーなら持っているぞ」
「大丈夫です。済ませておきましたから」
「そうか・・・ところで今まで何をしていたんだ?」
一応聞いてみる。
「だからずっと皆を探していたんですよ!なのに誰一人いないなんて」
やはりそうだったか。
あくみんはまた機嫌が悪くなってしまった。
「悪かったって。しかしとんでもない状況になってしまったよな」
「はい・・・ログインするといつもと違う場所に移動していて、異世界に転移したというメッセージを見たときはびっくりしました。レベル1になっていたこともですが。」
「そうだよな。そのメッセージには元の世界に戻る方法は自分で考えろと記されていたけどその点はどう思う?」
「そうですね・・・私はグランドクエストの達成が条件だと思います」
「やっぱりそうか。俺もそう考えていた」
「・・・・・・これからどうしますか?」
あくみんは消え入りそうな声で言った。
現実世界に戻れないことを悲嘆しているのだろうか?
気の利いた言葉をかけてあげたいが、すぐには思いつかない。
温もりで安心させようと思い、俺はあくみんの肩に手をかけた。
「そうだな・・・まずはレベルを上げるべきだと思う。じゃないと何も始まらない。他の奴らも既にそのことを理解しているはずだ。今のレベルは?」
「まだトルーアの外には出ていないので1です」
「なら明日からモンスターを倒しに行こう。お金も必要になってくる。何より戦闘は俺たちの専売特許だろ?」
「はい・・・・・・」
まだこの状況を受け入れられていないのだろう。
元気づけるため俺は肩をぽんぽんと優しく叩いてあげた。
「そういえば今の職業ってどうなっている?俺はソードマンだったんだが、前の職業と同系列なんだよな」
「えっと、私はアーチャーに戻っていました」
「となるとあくみんも同系列だな」
その点は良かったと思う。
仮にまったく別の職業であったら勝手がわからず模索する必要があるからだ。
「あの、レベルを上げることは賛成です。でも他のプレイヤー達はどうなるんですか?」
「あいつらのことだ、普通に生きてるさ。死ぬことはない」
「もちろん皆も心配ですけどそうではなくて・・・私たち以外のプレイヤーの事です」
どうやら的外れの返事をしてしまったらしいな。
心優しいあくみんだ。
他のプレイヤーのことまで心配しているらしい。
自分の中で整理も出来ていないのに。
「他のプレイヤーだって馬鹿じゃない。自分で考えて行動するさ」
投げやりな返事。これはそのプレイヤー達を見捨てる意を含んだ発言だ。
あくみんは助けてあげたいのだろう。
町ではたくさんのプレイヤーが宿を求めて混乱していた。
それでもお金を得なければ一日しか泊まれない。
そうなると明日、多くのプレイヤーがお金を得るためモンスターを狩りに行き犠牲者が出ると予想される。
俺だって助けてあげたい。
でも、身内だけで手一杯だ。
「わかりました・・・・・・」
あくみんは俺の発言の意味を悟ったのだろう。
それ以上は何も言わなかった。
就寝するためおじいさんにランプの火を消してほしいと頼もうと思ったのだが、いつの間にか眠っていたため、音をたてないように火を消した。
あくみんも寝袋を購入していたようで、あくみんはソファーの上、俺は床で寝ることに。
床の冷たさとともにこの先の不安を感じながら俺は目を閉じた。
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レイヤ 職業ソードマン Lv.5
【HP】45/45(+20)
【MP】31/31(+10)
【筋力値】19(+5)
【敏捷値】18(+5)
【幸運値】9(+0)
【魔力値】5(+0)
【攻撃力】23
【防御力】43
【回避率】0
【命中率】7
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】イルダブルソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング
薄い布の寝袋
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.2
【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 ブラウンウルフの毛皮×2 ブラウンウルフの牙×3
バタークッキー×3 回帰の結晶
【所持金】4241MIL