第4話 クエスト
「どうしたものかな・・・・・・」
現在の時刻は午後7時20分。
世界都市トルーアの中央に位置する城に付属されている大時計から見てとれる。
他の宿も探してみたのだがどこも一杯であった。
町の中を歩いてわかったのだが、ほとんどのプレイヤーは外部からの救援を待っているようだった。
異世界に転移されたとメッセージで伝えられたが、仮想世界の中に閉じ込められたと思っているのだろう。
どちらにせよ生きていくためにはお金が必要だ。
一歩も外に出なければお金が手に入らない。
明日には宿に空き部屋ができるのではないだろうか?
生きていくために必要なお金が無いため今日何もしなかったプレイヤーは明日にはモンスターが湧出する地帯へ出ることになるだろう。HPゲージがゼロになり死ぬプレイヤーも現れるはずだ。
助けてあげたいが自分の事で手いっぱいだ。
見捨てるわけではない。
「お腹も空いたよな・・・・・・」
レベリングに夢中で空腹を感じなかったため、その反動か今更腹の虫がぐ~ぐ~と鳴っている。
この状況に陥ってから口にしたものは小さな青色のポーションのみ。
味は酸っぱいブドウジュースといったところだった。
宿の確保をしたいが、腹が空いては何とやらだ。
まずは食べ物を購入しよう。
道具屋で購入した食べ物はこれ。
[消費アイテム] バタークッキー 制限レベル:1 レア度:☆
使用効果:幸運値+30 持続時間5分
バターをふんだんに使った香ばしいクッキー。
バタークッキーだ。いただきます。
カリカリッと食べやすいクッキーだ。
口の中の水分を取られるがバターの塩味で涎が出てくるため問題はない。
【バタークッキーの使用効果により5分間幸運値+30】
食べ終えるとログが流れ、支援効果がかかったことを示すアイコンが表示された。
5分間だけ幸運値が上昇しているのだ。
もったいないがお腹が満たされていないためさらにもう一枚食べる。
【バタークッキーの使用効果により5分間幸運値+30】
またもやログが流れ、バフアイコンが表示された。
これはつまりバフが上書きされたというわけだ。
「少しばかり寒いかな」
バタークッキーを食べ終えて再び宿探し。
完全に太陽は沈んでおり町は街灯で照らされている。
温度が下がっているのだ。
大きな通りに出ると俺と同じように宿に泊まることができないのか、プレイヤー達が道の端でうずくまっている。ここで寝るのだろうか?
そのプレイヤー達に近づいてみると頭から足まで何かで覆われている。
なるほど寝袋か。
俺もダンジョンに潜っていた時はもこもこが付いた暖かい寝袋を所持していた。
ダンジョンに長時間滞在してどうしても眠くなった時に使っていた。
その寝袋は高性能のためアクティブモンスターからターゲットを取られるのを防ぐハイディング効果が付いていた。
かなりのレアアイテムだから今手に入れることは不可能だが。
今は我慢するか。
俺はまたもや道具屋に行き、寝袋を購入した。
[戦闘装備:特殊]薄い布の寝袋 制限レベル1 レア度:☆
装備効果:毎分HP1回復
寝袋を買ったはいいのだが、道端で眠ることには抵抗があるな。眠っている間、誰かにHPゲージをゼロにされたらたまったものではない。
だとしたらどうするか?
クエストを受けたおじいさんの民家へ行くのだ。
何かしら恩を売っておくと、NPCは頼み事を聞いてくれる。
有り金すべてよこせやら、あいつを殺せなどといった非道徳的な頼み事は無理だが。
一日だけ泊まるくらいならば受け入れてくれるだろう。
おじいさんの家にやって来た。ノックをする。
どうぞ、との声。まだ弱々しい声だがかすれてはいない。
薬が効いたのだろうか?
「お邪魔します」
おじいさんはベッドの上にいる。
顔色が良くなっているな。
「これはこれは・・・薬を持ってきてくださった冒険者様ではないですか・・・おかげさまでだいぶ楽になりました・・・」」
「それはとてもよかったです。完治するといいですね。」
「そのような場所ではなく家に入ってきてください・・・寒いでしょう・・・そちらのソファーへ・・・」
これは配慮が足りなかった。
玄関の軒先に立っているため扉が全開だ。
病人には気遣いが大事だな。
俺は即座に扉を閉めて家に上がった。
「暖かいな・・・・・・」
暖炉がバチバチと音を立てて火粉が飛び散っている。
俺はゆらゆらとした炎の近くのソファーに腰掛けた。
「冒険者様・・・どうなされましたか・・・?」
「実は宿を探していたのですが、どこも一杯で・・・。一日だけ泊まらせてもらえませんか?」
「ええ、もちろんです・・・ですが、生憎この家にはベッドが一つしかありません・・・」
おじいさんは困った表情を浮かべている。
すかさず俺はフォローを入れる。
「大丈夫です。寝袋を持っていますからこのソファーで寝ますよ」
「そうですか・・・もてなすことができなくてすみません・・・・・・」
「いえ、急な訪問でしたから。おじいさんは無理をなさらずに横になっていてください」
これにて今日だけは宿の心配はいらなくなった。
一時の休息だな。
俺は寝袋をプレイヤーウィンドウを操作して具現化、そして着用した。
それほど暖かくはないがソファーは暖炉に近いため大丈夫だろう。
結局俺は異世界に転移されたのか、仮想世界の中に閉じ込められてしまったのかはわからないな。
現実の世界に未練はある。
だから、俺は他のプレイヤーを顧みずに生存率を高めるためにレベルを上げた。
「まったく自己中心的だよな・・・・・・」
すると、ただの独り言のつもりだったのだが、うまく聞き取れなかったらしいおじいさんが口を動かした。
「もうおやすみですか・・・?ランプの火を消しますね・・・・・・」
おじいさんの手元にあったランプの火がふっと消えた。
就寝時間としては少しばかり早いが、もう寝るか。
朝一番に起床してレベリングをしよう。
他のプレイヤーもやってくるだろう。
それならば、レベルを上げて次の狩場へと向かうだけだ。
俺はソファーの背もたれの方に顔を向けて目を閉じた。
しばらくして眠りに落ちようとしていた時、何者かが扉をドンドンと叩いた。
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レイヤ 職業ソードマン Lv.5
【HP】45/45(+20)
【MP】31/31(+10)
【筋力値】19(+5)
【敏捷値】18(+5)
【幸運値】9(+0)
【魔力値】5(+0)
【攻撃力】23
【防御力】43
【回避率】0
【命中率】7
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】イルダブルソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング
薄い布の寝袋
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.2
【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 ブラウンウルフの毛皮×2 ブラウンウルフの牙×3
バタークッキー×3 回帰の結晶
【所持金】4241MIL