第39話 仲間と友達の違い
「エリュシオンがトルーアからいなくなったとはどういうことですか?」
「そのままの意味なのだよ。昨日でPKがピシャリと無くなった」
ラスコッドは俺の質問に簡潔に答える。
ここは世界都市トルーアの外周部。
高い壁によって常に日陰となっているスラム街の酒場の2階の一室。
今は経験値の泉に行った翌日の昼だ。
急にラスコッドが酒場に来いと言ってきたのだ。
「それでトルーアの警護をする依頼は撤回するということですか?」
「フハハハハハ!!そんなわけないだろう!それではチミ達に投資した意味がなくなる」
「投資は不確実性が伴います。商会ギルドEWSNカンファレンスのトップであるあなたがそんなことを言ってもいいんですか?」
「はて?そんなことを言った覚えはないねえ」
ラスコッドはボーダーのネクタイをクイッと手で直す。
つくづく腹立たしいメガネ野郎だ。
趣味の悪いネクタイがその性格をよく表している。
「そうですか。ですが、俺の仲間を捜索する約束を破ることだけは許しませんよ」
「そんなにカッカしないでくれ給え。次の依頼をこなしてくれるのならば約束の報酬を与えよう」
「本当ですね?でしたらすぐに取り掛かりますので何をしたらいいか教えてください」
「・・・エリュシオンを潰す」
俺は「潰す」という部分を聞いてゾッとした。
この男は「エリュシオン」という殺人ギルドを解散させるという意味で言っているのではない。
「エリュシオン」のプレイヤーを全員くまなく殺すと言っているのだ。
「それは無理です。第一にエリュシオンの総数がわかりませんし、見分ける方法もありません」
「エリュシオン」は1000人以上のプレイヤーが属していると言われていたが、その数は不明。
そして、未だに快楽を得るためにPKを続けている奴が多いとは思わない。
彼らはあくまでゲームとしての人殺しを楽しんでいただけだからだ。
「短期的な計画ではなく長期的なものなのだよ。だから、チミは直接的に手を下す必要はない。そこでチミにはギルドエンブレムを手に入れてきて欲しい」
「人殺しのための手助けをしろというのですか?残念ですけどそこまで俺は腐ってはいないです。あなたのおかげでレベルも上がりましたし、俺一人で探しますよ」
俺は話にならないと思い席を立つ。
今ごろウルド達がラスコッドに隠れて経験値ポーションを「EWSNカンファレンス」に属していないプレイヤーに配っているはずだ。
だから、俺の目的であるトルーアの秩序が形成されることには成功するのだ。
だとしたら残っているのは俺の仲間の捜索のみ。
俺一人でやればいいのだ。
「くふふふ。本当にいいのかね?経験値ポーションの横流しを目論んだことは知っているのだよ。盾職の5人が何やら不自然な様子だったと部下が耳打ちしてくれたからねえ」
ラスコッドがネチネチと言った。
くそ、この男を出し抜くのは無理だったか。
俺ではなく「EWSNカンファレンス」の一員であるウルド達ならば気づくことなく経験値ポーションを配給できると思ったが、甘かった。
そして、俺は彼らを危険に晒してしまう選択をしてしまっていた。
「嫌ならそれはそれで結構。チミのレベルならば仲間を探すことできるだろうがねえ、チミの友達のあの5人にギルドエンブレムを手に入れてもらうだけだ」
「なっ!?」
ギルドエンブレムが手に入るダンジョンのボスは物理耐性が高い。
盾職5人では無理だ。
行けば十中八九死ぬ。
「くっ・・・ギルドエンブレムを手に入れられれば、彼らを許してもらえますか?」
「考えてやってもいい」
ラスコッドは自分の部下を殺すことはない・・・と思う。
だが、裏切った場合何をするかわかったものではない。
その代償としてウルド達をギルドエンブレムが手に入るダンジョンに行かせるつもりだ。
そして自分の手を汚さず、彼らがどうなるのかを傍観しているだけ。
彼ら自身の行動によるものだという理由をぶら下げながら。
「お願いです。経験値ポーションだけは見逃してください。それが無いと・・・」
「・・・まあいいだろう。だがギルドエンブレムを手に入れて来い。チミだけではなくあの5人も連れてだ」
ラスコッドの額からは血管が浮き出て、眉間はしわが寄っている。
やはり、裏切りだけは許せないのだ。
確かカメラ機能によって「EWSNカンファレンス」のメンバーを晒したのはラスコッドの部下だったと聞いた。ラスコッドが何をしたのかは知らないが、そのラスコッドの部下は二度と〈Fantasy Tale〉にログインしなかったという。
今となってはこの世界に幽閉されずに済んでおり悪運が強いと思う。
「俺一人では駄目ですか?」
「これはケジメの問題なのだよ。チミの入れ知恵とはいえ、彼らは拒否することはできたのだ。なのに愚行を犯そうとした。それは私や私の部下全員を裏切る行為なのだよ。ダンジョンに行くことまで拒否するならあの5人に居場所などどこにもない」
「・・・わかりました。経験値ポーションについては恩にきります。それとウルド達のしようとしていたことは俺に非があります。許すまではいかなくとも、居場所だけは確保してあげてください」
「・・・次は無いがね」
ラスコッドの口は厳しかったが、それでも生存の可能性は残していた。
そして今もウルド達が「EWSNカンファレンス」に残ることができる道も示した。
それがこの男を心底憎めない理由の一つだ。
「ごめん、レイヤ。上手くやろうとしたんだけどすぐにばれちゃって・・・」
俺の前に立つ好青年風の男―――ウルドは謝罪する。
最後に分かれた時とは違ってしょんぼりとした顔をしている。
「いや、俺が悪かった。勝手に友達とか言って断りづらい空気を作っていた。すまない」
俺は自分はなんて自己中心的な奴なのだと改めて実感する。
ウルド達に友達だと言い、ご機嫌を取ることで経験値ポーションを配ることを引き受けてくれるというやましい気持ちがあったからだ。
「そんな、レイヤと友達であることは皆嬉しく思ってるよ。だから気にしないで」
ウルドは笑顔で言ってくる。
俺はどれほど最低な奴なのだろうか。
ウルドを友達だとは思っているが、俺の大切な仲間と比較するとどうでもいい存在と少し思ってしまったからだ。
ウルドの笑顔と言葉に罪悪感を覚える。
「それじゃあまた明日」
そう言ってウルドは俺が滞在している宿から外に出て行った。
「・・・ウルドさんはレイヤさんのことを恨んでいるわけではないようですよ。だから一人で思い悩まないでください」
壁の後ろに隠れて会話を聞いていたあくみんが俺を慰める。
「ウルドを巻き込んでしまったのは俺なんだ。思い悩んでもしまうさ」
俺はせっかくのあくみんの励ましの言葉を無き物にしてしまったことに後悔。
だが―――
「思い悩むことは普通です。いくらでも思い悩んでください。でも一人では駄目です。私だって非はありますから」
俺をいたわってくれるあくみんに深く感謝。
しかし、俺が招いてしまった事態なのだ。
ウルド達はケジメのため仕方ないが、あくみんとおとぎを危険に晒すわけには行かない。
「・・・一人で行くことは許しませんよ。私も明日は同行しますから」
あくみんは俺の思考を読み取ったかのように言った。
「どうしてわかったんだ?」
「レイヤさんの癖ですよ。顔に出ますから」
「さすがあくみんだな・・・でも・・・」
「私も行きます」
あくみんの眼差しは鉄の板を貫通してしまうほど鋭かった。
だから明日、ギルドエンブレムが手に入るダンジョンについてこないように諭す言葉は言えなかった。
「わかったよ。明日の12時だ。今日は明日に備えて眠ってくれ」
「はい、おやすみなさい」
俺は追い返すようにあくみんを自分の部屋へと戻らせてしまった。
一人になりたかった。
誰かが危険に晒されてしまうという現実を直視したくなかったのだ。
耐えられないのだ。
俺は一人枕を濡らして眠りに落ちた。
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レイヤ 職業ソードマン Lv.88
【HP】574/574(+20)
【MP】458/458(+10)
【筋力値】523(+25)
【敏捷値】596(+145)
【幸運値】387(+10)
【魔力値】292(+10)
【攻撃力】77
【防御力】88
【回避率】10
【命中率】15
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】バスターツーハンドソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン スズガントレット スズブーツ 獣のリング+2 ライトイヤリング+2 ライトペンダント+2 シルバーウォッチ
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.43 バーティカルLv.43 スクエアLv.39 ホリゾンタルLv.36 ペネトレイトLv.35 ストライクLv.31 パワーウェーブLv.26 ダブルスラッシュLv.20 メテオスイングLv.20 スピードスターLv.17 ソードバーストLv.16 ビハインドエアLv.16 ダストストリームLv.13 シノハユLv.5 鍛冶Lv.8 錬金術Lv.5 細工術Lv.1 エンチャントLv.1 研磨Lv.2 料理Lv.3
【所持アイテム】薄い布の寝袋 銅色ハンマー ハニビー印の高級はちみつ 赤色の小さなポーション×3 鉄の仮面 シャークプラントの垢が残った歯×79 トレントの枝×122 ハリガネスネークの針金×69 レッドドラゴンソード 回帰の結晶
【所持金】340105MIL




