第27話 世界の定義
「レイヤさん!!!」
俺の絶叫を聞いてあくみんがすぐに矢を放つと、腹に噛みついて頭を振り回していたダークウルフが黒煙をあげて消えていった。
「うぐうぅぅ・・・・・・!」
俺はお腹を両手で押さえて地面に伏せる。
「レ、レイヤ~~!」
おとぎが駆け寄ってがくりと座り込む。
あくみんも走って来る。
いや、だが、これは―――――
「・・・・・・痛くない・・・全く痛くない」
おとぎは泣きじゃくっているが、あくみんはその言葉を聞くと俺を仰向けにして、お腹を押さえた手を無理やりどかす。
「な、何で・・・!?」
あくみんは驚愕して息を吞む。
俺の腹がどうなっているのか視線を動かすと―――――
「成功だ・・・・・」
腹が破れてぐちゃぐちゃの腸や大量の鮮血が飛び散っているわけでもなく、モンスターにダメージを与えた時と同じ赤色のエフェクトがかかっているだけだった。
これはかつての〈Fantasy Tale〉でのプレイヤーの被ダメージ時の表現でもある。
噛まれたお腹には鈍痛のような痺れが残っているだけでこれも同様だ。
「・・・やっぱりそうか。難易度が異常だと思ってたんだよ」
俺の推測は正しかったらしい。
だが、ダークウルフは俺にクリティカルダメージを与えたらしく鈍痛が身に染みる。
「レイヤさん・・・これって・・・?」
身体を起こすとあくみんは呆然としており、おとぎはヒクヒクと痙攣していた。
「・・・実はずっと疑問だったことがあるんだ。レベル1に戻ってすぐにタタトス渓谷でウルフと戦った時、ステータスの急激な変化から一度だけ背中を爪で引っ掻かれたんだ。だけど、ただいつもの痺れが残るだけで痛くなかったんだ。背中は赤いエフェクトだけだと思ってそのまま戦闘を続けたんだが、ギルドホールの件を鑑みると、肉が削がれて血が出てもおかしくない傷の深さだったと思う。それなのに服には血が滲んでいるわけでも、服が切り裂かれているわけでもなかったんだ」
随分と長い説明をするとあくみんは感づいたように言った。
「それって・・・ゲーム時代の〈Fantasy Tale〉と同じ・・・!?」
今もプレイヤーウィンドウを開いたりできることから十分にゲームではあると思うのだが、あくみんが言うようにこの世界に幽閉される前の〈Fantasy Tale〉と同様の表現だ。
「ああ、そうだ」
「でも、ギルドホール前の男性と女性は・・・!?」
あくみんはあの凄惨な現場をフラッシュバックさせて問うてくる。
ギルドホール前の男と女性プレイヤーが鮮烈な赤い肉を剥き出しにして、真っ赤な血を流していた現場だ。
「これは俺の仮説だが、ステータスが関係していると思う。あの二人の装備は初心者装備ではなくて何の効果もないただの服だった。多分、最初に所持しているアイテムを売って武器に金をかけたんだろう。つまり、あの二人の防御力はゼロだったんだ。だけど、俺は着こんでいるからHPが減っているだけなんだと思う」
「そうですか・・・でも、どうしてわかったんですか?」
「さっき言った通りウルフの戦闘でだよ」
ウルフの戦闘が発端だが、実際に行動しようと思ったのは、昨日ネネ花畑で見かけたプレイヤー達が理由だ。
「うっ・・・うっうっ」
嗚咽がする方を向くと。傍らに座りこむおとぎと目が合い、涙が伝っている顔を腕でごしごしと擦る。
「うぐっ・・・・・・ふふふ・・・。さすがマスターだ。多少冷や汗をかいたが、この我が唯一認める存在のだけのことはある」
・・・何をすべきか伝えておくべきだったな。
仲間の涙など見たくもないのに。
だが、あれは涙ではなく冷や汗らしい。
涙だろ、と言うとキャラがぶれてしまうので言わないでおく。
「まあ、ステータスが高ければHPが減るだけで済むらしいな。だけど、明確な基準がわからない以上気を抜くなよ」
ネネ花畑を1時間ほど歩いており、木々や花が生えている中間点にいる。
昨日はレベリングをしつつイグニスへ向かい、わざとモンスターとエンカウントしていたので歩くペースは早い。
この調子で行けば午後6時にはトルーアに到着するだろう。
転移系魔法でもあればいいのだが、生憎〈Fantasy Tale〉には長距離を一瞬でテレポートしてしまうような手段はほぼ無い。
あるにはあり、転移系魔法ではなく転移アイテムだが、高難易度ダンジョンでしかドロップしない超レアアイテムなので緊急時以外に使うことはないだろう。
俺も持ってはいたが、母親に夕食までにログアウトする!と約束したのにすっかり忘れていて、気づいた頃にはログアウトできるような場所ではなかったので仕方がなく使ってしまった。
その約束を破れば一生夕食を作らないと言われていたからだ。
せっかくの超レアアイテムを不名誉な事態で使ってしまって悔恨ではあるが、いい思い出でもある。
・・・・・・俺の現実の身体はどうなっていて、家族はどうしているのだろうか。
「アイシクルレイン!」
ガササッとモンスターが出てくるとあくみんがスキルを叫んで氷の矢が降り注ぐ。
《アイシクルレイン》はアーチャーの基本的なスキルだ。
先ほどからモンスターを避けているとはいえ、突然出現されては回避は不可能。
だが、あくみんかおとぎかがモンスターの攻撃する余地すら与えず葬っていくので歩みは止まらない。
俺が先頭で、二人はその後ろをついてきている。
二人とも後衛職であるので妥当なフォーメーションではあるが、俺に経験値が全く入らないため不平の一言でも発したい。
「なあ、二人ともスキルはどのくらい習得してる?」
黙々と歩いていては退屈なので話題を振るが、「9つです」「5つだ」と素っ気ない返事しか返ってこない。おとぎは5つと言ったが、おそらく闇属性以外の攻撃スキルを除外しているからだ。黒魔道士への一心には安堵してしまう。
いくら安全であるとわかっていても「気を抜くな」と言ったのは俺であるので阻害しないでおこう。
そう決めて変わらず歩み続けた――――――その時。
不意に後方から矢がはるか上空から飛び、木に作られた穴がたくさん空いたハニカム構造の物体に刺さった。
それは昨日発見したハニビーの巣だ。
矢は火を纏っており、あくみんと同じアーチャーが使えるスキル《ファイヤーアロー》だ。
その矢を受けて巣が瞬時に燃え上がる。
矢の角度的にあくみんが放ったわけではないので、後ろを振り返り上空を見上げると―――――
木の枝の上に立っている黒衣の人影が。
おとぎと似たような黒いローブを羽織っており、深くフードを被っているため顔は見えない。
裾から伸びる日に焼けたような太い腕には弓が握られ、他にも体格からは男だと判断できる。
黒衣の男は俺がそちらを振り向くとぐるりと半回転して、向かいの木の枝へと跳んだ。
アーチャーという筋力値や敏捷値が低い職業にもかかわらず、すいすいと次の枝へと跳んで逃走していくため、まるで昭和の泥棒が屋根から屋根へと跳んで逃げていくようだ。
しかし、黒衣の男が逃走する光景を眺めながら、昭和の泥棒のようだ、とイメージを投影している場合ではなく、これは―――――
「MPKだ!」
即座に数秒先のことに対応するため、二人に言い、あくみんとおとぎは巣に向かって武器を構える。
巣からは自分たちの家を燃やされたことから50匹以上のハニビーがぶわっと出てくる。
その標的は黒衣の男ではなく、最も近い位置にいた俺だ。
くそ!どうしてこんなことを!
悪意は明らかだった。
俺たちを嵌めて殺す気しかない。
だが、逃がすものか。追跡!
しかし、使い慣れたスキルは俺の心の声には反応しなかった。
そうだった、今の俺はレベル998のレイヤではないのだ。
「サーチ」や「索敵」といったスキルは無いが、《追跡》というスキルはある。
モンスターが逃げたときに使うものだが、今のようにMPKをされたときにはプレイヤーに対して使う場合もある。
俺の筋力値と敏捷値ならば追いつけないこともないが、このまま走っていくとハニビーのターゲットが分散してあくみんとおとぎが危険だ。
二人とも後衛職であるため、逃げ去るにはステータスが足りない。
退屈だからといって話題を振ってしまった一瞬の気の緩みを呪ってしまう。
今更後悔しても遅いため今は目の前の脅威を取り去らねば。
「二人とも逃げていった奴は後だ。・・・すまない。気を付けろよ!」
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レイヤ 職業ソードマン Lv.29
【HP】156/156(+20)
【MP】108/108(+10)
【筋力値】137(+25)
【敏捷値】232(+145)
【幸運値】78(+10)
【魔力値】46(+10)
【攻撃力】77
【防御力】88
【回避率】10
【命中率】15
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】バスターツーハンドソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン スズガントレット スズブーツ 獣のリング+2 ライトイヤリング+2 ライトペンダント+2 シルバーウォッチ
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.23 バーティカルLv.23 スクエアLv.20 ホリゾンタルLv.17 ペネトレイトLv.16 ストライクLv.12 パワーウェーブLv.6 鍛冶Lv.8 錬金術Lv.5 細工術Lv.1 エンチャントLv.1 研磨Lv.2 料理Lv.3
【所持アイテム】薄い布の寝袋 銅色ハンマー ローズガールの髪×4 回帰の結晶
【所持金】33082MIL




