第17話 団欒
俺たちはお互いに謝った後に、スキンシップをしていたことに気付いて離れた。
その様子を見ていたおじいさんは顔を赤くしてじっとしていた。
まったくこのおじいさんは・・・・・・。
おじいさんが紅茶を入れたというので今は椅子に座っている。
あくみんと対面する形でだ。
「その白い箱は何ですか?」
あくみんは俺の膝に乗っていた白い箱に気付いて問いかけてくる。
「これか?それは箱を開けてからのお楽しみだな」
この中に入っているのはあくみんの大好物だ。
俺もこれは好物である。
その箱をテーブルの上に置くとあくみんが尋ねてくる。
「開けてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
リボンの結び目をほどいて蓋を開けると嬉しそうに言った。
「わぁ!チーズケーキじゃないですか!」
「まぁ、お詫びというか俺も食べたかったんだよ」
「ありがとうございます。私もいつかお返しをしますね」
「それは楽しみだな」
あくみんは笑顔で言い、心躍らせている。
その晴れやかな笑顔を見て、肩の力が抜けて脱力感。
笑顔っていいよな。
「これは美味しそうなチーズケーキですね。どうぞ紅茶です」
おじいさんがポットと紅茶が注がれたティーカップを運んできてくれた。
湯気とともに非常に繊細でフレッシュな香りが漂ってくる。
「どうも。おじいさんもいかがですか?」
「催促したわけではありませんよ。フレンチトーストを作りましたので結構です」
そうか、俺たちのために作っていてくれたのに申し訳ないことをしてしまった。
「せっかくのご厚意をすみません」
「まだ、私一人分しか作っておりませんので気にしないでください」
そうは言うけれども、フライパンから覗くフレンチトーストの量はどう見ても3人分以上もある。
お代わりの分まで作っていてくれていたのだろう。
気が咎めてしまう。
「私はあちらの部屋で朝食をとりますのでゆっくりなさってください」
おじいさんはフライパンを木の板に乗せ、皿やフォークなどを持って隣の部屋に入っていった。
これまでに見たことが無い反応だ。
焦ってあれこれと考えていた時にNPCについて思い返していたが、やはり彼らは生きているのだろうか?
今はそのことは考えないでおこう。
あくみんと一緒にチーズケーキを食べるのだ。
この団欒を楽しもう。
「ベイクドチーズケーキなんですね。私、スフレよりもこっちの方が好きなんです」
「ああ、前にベイクドの方が好きって言っていたからな」
「覚えていてくれたんですね」
「当たり前だろ。食べようか」
仮想世界では五感が完全に再現されてはいないと言ったが、唯一まともだったのは味覚だ。
繊細な味を再現するのは難しいようだが、漠然とした味は味わえた。
といってもやはり仮想世界クオリティーなので大したことはないが。
だが、昨日、夢だったはずだが、フレンチトーストを食べて甘いだけではなく、ふっくらとした卵、ほのかなミルクの味わいがあった。
そこだけは正夢であって欲しいな。
食べてみたらわかることだ。
おじいさんが2人分の皿とフォークを置いていってくれたので、皿ににのせたら合掌。
「「いただきます!」」
ベイクドチーズケーキの先端をフォークで大きく切り取りパクり。
おお・・・・・。
表面のベイクド部分はバターのコクがあり、内部の柔らかな部分は滑らかな口当たり。
甘さは控えめでほどよい酸味とのアクセントがバッチリ。
感涙ものだ。
ゲーム的要素を含んだ異世界に飛ばされたが、味覚が現実と同じになっていてよかった。
痛覚も感じるのはイラつくが。
喉が渇いたため、紅茶で潤そう。
しっかりと香りを楽しんでティーカップに口をつける。
美味しい。
香気も素晴らしいものだが、テイストはその上を行っている。
よく抽出されており、ムラが無い。旨味が凝縮されている。
こだわられた上質な紅茶だ。
―――美味しかった。
紅茶とチーズケーキを食べ終えたためバフがかかるがどのような効果だろうか。
ステータス関係が多いが、装備強化の成功率が一定時間上昇するようなバフもある。
楽しみだな。
【紅茶の使用効果により5分間幸運値+10】
【ベイクドチーズケーキの使用効果により5分間アイテムドロップ率+10%】
ほほう。アイテムドロップ率か。
5分間だけのため、狩場へ行こうとしても途中で切れてしまうだろう。
本当はどのような効果があるのかは知ってはいたが。
俺はベイクドチーズケーキをトルーアの南部に位置するケーキ屋で買ってきたのだが、店によって見た目が異なる。アイテムの固有名は変わらないので効果は同じだ。だが、今はただ甘いだけではなくて繊細な味がわかるようになったため、もしかすると店によっては違った味なのかもしれないな。
今度はあくみんに他の店のベイクドチーズをおごって―――――――――
ログが表示されて消えると、俺の中で何かが引っかかった。
何万回と見てきたログだ。
だけど、今回のは何か違う。
表示されたログのデザインが変更されたわけではない。
なぜか血の気が引いてきて呼吸が乱れる。
首も熱くなってくる。
思い出せ。
夢であったはずのフィールドボスとの戦闘が思い起こされる。
あくみんを助けたはいいものの、俺は鎌で頭を刈られた。
そして、首を跳ね飛ばされたと認識して、死ぬとわかった。
その時の薄れゆく意識の中で―――――
ログだ。
視界が霞んでいて、内容は読み取ることはできなかったがログが流れていた。
何万回も見てきたのだ。絶対にログである。
HPがゼロになったときに死亡したことを示すログは流れるのだが、目立つように赤文字で書かれている。
しかし、うっすらと見えていたのは通常通りのログだったはずだ。
思い出そうとしても肝心の文字部分が見えていなかったため無駄だ。
そもそもただの夢であるのだ。
忘れてしまえばいい。
「どうかしましたか?」
あくみんが不安そうな様子で気遣ってくる。
また俺は思いつめた顔でもしてたのか?
もうこれ以上心配をかけたくない。
弱みはみせるな。
「バフのドロップ率アップだったりもったいないと思ってな」
「もう、意地汚いですよ」
「仕方ないだろ。職業病というか、ダンジョンでレベルを上げている時はバフをきっちり消化していたから気が済まないんだよ」
「まあ、もったいないとは思いますが」
「俺とそう変わらないだろ」
あくみんはニコリと笑ってくれたので俺も笑いで返す。
ぎこちなかったかもしれないが。
あくみんは笑いの余韻を残しながら口を開いた。
「あの、話は変わりますけど、ひとついいですか?」
「なんだ?」
「昨日モンスターを倒しに行こうと言いましたが、今日はやめておきませんか?気持ちが落ち着いた頃がいいと思うんです」
「ああ、そうだな。だけど、明日には始めよう。あいつらはおそらく今もレベルを上げ続けているだろうから」
「・・・皆、元気にしていたらいいのですが」
かつてのギルメン達は今どこにいるだろうか。
追いつかなければ。
そういえば、ギルドを新設したのは夢の中だったよな。
それでは男と女性プレイヤーの件は?
「うわあああああああああああああああああああぁぁぁ!!!」
―――――考えていると。突然窓ガラスが揺れ、外から叫び声が聞こえてきた。
俺の中で悪寒が走った。
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レイヤ 職業ソードマン Lv.5
【HP】45/45(+20)
【MP】31/31(+10)
【筋力値】19(+5)
【敏捷値】18(+5)
【幸運値】9(+0)
【魔力値】5(+0)
【攻撃力】23
【防御力】43
【回避率】0
【命中率】7
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】イルダブルソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.2
【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 ブラウンウルフの毛皮×2 ブラウンウルフの牙×3
バタークッキー×3 薄い布の寝袋 回帰の結晶 ベイクドチーズケーキ
【所持金】2741MIL




