第10話 前を向く
あの後、俺たちは宿屋の部屋に戻り戦い方について話し合ってタタトス渓谷に向かった。
あくみんの職業はアーチャーであるため後衛で、俺は前衛に回ることに。
あくみんは俺の身を案じて扱いに長けた弓ではなく、大体の職業が装備できる短剣で戦うことを提案してくれたが俺はその申し入れを断った。
〈Fantasy Tale〉での初期職業におけるスキルは自分のレベルが上がった時に自動で習得する。
しかし、弓のスキルを習得したくても短剣を装備していたら短剣のスキルを習得してしまう。
一応弓と短剣のスキル両方を習得できるのだが、スキルのレベルが上がりにくくなるためとても厄介だ。
慣れない短剣を選択してしまったことであくみんに負担はかけたくなかった。
さて、そろそろ到着しそうだな。
見えてきた。
「うっ・・・・・・・・・」
早朝とは違い、人はほとんどいない。
あちらこちらで葉や雑草などの緑が赤色に染められており凄惨たる現場だ。
ここまで来るまでに武器や防具を装備したプレイヤーと行き違った。
中には血を流しているプレイヤーや涙を流しているプレイヤーがいた。
その道行くプレイヤーに話を聞いたのだが、女性がウルフに咬まれて血を流したことから混乱が起きたらしい。
連れの男はポーションを買いに女性プレイヤーをおぶって急いでトルーアまで戻ったと聞いた。
その男と女性プレイヤーはギルドホールの近くの、まさに俺たちが目撃した二人だったらしい。
おそらくその話は今頃トルーアにいるプレイヤーたちの間で広まっているはずだ。
だから、全く人がいないのだ。
「レイヤさん、やっぱり私短剣を・・・・・・」
俺の表情から何か暗いものを感じたのかあくみんが心配そうに言った。
「弓でいい。俺は大丈夫だ」
大丈夫なんかじゃない。
死ぬのが怖い。
でも、あくみんに心配はかけたくない。
大切な仲間を守りたい。もう誰も失いたくはない。
俺がしっかりしないとな・・・。
「まだパーティーを組んでいなかったな。申請送るぞ」
俺はプレイヤーウィンドウからあくみんにパーティー申請をする。
【あくみがパーティーに参加しました】
ログが流れると、俺のHPゲージの下にあくみという名前とHPゲージが追加された。
これはただのHPゲージなんかじゃない。命の残量だ。
俺はこのHPゲージを1ドットも減らしてはいけない。
かつてのHPゲージとは違うのだ。攻撃を受けても痺れるのではなく、本当に身体を傷つけ、血を流す。
少しでも減るという事は血を流すということ。
だから、本当にこの一本のゲージは命の残量であり、減らしてはいけない。
仮想世界などではない。今、心臓を鼓動させて生きている現実なのだ。
血で染められた現場を離れて少し歩くとモンスターがいた。
【Normal Monster】ベアー Lv.8 アクティブ
ベアーか。
レベル8のためあくみんにとってはステータスが足りないが、俺が前を支えるため大丈夫だ。
「話し合った通りに動くぞ、気をつけろよ」
「はい!」
俺の技量だとベアーの攻撃を防ぐことは余裕だ。
しかし、ベアーは経験値と金を得るための獲物などではない。
俺の肉を喰らい、敵意を向ける本物の熊なのだ。
できれば戦いたくはない。
他のプレイヤーと同じように町へ戻りたい。
でも・・・それでも・・・もう決めたことだ。
俺は背中の剣の柄を強く握りしめ、空高く振り上げ戦闘の体勢を整える。
ベアーはその金属音を聞いて俺にターゲットを取り、地を蹴った。
左腕を振り上げ鋭い爪で攻撃するモーションを見せてくる。
敏捷値の積みにより現実とは異なる加速された速度で横に動き、パリィしやすい位置で処理。
モンスターにも攻撃時の反動で動けなくなる瞬間がある。
俺はその瞬間を狙いスキルで攻め立てる。
「スラッシュ!」
左から切り払い、「ぐもおおぉぉ!」と雄叫びをあげるベアー。
クリーンヒットしたためHPゲージは5割ほど減少。
次の攻撃をしたいのだが、スキルを発動したため、俺もほんの一瞬動けない。
だから《スラッシュ》を発動しつつ、ベアーの動きを見て次の動きを予測。
ベアーは今度は右腕で俺を爪で切り裂こうとするのでパリィをしようとしたが―――――
「ファイアーアロー!」
炎を纏った矢が俺の頭部の左横を通り過ぎてベアーに命中。
俺が硬直している間を狙った絶妙なタイミングだった。
あくみんが放った一撃だ。
しかし、レベル差があるため仕留めきれず、ベアーは動きを止めて後ずさる。
この隙を俺は逃さない。
《スラッシュ》はまだクールタイム中のため通常攻撃だ。
パリィの動作を止め、右下から斜めに思いきり斬り上げる。
胸辺りを斬ってベアーのHPがゼロになり、シュウゥゥゥゥゥゥ・・・、と消えてゆく。
レベルアップのファンファーレ。
俺ではない。
パーティメンバーであるあくみんのレベルが上がったのだ。
普通ならば「おめでとう」と言うところだが今はそんな雰囲気ではない。
嬉しいはずのレベルアップ。
今は身を賭さなければレベルは上がらない。
だから、喜べるはずがない。
「・・・次、行くぞ」
「はい・・・」
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レイヤ 職業ソードマン Lv.5
【所属ギルド】果てなき幻影
【HP】45/45(+20)
【MP】31/31(+10)
【筋力値】19(+5)
【敏捷値】18(+5)
【幸運値】9(+0)
【魔力値】5(+0)
【攻撃力】23
【防御力】43
【回避率】0
【命中率】7
【装備追加効果】無し
【装備追加セット効果】無し
【装備追加スキル】無し
【称号】無し
【装備武器】イルダブルソード
【装備防具】初心者のシャツ 初心者のズボン メタルガントレット メタルブーツ 獣のリング
【装備ペット】無し
【習得スキル】スラッシュLv.2
【所持アイテム】青色の小さなポーション×6 バタークッキー×3 薄い布の寝袋 回帰の結晶
【所持金】217MIL




