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デヴィル  作者: カワラヒワ
9/26

始まり

「デヴィルとおれは、ある日気が付いたら、雪がたくさん降る夜空を飛んでいた」

(ネコは悪魔のことをデヴィルって、呼ぶんだな)

ぼくは思った。

「そこは寂しい所で、離れた間隔で、家の明かりがぽつぽつ見えるだけで、あとは山や林があるばかりの土地だった。デヴィルとおれは、あてもなくただ飛んでいた。


おれたちはいつからか、人間の怖がる顔や、悲しむ顔を見るのにも飽きて、悪事をしなくなっていた。だから、たいして何もすることがなく、ぼんやりと毎日を過ごしていた。


時々は、退屈しのぎに、ちょっとしたいたずら、例えば、急に強い風を起こすとか、雨を降らせるとかして、人間が驚いたり、慌てふためく様子を見て笑うぐらいのことだった。


そんなおれたちだったけど、その日、デヴィルが一軒の家に目をとめたことが、始まりだった。デヴィルはその家に近づいた。だけど、興味があったのは、その家じゃなく、その隣りにある小さな物置小屋だった。


『なにするんだ?』

おれがきくと、

『小さな生命が消えようとしている』

って、デヴィルが言うんだ。

『それがどうした? そんなの別に珍しいことじゃないじゃないか』

 おれは面倒くさくなって言った。

 『看取ってやろうよ』

『えっ?看取る? 悪魔のおまえが?』


変なことを思い付くやつだよ。時々、デヴィルは気まぐれを起こして、そういうことを言うんだ。魂を盗むんじゃなくて、看取るだぜ。だけど、盗むのも看取るのも同じことだ。どうせ自分の物にするつもりなんだと思って、おれはデヴィルについて行った。


死にかけている命は小さな女の子だった。息も細くなって、心臓もすぐにでも止まりそうだった。おれはうれしくなって、久しぶりにほくほくした気持ちで、女の子が死ぬのを待っていた。

 それなのに、デヴィルは、

『まだ、死なないよ』

そう言って、物置小屋から飛び出して行った。そして、戻って来たと思ったら、コップに水なんか入れて持って来るんだぜ。驚いたよ。だって、それは明らかに女の子に飲ませてやるための水なんだから。


呆気に取られているおれをよそに、デヴィルは女の子の体を起こして、水を飲ませた。デヴィルが持って来た水だ。どんなやつだって元気になるんだ。

 すぐに、女の子の心臓が強く打ち始めて、呼吸が深くなるのが見えて、おれは、

『何するんだ。もう少しだったのに』

って言った。するとデヴィルは、


『いいじゃないか、たまにはな』

なんて言うんだ。まさかだよ。あのデヴィルが人を助けるなんて、信じられない。

あんな残酷で冷血だったデヴィルが、こんなことをするなんて。その極悪非道の行いで、仲間からも怖がられ、尊敬もされていたのに。デヴィルはもう、おれの知っているデヴィルではなくなったんだ。おれはがっかりして、そんなデヴィルは見たくないと思ったよ。

 

 ちょっとしてから、女の子は目を開けて、びっくりした顔でおれたちを見ていた。

ガリガリに痩せていたけれど、美しい目をした女の子だったよ」

(ネコ、きみの目だって美しいよ)

ぼくは思った。


「デヴィルは、また小屋から飛び出すと、今度はパンなんか持って帰ってきた。そして、それを女の子に差し出した。

『ありがとう』

女の子は小さな声で言った。その時のデヴィルの顔! 泣くみたいな笑うみたいな顔をしてさ。その顔を見ておれは吹き出したよ。人間にありがとうなんて、言われたのは初めてだったから、どんな顔をしていいのかわからなかったんだな。


女の子はパンを受け取ると、パクパクとおいしそうに食べた。よっぽど腹が減っていたんだ。食べ終わると、女の子は両手を合わせて、


『ごちそうさま』

って言ってから、また、おれたちを見て、

『ありがとう』

って笑った。デヴィルはどうしたと思う? 今度はデヴィルのやつ、にこりと笑い返したんだぜ。おれはデヴィルのあんな顔は、あの時初めて見たよ。

でも、なぜか悪くないと思った。


 外の雪は降り続いていた。風も強く吹いていて、小屋のすき間から雪が入って来る。女の子は腕を摩りながら、ブルブル震え出した。そりゃあ、こんなに寒い所で上着も着ないでいれば、そうなるだろう。デヴィルはそれを見ると、また、小屋を飛び出した。何をしに行ったか、おれにも察しがついたよ。


思った通り、デヴィルは毛布を抱えて、帰って来た。デヴィルは何も言わずに、女の子の体に毛布を巻き付けると、抱っこして自分の膝の上に乗せた。おれはデヴィルがなぜ、こんなことするのかわからなかった。気まぐれにしちゃあ度が過ぎる。

でも、女の子は、

『温かい』

って言ってにっこり笑った。その顔を見た時、おれもまあいいかって気持ちになった。それからおれ は、 女の子の膝の上に乗っかって丸まった。どうしてか、そうしたくなったんだ。女の子は疲れていたからすぐにクークーと眠ったよ。


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