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デヴィル  作者: カワラヒワ
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妻はお見通し

ネコと口をきいたあの日から、何日かたった。ぼくは毎日、悪魔とネコのことが気になって仕方がなかった。


皆が寝静まった夜中に、悪魔たちの様子を見にベランダに出てみるけれど、やっぱり妻がいると思うと落ち着かず、ゆっくり見ていられない。


でも、悪魔たちは相変わらず、毎日あの場所に来ていたし、少しの時間でも、悪魔たちの姿が見られると思うと、夜になるのが待ち遠しかった。

妻がもっと夜勤をしてくれたらなあ、と自分勝手なことを思っている。


昼間は向いのマンションの、住人の姿が見えないかとしょっちゅう見ている。洗濯物がベランダに干してないのは、乾燥機で乾かすか、部屋の中で干しているのだろう。近くにコインランドリーもあるから、そこを利用しているのかもしれない。

 でも、一度だけベランダの戸が開いていて、女の人の姿がちらっと見えたことがあった。顔は見えなかったけど、髪の長い人で細い感じの女の人だった。すぐに見えなくなった。

  しばらくそのまま待っていたけれど、ちょっと用を足しに行っている間に戸が閉まっていた。

  残念だったけど、住人は女の人だということがわかった。一人暮らしだろうか。


  悪魔たちはあの人に会いにここへくるのだろうか。

  今度ネコに会ったら、一番にきいてみたいと思った。


  今夜、妻は、子供たちが眠ると、ウイスキーのロックを飲みながら、撮りためていたテレビ番組の録画を見ていた。 ぼくも、それに付き合ってビールを飲んで、ピーナッツをつまんでいた。


  「ねえ、コージ、最近のあなた、なんかそわそわしていない?」

  テレビのスイッチを切って、妻が不意に言った。お笑い芸人たちのたくさん出演しているトーク番組が、丁度コマーシャルになった時だった。

  妻は、いつも真面目な話しをする時は、テレビを切るのだ。


  ぼくはビールが喉につっかえそうになった。何だってそんなこと聞くんだ。気付かれないように、細心の注意を払っているというのに。

  「そわそわなんてしてないよ。そわそわする理由もないし。セッちゃんの思い過ごしだよ。そわそわしてるなんて・・・」

  ぼくは自分の顔が赤くなるのを感じた。きっとばればれだ。ぼくはどうしていつもこうなんだろう。うその言い訳が、なぜこうもへたなのか。妻には特にそうなのだ。妻はなんでも、ぼくのことをお見通しみたいに思えて、ぼくはいつでもどきまぎしてしまう。

  だけど妻は、

  「ふーん」

  と頷いて、上目づかいにぼくの顔を見てから、

  「それなら、いいのよ」

  と言った。


  妻は何か変だと思っているはずだけど、それ以上聞かなかった。

  妻は、ぼくより二つだけ年上だけど、そういうところはぼくよりもずっと大人だ。

  ぼくだったら、こんな時は気が済むまで問いただすだろうから。


  テレビのスイッチを妻が入れた。

  ぼくは立ち上がって、

  「もう寝るよ」

  と言った。

  「うん、おやすみ」

  妻はテレビから視線をそらさないで、手だけを上げて答えた。


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