表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デヴィル  作者: カワラヒワ
4/26

休日の朝

暑くて目が覚めた。

 時計を見ると、午前十一時だった。カーテンの隙間から日が射している。

ダイニングからは子供たちの笑い声と、食器がカチャ、カチャ触れ合う音がしている。隣の布団は使った形跡はあるが、空っぽだ。


ぼくはうわっと言って、飛び起きた。

寝坊した! どうしよう、子供たち、完全に遅刻だ。一瞬ぼくは固まった。

はっ、しかし、待てよ。今日は日曜日で学校は休みだ。

ぼくはほっとして布団の上にパタンと倒れた。

そうだった。妻も今日は仕事は休みで、珍しく誰の予定も入ってなくて、今日は一日、時間に追われない自由で貴重な一日だったのだ。


「お父さん、今、うわって言ったね」

ダイスケが笑いながら部屋に入ってきて、ぼくのお腹にダイブした。

「ヴエッ!」

ぼくはわざと大きな声を出して、ダイスケを抱きしめる。


小さくて、柔らかくて、かわいい。


こいつのことをこんな風に思えるのは、後何年だろう。三年か四年か?

「お父さん、また寝ぼけて、今日が休みだってこと忘れて、飛び起きたのよ」

妻とワカナが、あははと笑っている。

 「お父さん、苦しい」

ダイスケがぼくの腕を振りほどこうと、もがいている。

ぼくが腕の力を緩めると、ダイスケはもがくのをやめた。


隣の部屋から、ジューッと音がした。妻がぼくのオムレツを焼いているのだ。ぼくの大好きなフワフワのオムレツ。

妻は料理が上手い。ぼくなんかよりも。家にある残り物の材料で、手早く、おいしい料理を作る。いろんなアイデアを持っていて、かなわないなあといつも思う。

でも、ぼくだって料理が苦手というわけじゃない。一人暮らしをしていた時から料理はしていたし、作るのはどっちかというと、好きな方だ。


カレーライスのルウも出来ているものではなく、スパイスを一からをブレンドして作るし、スパゲティだって、ちゃんとアルデンテに茹でる。

つい、凝り過ぎて本格的に作ったものが、子供たちの口に合わない料理になっているということが、最近わかったけれど。

妻はいつも、ぼくの料理をおいしいとほめてくれるけど、ほんとうかなあ。


ダイスケは、ぼくの心臓の音を聞いているみたいに、片耳をぼくの胸につけて、まだお腹の上でじっとしている。

 「重いよ」

ぼくが体を揺らすと

「へへへっ」

と、ダイスケは笑って、ぼくのお腹をぐいっと押して、立ち上がった。

「グエッ!」

ぼくはまた大げさに言った。


「おはよう。パン、すぐに焼けるから」

キッチンに行くと妻がにこやかに言った。

「おはよう。昨日、帰って来たの知らなかったよ。よく眠っていたんだな」

 ぼくが言うと、妻は少し首をかしげて、いいの、いいのと笑って言った。

「はい、コーヒー」

グラスになみなみと注がれたアイスコーヒーを、ワカナがコースタの上にそっと置く。


最近のワカナは、何かとぼくの世話を焼いてくれる。それがすごくうれしい。

「ありがとう」

ぼくは言って、新聞を広げ、パンが焼けるのを待つ。

家族が揃っている、のんびりとした朝(もう、昼に近いけど)。子供たちが冗談を言い合っている横で、妻がそれを見て笑っている。こういうのっていいなって思う。

ぼくはコーヒーを一口飲んだ。


昨夜のことが思い出される。

子供の姿をした悪魔。ベランダの手すりに座った、孤独そうな後ろ姿。

あの悪魔にも、親や兄弟がいるのだろうか。楽しいことや、幸せに思うことがあるのだろうか。

頭の中で、そんなことを考えていた。


「お父さんてばっ!」

ワカナが大きな声で言った。

「えっ?」

ぼくが顔を上げると、

「マーマレードか、ブルーベリーのどっちにするって、さっきから訊いているのに」

ワカナが、妻が時々するみたいに眉間に皺を寄せて、口をとがらせている。

「あっ、ああ、ブ、ブルーベリー」

ぼくは新聞をたたみ、背筋を伸ばして言った。


前に置かれた、オムレツから湯気が上がり、おいしそうな匂いが部屋に広がった。

「はい」

ワカナがブルーベリージャムを塗ったトーストを渡してくれる。

「うまいなあ 」

トーストをかじり、オムレツを口に入れてぼくは言った。

妻とワカナがまた、クスクスと笑う。

悪魔は何を食べるのだろうか。好きな食べ物とかはあるのだろうか。

ぼくはまた、そんなことを考えていた。


テレビを見て笑うダイスケの声が、部屋のなかに響いている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ