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デヴィル  作者: カワラヒワ
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過ち

ミワコさんは、自分の勤めるスーパーの、お得な情報をたくさん教えてくれた。火曜日はパンの安売りの日だとか、雨の日に安売りになる商品があるとか、夕方はお惣菜が半額になるとか、その他もいろいろと。

ぼくは興味深く、ミワコさんの話しを聞いた。

ミワコさんはパートタイムで働いていて、週休二日だそうだ。週四日は十時~十七時まで働いて、週に一日は十二時~十九時まで仕事をしていると、教えてくれた。

楽しそうに話すミワコさん。仕事が好きなんだな、とぼくは思った。


アイスコーヒーで体が冷えてきて、エアコンの冷房もよくききだした。

「少し寒くなって来ましたね」

ミワコさんが、エアコンの近くに置いてあるリモコンを手に取った。

「あれ? 切れない」

伸ばした腕をエアコンの方に向け、ミワコさんがスイッチを何度も押している。

ぼくは立ち上がって、ミワコさんの方へ行った。

差し出したぼくの手に、ミワコさんがリモコンを乗せる。

「本当だ。切れない。リモコンの電池が切れたのかもしれませんね」

ぼくは言った。

「きっと、そうです。長いこと替えていませんから」

ミワコさんは言って、

「電池の買い置きがないなあ。どうしよう」

と腕を組んだ。

「本体の電源を切りますか?」

「ああ、そうすればいいですね。電源ってどこにあるんですか?」

ミワコさんがエアコンを見上げて言った。

「ここです。切りますよ」

ぼくは背伸びをして電源を切った。

「なるほど、そこですか。そこを切ればいいんですね。知らなかった」

ミワコさんが感心したように言った。


ぼくのすぐ横に立って、微笑むミワコさん。ミワコさんは、ぼくが少し手を伸ばせば触れられる程、近くにいる。ぼくがほんの少し手を伸ばせば・・・。

急に、あの時ネコが化けた、黒いドレスのミワコさんの姿が目に浮かんで、あの感覚が蘇った。

なまめかしく、ぼくに抱きついたミワコさん。ミワコさんに触れた時のやわらかく、温かい感触、唇の匂い、息づかい。 

体がぞくぞくしてきて、ぼくはどうしょうもなく、ミワコさんを抱きしめたくなっ

た。そして、その気持ちを抑えることができずに、ぼくはミワコさんを抱きしめた。

華奢な体。腕に力を入れれば、折れてしまいそうだ。

ネコが化けたミワコさんじゃない。正真正銘の本物のミワコさんだ。

愛おしさが込み上げる。

ミワコさんは、嫌がる様子もなく、ぼくの腕の中でじっとしている。

自然な流れでぼくはミワコさんにキスをした。

やわらかく、ちょっと冷たい唇。

ミワコさんは、どんな表情をしているのだろう。

ゆっくりと唇を離した。

ミワコさんは、ちょっと悲しそうな顔をして微笑んだ。

  もう一度、唇を近づける。

ミコワさんは顔を斜め下に向けて、ぼくの唇を拒んだ。 

ぼくははっと我に返り、ミワさんから体を離した。

「すみません」

ぼくは言った。

思い上がりもいいとこだ。こんなにきれいな人が、ぼくなんかと上手くいくはずがない。

「ううん」

ミワコさんは首を横に振った。

「帰ります」

ぼくはミワコさんに背を向けた。

「ごめんなさい。私・・・」

ミワコさんの小さな声が聞こえる。

ぼくは靴に足を突っ込み、ドアのノブに手をかけて、

「すみませんでした」

と振り向きもしないで言った。

「また、スーパーに来て下さいね。きっとですよ」


下をむいたまま、何も答えず、ぼくはドアの外に出た。

ドアが閉まる時、少し離れた所に立っている、ミワコさんの姿がちらりと見えた。

ぼくは足早に階段を降りた。

ぼくは・・・、ばかだ。

もしかして、ミワコさんもぼくのことを好きなのかもしれないなんて、うぬぼれていた。そんなわけないのに。

あんな事をしたら、こうなるのは目に見えていた。それなのに、どうしてあんな事をしてしまったのだろう。

取り返しがつかない。終わりだ、終わり。もう、ミワコさんに会えない。


通りに出ると、電信柱にとまっていたカラスが、カアと鳴いて飛んで行った。

ネコはきっと、こんなぼくを見て、笑っているんだろうな。

見上げる空は、ぼくの心と裏腹に青く澄み渡っていた。

ぼくは自分のことが、恥ずかしく、なさけなく、泣きたいくらいに腹立たしかった。


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