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デヴィル  作者: カワラヒワ
13/26

ネコとクッキー

 次の日の朝。

子供たちを送り出し、一通りの家事を終わらせたぼくは、ミワコさんの住むマンションへ向かった。

夜勤から帰った妻は、寝室でぐっすりと眠っている。買い物に行くついでにちょっと寄ってみるだけで、べつにやましい気持ちはない、と自分に言い訳をした。


六階の、この辺だと思う部屋の、表札を見てみる。思った通りだ。「相田ミワコ」と名前があった。

「相田」という名字か。ぼくは感心しながら、ドアの前を行ったり来たりして、部屋の様子をうかがった。しかし、在宅か留守かもわからなかった。

  でも、名字がわかったことに、ぼくは満足してマンションを後にした。


夕方、夕食の準備をしながら、ミワコさんの部屋の電気が何時につくか、以前よりも一段と気にかけて観察した。そのかいがあって、その日、ミワコさんの部屋の電気がつく瞬間を見ることができた。「午後五時四十五分」ぼくはメモ帳に日付と時間を記入した。


  その後も観察を続けた。一週間のうち四日は、午後五時三十分~六時ぐらいに電気がついた。八時についた時もあったし、暗くなりかけた時間についた時もあった。

ミワコさんはどんな仕事をしているのだろう。帰宅時間からして、そう遠くない所に仕事場があるのかもしれない。パートタイマーだろうか。


朝に、何度かマンションにも行ってみたけれど、いつも、部屋は静かでミワコさんが部屋にいるのか、いないのかわからなかった。

  ぼくは、日付と時間が書かれたメモ帳を見ながら、

(まるで、ストーカーだな)

と苦笑いをした。

 相変わらず、夜中にミワコさんのベランダに来ている。悪魔とネコは、ぼくがこんなことをしているのを、知っているのだろうか。知っていたら、どんな風に思うだろう。ばかなやつだと笑っているのかもしれない。ネコなら、べつにいいさ。と言ってくれそうだけど。

 明日は妻が夜勤だ。

 ぼくがベランダに出ていたら、ネコはまた、ぼくの側に来てくれるだろうか。ネコにミワコさんの事をきいたら、教えてくれるかな。悪魔とネコのこともやっぱり、気になるけれど、今のぼくは、それ以上にミワコさんのことを知りたいと思っていた。


 妻の夜勤の夜。

静かだけど、風がなく蒸し暑い。

例のごとく、ぼくがベランダに出ていると、悪魔とコウモリは現れた。コウモリ

は、ぼくに気付くとすぐにこちらに向かって飛んできた。

 悪魔もきっとぼくに気付いたはずだけど、真っ直ぐ前をむいたまま振り向きもし

ない。わざとこっちを見ないのか、もしかしたら、ミワコさんのマンションに行って

いる、ぼくのことを怒っているのか。すごく気になる。


「よお」

 コウモリがネコに変身して言った。

「こんばんは」

機嫌のよさそうなネコの声に、ぼくはほっとして言った。

ネコはぼくと話しがしたいんだ。そして、ぼくも、恋人にやっとに会えた時みたいに何か恥ずかしくて、嬉しかった。

「この間は、たくさん話しを聞かせてくれて、ありがとう」

 ぼくは、そう言って笑った。

「別に、大したことじゃないさ」

 あくびをしながらネコが言った。

「こんなの食べるかい?」

 クッキーの入った瓶を持ち上げて、ぼくは言った。

「なんだ? それ?」

「クッキーだよ」

   瓶のふたを開けながら、ぼくは言った。家族でも好評のぼくの手作りクッキー。

 手のひらに乗せて、ネコの前に差し出す。

「おいしいよ。ぼくが焼いたんだ。食べてみて」

 ネコはクッキーの匂いをかいでから、小さな口で一口かじって、

「まあまあだな」

 と言った。

 それからサクサクといい音をたてて、手のひらのクッキーを平らげた。

「もう一つくれ」

 ネコが言ったので、ぼくはまた手のひらに乗せて差し出した。

「おいしいだろう?」

 ぼくがきくと、

「まあまあだ。フフフッ」

 ネコが笑った。手のひらに乗せた二つのクッキーも、すぐに食べてしまったので、

もっといるかときくと、もういいと言って、首を横に振った。


 ネコは満足したように、舌で口の周りを舐めてから、丁寧に顔の毛づくろいをし

た。

 その後、びっくりしたことが起こった。ぼくが肘をついている腕に、ネコが頭を

擦りつけて来たのだ。目を細めて、甘えた様子でのどをゴロゴロと鳴らしている。

テレビなんかでよく見る、ネコ特有の仕草だ。

 ネコなど関わったことのないぼくは、ネコにこんなことをされるのは初めてで、

驚いて動けなくなった。それにこのネコは、ふつうのネコではないのだから。悪魔

の仲間で魔物なのだ。そんなネコがぼくなんかに甘えた様子を見せるなんて。 

 なんか変な感じだけど、かわいいい・・・・。魔物なんて思えない。今はどう見てもただのネコ。美しく、小さな甘えん坊のネコだ。


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