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空木コダマの奇妙録 ~百怪対策室におまかせを~  作者: 中邑わくぞ
第十二怪 ヴィクトリア・L・ラングナー
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第十二怪 その2

 なぜか百怪対策室に置いてあった僕と笠酒寄の私服に着替え、室長のクルマに乗り、途中に休憩を挟みな

がら五時間。休憩は一時間程度だったから移動時間は四時間ほど。 


 そんな道のりを経て、僕たちはとある山の麓に来ていた。


 整備された道はなくなっており、クルマで入ることが出来るのはここまでのようだ。


 「ここが目的地ですか? ……製造施設とかが有るようには見えないんですけど」


 「クルマで入れるのはここまでというだけだ。目的地はもっと上だ」


 後部座席から質問した僕に対してぞんざいに答えながら、室長は既にデカいスーツケースを持ってクルマから降りていた。


 慌てて僕と笠酒寄も降りる。


 鍵もかけずに室長はそのまま山頂へと続くと思われる山道に入っていく。


 「ちょっと室長、鍵かけなくていいんですか? クルマ盗まれちゃいますよ」


 「問題ない。私の許可が無い生物が入り込んだら栄養にされる仕組みになっている」


 そんなことになっていたのか、このクルマ。っていうかコイツ生物か。


 室長周辺のモノにはうかつには触れないと思っていたのだが、まさか人を乗せるクルマにまでそんな類いの仕掛けをしているというのは、もはやいたずらが過ぎるを通り越している。


 絶対に今までに死人が出ている。


 「空木君、将来クルマ買うときにはヴィクトリアさんに細工してもらおうね」


 「お前の中では僕と結婚することと、クルマ買うことは確定なのかよ……」


 ひそひそと、僕にだけ聞こえるように笠酒寄は突っ込みどころ満載のことを言ってくる。


 なんだか、佐奈(さな)(ひら)君との接触以来、やけに押しが強くなってきている。


 女子と付き合うのが初めての僕にはちょっとばかり引いてしまう部分もある。


 そこを許容できてこその男なのだろうか?


 疑問はつきない。


 ともあれ、室長を見失うわけにはいかないので、僕と笠酒寄は室長について山に足を踏み入れた。





 ずるずるとスーツケースを引きずりながら室長は山道を進む。


 途中、足を止めることもあったが、それは方向を確認しているだけのようだった。


 コンパスと地図を取り出して眺めていたから、多分そうだろう。


 ストッキングが伝線してしまうことを気にしている笠酒寄に(あき)れながら(そもそもズボンを履いてこいという話だ)、僕たちは一時間近く山を登っていった。


 特に疲れると言うこともない。


 人間やめているとこういうときには便利だ。


 日も落ちてしまい、暗くなってきても支障は無い。


 元々日光がある間はかゆくて全力を発揮できないので、僕と室長に関しては夜の方が都合がいい。


 その辺りの兼ね合いもあって、昼間から出発したというのもあるかもしれない。


 やがて、開けた場所に出た。


 いや、開けた場所というよりも、そこは……


 「……学校?」


 隣の笠酒寄が不思議そうに呟く。


 そう、僕たちの前に現れたのは学校だった。


 しかも木造校舎で、外観はかなり年季のはいった感じのだ。


 肝試しにでも使ったらさぞいい感じに盛り上がることだろう。


 だがしかし、僕たちは肝試しに来たわけではない。


 合成獣の製造場所を強襲しに来たのだ。


 つまりはここが……


 「合成獣の製造所、だな。廃校になった小学校を利用しているのはおそらく見つかりにくくするためか。こんな場所を訪れる人間なんていないからな」


 室長に先を越されてしまった。


 こういう時には決めたいものだが、そうはいかないらしい。


 室長はスーツケースを地面に投げ出し、そのまま校舎のほうに向かって行く。


 「ちょっと室長、このスーツケースどうするんですか?」


 「それは元凶を放り込んでおくために持ってきたやつだから今は必要ない。たたきのめしてから、ここまで連れてくるからな」


 なんだろう。静かな怒りを感じる。


 こういう時の室長には逆らわないに限る。


 僕と笠酒寄は無駄口を叩かずに室長の後についていった。




 校舎玄関。


 ここは廃校になっている小学校のはずだ。


 しかし、中に入ってみてわかった。


 なんらか、人の手が入っている。


 外からはわからなかったが、中はきれいなものだ。


 今からでも小学校として使用しても問題ないぐらいには整備されている。


 なるほど。たしかにこれは何者かがここを使用しているのは間違いないみたいだ。


 廃校になっているのに手入れされているのは不自然すぎる。


 文化財か何かに指定されているのなら不思議はないが、そんな案内などは全く無かった。


 使われなくなって、その後には放置されているだけのはずだ。


 いや、今は何者かが使っているのか。


 もうこの際、この校舎ごと焼き払ってしまった方がいいじゃないかと思ってしまう。


 使われていない学校なんだし、消火をきちんと出来れば問題はないような気もする。


 多少は事件になるかもしれないが、どうせ事後処理でなんやかんやと処分する羽目になるのだから手っ取り早くていいと思うのだが。


 僕はそんなことを考えて、そのまま室長に伝える。


 「コダマ、万が一、元凶が焼け死んでしまったらどうする? 今回の件では殺しまでは許可されていない。その場合は統魔の追求をキミが受けてくれるんだろうな? 最悪、拘束指定や殲滅(せんめつ)指定もあり得るぞ」


 う。


 依頼は合成獣を無断で製造している魔術師、もしくはそれに準ずる人物、または存在の確保だ。元凶をど

うにかしたはいいものの、百怪対策室がダメージを受けては本末転倒だ。


 やはり、元凶を生け捕りにするしかないみたいだ。


 なるべく殺さず、というのが統魔の理念らしいが、こういう時ぐらいは手段を選ばずに依頼してほしかった。


 それなら辺りを焼き払ってしまうだけでいい。


 いつものことながら、簡単に解決というわけにはいかないらしい。


 結局、いつものように直接対峙するしかないようだ。


 ……覚悟を決めよう。


 今回は初めから室長もいるし、その上に人目を気にして能力を出し惜しみすることもない。


 圧倒的に有利な条件なのだ。


 「ほら、さっさと行くぞ。とっとと元凶をぶっ飛ばして、統魔に連れて行って、その上で自分のやったことをひどく後悔させてやる」


 僕の紆余曲折を経た思考なんて知ったことか、とばかりにいつものようにいたずらっ子のような笑みを浮かべて室長は意気揚々と校舎の奥に進んでいく。


 笠酒寄と顔を見合わせてから、僕たちは室長の後を追った。



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