第十一怪 その6
深夜。
ハイツまねくね二〇一号室、またの名を百怪対策室。
その応接室には三つの存在が、いた。
ヴィクトリア・L・ラングナー。ヘムロッド・ビフォンデルフ。そしてその従者、クリシュナ。
クリシュナは相変わらずヘムロッドの後ろに控えるように立っていたが、ヴィクトリアとヘムロッドはリラックスした様子でソファに座り、タバコをふかしていた。
ついさっきまでコダマもこの場には居たのだが、合成獣を退治した後では疲れ切ってしまい、そのまま帰宅したのだった。
コダマが完全に百怪対策室から離れたことを確信できる時間が経ってから、ヘムロッドが口を開く。
「ヴィクトリア、今回の一件どう考える?」
あくまでさりげなく、世間話のように尋ねる。
「あの合成獣には人間、もしくはそれに近い生命体が合成してあった。現在の統魔で教えている魔術には含まれていない技術だ。つまり、あの合成獣を造った奴は確実にA指定のアイテム、もしくは魔術書を所持しているだろうな。ふん、統魔のミスはいつものことだがな」
ヴィクトリアも大したことではないように返す。
だが、二人とも事態はかなり深刻である、と考えていた。
統魔がA指定にしているモノは危険である。
魔術師でさえも特別の許可が無くては接触が許されない。そういったモノである。
危険な思想の人物に渡っていれば、一般人に対する被害が出る可能性は高い。
魔術師として、それは許容できない。
魔術は秘されるもの。衆目にさらされてしまえば、無用な災禍を招くこともありうる。
中世に起こった魔女狩りが再び到来する可能性もある。
概ね、大きな混乱もなく魔術が維持できている現在を無駄に乱すことはない。
それがヴィクトリアとヘムロッドの共通した考えだった。
「一応、統魔の隠蔽班には連絡しておいたから、今頃は合成獣の死体を回収して、検分しているところだろう。その結果次第では再び私が動くことになるかもしれないな」
面倒くさそうにヴィクトリアは言う。
それは自分に言い聞かせているかのようだった。
「ヴィクトリア。君から見て、今回の合成獣を造った者の狙いは何だと思う?」
「さあな。陣を敷こうとしていたのは確かだろうが、その目的までは不明だな。合成獣が話せるタイプだったのなら聞き出す手段もあったのかもしれないが、今回の奴は脳みそ自体はそこそこ優秀だったみたいだが、話すことはできなかった」
「情報は与えないように……か」
末端には情報を与えないようにしておき、もし敵に捕まっても問題がないようにする。
大規模な組織ではよくあることだった。
となれば今回の事件の裏にはそういった組織がいる可能性は高い。
ヴィクトリアはともかくとして、統魔の重鎮でもあるヘムロッドには頭の痛い問題だった。
最高評議会の一席であるとはいうものの、日本支部に対して命令は出来ない。
支部のことは支部で解決するしかないのが統魔である。
「とりあえず、隠蔽班の活動は滞りなく行われているだろうが、問題は分析班だな。こちらの初動が遅れてしまえば首謀者を取り逃がす危険性もある。ヘム、どうにか出来るか?」
「いいだろう。私の知り合いが日本支部にもいるから、そちらからどうにか出来ないか訊いてみよう。……日本支部ではコトの重大性に気がついていない可能性もあるからね」
ヘムロッドの答えを聞いてヴィクトリアは盛大にため息をつく。
短くなってしまったタバコを灰皿に押しつけて火を消す。
「隠蔽班と分析班は徹夜だな。上のやつらも叩き起こしてやった方がいいんじゃないのか?」
「……起きてくれるなら苦労はしないんだがね。偉くなるとほかに任せることばかり上手くなってしまうから始末に困る」
「お前が雷を落としてやればいいだろうが」
「一応、最高評議会は支部の運営方針に関しては口出しできない。君は知っているだろう?」
「凝り固まった風習は変えにくい……か」
一通り統魔に対する悪態をつき終えると、ヘムロッドはソファから立ち上がった。
「ではヴィクトリア、私はこの辺で失礼するよ。しばらく……この一件が解決するまでは日本に滞在するつもりだ。何かあったらいつもの連絡手段で頼むよ」
ヘムロッドが応接室の出口に向かうのを見て、クリシュナもそちらに向かう。
部屋を出るときに一礼した後、クリシュナはヘムロッドの後を追って部屋を出て行った。
一人残ったヴィクトリアは再びタバコに火を灯した。




