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第十一怪 その5

 廃病院の二階は一階に比べて、荒れ方がひどかった。


 そこら中にゴミやら何かの破片やらが散らばっている。


 「どうやら肝試しをしていた連中はここらで馬鹿騒ぎをしていたみたいだな。今の時期には居なくて助かった」


 その辺の空き瓶を蹴り飛ばしながら室長は呟く。


 犠牲者が増えるだけではなくて、五芒星も完成してしまうのだから何が起こってもおかしくないし、そういう意味では助かる。


 そもそも廃墟に不法侵入するな、という話だが。


 とりあえず、こっちは地面を走るしかないので踏みつけて転ばないように気をつけよう。


 転んだところにまた合成獣の蛇が襲ってきたら(かわ)せる自信は無い。


 「で、室長。肝心の合成獣はどこに居るんですか? もうこの病院から逃げ出している、とかはないですよね」


 「当然だ。奴にとってはここから逃げるということはできない。合成獣は基本的には制作者の命令に絶対服従だ。ここで犠牲者を出さない限りは、別の場所に移ることもできない」


 基本的に、という余計なモノがくっついているのは気がかりだが、今は合成獣を退治することに集中しよう。


 室長はずんずんと迷い無く進んでいく。


 やがて、病室だったと思われる部屋の前で足を止めた。


 「少なくともこの中に、合成獣の蛇の部分はいるな。エアコンのダクトを通ってこられるぐらいだからもしかしたら本体は別かもしれないが、とりあえずは蛇を潰すぞ」


 躊躇(ちゅうちょ)なく室長はドアを開けて、中に突入する。


 ボロボロのベッドが六つほど。


 あとは乱雑に物が散らかっているだけだ。


 いくら蛇は細長いと言っても、あれだけの大きさの生き物を見落とすほどアホじゃない。


 だが、見える範囲には蛇はいなかった。 


 「室長……はず……」


 れ、と言う前にいきなり室長は身を翻し、僕のほうに突進してきた。


 三メートルほど手前でジャンプ。


 そして、次の瞬間には僕の頭上でなにかを掴んでいた。


 蛇だ。


 さっき僕にかみついた蛇が天井からその胴体を伸ばしていた。


 室長はそれを見事に捕まえたのだった。


 同時に、位置の関係上、僕は思いっきり室長の膝を顔面にたたき込まれることになってしまった。


 「~~~~~~!」


 かろうじて上体を反らすことができたので、鼻骨が折れることはなかったが、それでもなかなかに痛い。


 なりそこない吸血鬼じゃなかったら訴えているところだ。


 「しまった。マーキングに気づかれていたみたいだな」


 悔しそうに室長が呟く。


 不思議に思って室長が掴んでいる蛇を見てみると、その胴体は途中からちぎれていた。


 「僕たち以外に合成獣を殺しにきた存在が居るってことですか?」


 「いやちがう。合成獣が自分でかみ切ったんだ。予想以上におつむの出来は上等らしい」


 苦々しく言いながら室長は顔をゆがめる。


 「追跡の難易度は上がってしまった、っていうことですか?」


 「まあそうだな。とは言っても、捜索範囲がこの病院内部なのは変わらないがな」


 ぐしゃり、と室長は掴んでいた蛇の頭を握りつぶす。


 ……マーキングが外れてしまったとなると、やはり最初のように合成獣の襲撃を待つしか無いのだろうか?


 あんまり気は進まない。


 僕がそのことを伝えると、室長は首を振った。


 「いや、合成獣に再生能力があるなら、私たちに対して有効な蛇部分を失っている今がチャンスだ。こっちから捜索する」


 「どういう風にですか?」


 「しらみ潰ししかないな。派手に」





 僕の蹴りの一撃を受けて病室のドアがひしゃげながら吹っ飛ぶ。


 そのすさまじい音は廃病院中に響き渡ったことだろう。 


 さっきは室長が担当している方向から同じような音が聞こえてきたことだし、おそらくは室長も似たようなことをやっている。


 合成獣を捜索するのに二人一緒というのは効率が悪いので、僕と室長は別れて捜索している。 


 合成獣の気を引くように、ということで、大きな音を立てながら僕たちは自分たちの担当区画を見て回っている。


 ……僕は決して、普段から溜まっているストレスを物言わぬ物体にぶつけているわけではない。


 そう思いたい。


 四部屋ほどそんなことをやったのだが、結果は空振りに終わった。


 そして、五部屋目。


 今までと同じくドアを蹴って吹き飛ばし、僕は中に入る。


 今までと同じような部屋、ではなかった。


 なぜかベッドが立てて置いてあった。


 それも、奥の空間を隠すように。


 怪しすぎる。


 廃病院の中で肝試しするのにこういうわざとらしいことはしないだろう。 


 となると、やはり合成獣の仕業と考える方が妥当か。


 とはいえ、ここで突っ込んでいくほど僕は馬鹿じゃない。


 「室長! こっちに怪しい配置のベッドがあります」


 離れた場所にいる室長にも伝わるように叫ぶ。


 やや間があって、「わかった。そっちに行く」という室長の声が聞こえた。


 一瞬、それに気を取られた瞬間だった。


 ベッドが爆発した。


 いや、正確には奥にいたモノが僕に向かってすさまじい勢いで突進してきたので、それに巻き込まれて吹っ飛ばされた、というのが正解だろう。


 ぱっと見はライオンのようだが、そうでないようにも見える妙な生物だった。


 その巨体に似合わない俊敏な動きで跳躍すると、妙な生物は僕に飛びかかってきた。


 「うおっ!」


 すんでのところで大きく開かれたその(あぎと)を止めることに成功した。


 コイツが合成獣か!


 突進自体は止められたものの、質量差はいかんともしがたい。


 僕に加わった莫大な運動エネルギーは転倒という結果をもたらしてくれた。


 仰向(あおむ)けに倒して、そのまま合成獣は僕の頭をかみ砕かんとしてくる。


 どうにかこうにか僕はそれを両手で押し返す。


 とはいえ、これではジリ貧だ。体勢的には向こうが圧倒的に有利。


 ならば!


 無理矢理、足を合成獣の腹に当てる。


 「飛べぇ!」


 柔道で言うところの巴投げの要領で合成獣をぶん投げる。


 なりそこない吸血鬼の筋力じゃなかったら不可能な技だ。


 っていうか吸血鬼でも無理があったみたいで、少しばかり腰から嫌な音がした。


 すぐ治るけど。


 合成獣が吹っ飛んでいった方を見やる。


 合成獣を投げたのはおそらくは食堂だったと思われる場所だった。


 上手いこと受け身は取ったようで、合成獣は四つ足でしっかりと床に立っていた。


 しかし……でかいな。


 体長四メートルはある。


 体高のほうも僕に並びそうだ。少なくとも室長よりも高い。


 ……まともに相手はしてられないな。


 手っ取り早く能力を使うことにする。


 視線を合成獣に集中して、その頭を回転させて、ねじ切ってやるつもりだった。


 だが、それはできなかった。


 霧が僕の視線を邪魔していたのだ。


 「なっ……!」


 実は僕の能力である念動力はしっかりと対象を肉眼で確認できていないと発動しない。


 遮蔽物(しゃへいぶつ)にとても弱いのだ。


 ガラスを通したぐらいで発動しなくなるぐらいだ。


 もちろん、霧なんて出ている時には使えない。


 しかし、なんで霧なんて出ているんだ?


 しかも、仮にも建物内だろ。


 が、しゅうしゅうという音が合成獣のほうから聞こえているのがわかると、その疑問は解決した。


 コイツが出してやがる。


 こんなことができるだなんて聞いてないんだけどな。


 愚痴を吐きたくなるが、今はそんな場合じゃない。


 霧がかかっていても、うっすらと向こうのシルエットはわかる。


 純粋に肉弾戦に持ち込まれると、僕の方が圧倒的に不利だ。


 再生能力があっても、再生する速度以上で喰われたりしたらどうなるのかわからない。 


 室長がこっちに来るまでどうにかしてにらみ合いを続けているしかない。


 が、こういうときの僕の目論見(もくろみ)は崩壊する。


 霧の中から影が突進してくる。


 人狼に比べたら、まだ目で追える速度だが、直撃はまずい。


 躱そうと、横に飛ぼうとして、僕はなにかを踏んづけて転んだ。


 (ヤバい!)


 霧の中から突進してくる合成獣がスローモーションになる。


 死ぬときというのは脳が過剰に働いて、事象がスローに感じるというが、まさか体験することになるとは思わなかった。


 そんなことを考えることは出来ても、体は動かない。


 合成獣が迫ってくる。


 三メートル、二メートル、一メートル。


 五十センチほどまでその巨体が迫った瞬間、突然その姿がかき消えた。


 ドガン! という派手な音とともに、周囲が普通の早さで動きだし、僕はすっ転ぶ。


 「ギリギリだったな。あのまま食いつかれていたら引き剥がすのに苦労しただろうな」


 合成獣と入れ替わるように、百怪対策室室長、ヴィクトリア・L・ラングナーがそこにいた。


 「し、室長! 何が起こったんですか?」


 さっぱりわからない。化かされた気分だ。


 「合成獣の横っ腹に私が跳び蹴りを食らわせてやっただけだ」


 何でも無いことのように室長は言う。


 が、吹っ飛ばされた合成獣を見ると壁にめり込んで動けないようだった。


 ……どんな跳び蹴りを食らわせたらああなるんだ?


 絶対に食らいたくない。


 「どれ、とっとと始末するか。離れてろ」


 右手を再び手刀と化しながら室長は壁に埋め込まれている合成獣の方に歩き出す。


 正直、あの状態から何か出来るとは思えない。


 こっちに腹を向けて、前衛芸術のようなポーズで埋め込まれているし。


 ビームでも撃てるのなら別だろうが。


 僕はゆっくりと室長が合成獣を始末するのを見ていたらいいだろう。


 その考えがいけなかった。


 合成獣の腹から二本の白く、長いものが僕を貫かんとする勢いで伸びてきた。


 首を掴まれ、ギリギリと締め上げられる。


 「が……は……」


 骨が(きし)む音が聞こえる。


 このままじゃ首がへし折れる。


 「だから離れていろと言ったんだ。馬鹿者」


 室長のその言葉と共に僕の首を折ろうとしていたものから力が抜ける。


 足下に落下した『それ』はどう見ても人間の、しかも女性の手だった。


 「うげ……」


 合成獣は腹から人間の腕を伸ばして僕の首を折ろうとしたようだ。。


 まあ、室長に伸ばした腕を途中でぶった切られてしまったみたいだが。


 二度目はごめんなので室長に言われたように距離をとる。


 その後は室長の手刀による合成獣解体ショーが始まった。


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