第十一怪 その3
「空木様、合成獣というものは魔術を用いて、複数種の生物を融合させたものです。個体の維持には魔術的な施術の必要があり、もし怠った場合は暴走する可能性があります。また、その危険性から合成獣の製造方法は統魔において最低でもB指定になっております。ゆえに合成獣を造り出すことができる魔術師はなんらかの手段でB指定以上の文献に接触したか、もしくは統魔では管理していない、もしくは統魔から流出した魔術を修めた者ということになります」
クリシュナさんがヘムロッドさんの後ろからそんな風に説明してくれた。
なるほど。
今回の『怪』の原因の合成獣とやらが危険な感じなのはわかった。
とりあえず魔術師が関わっていることは決定のようだ。しかも、もしこの魔術師が統魔に所属している、もしくは所属していたのなら、それなりの腕前をしていると思っていいだろう。
魔術師が所持していても危険なモノが、B以上の指定を受けるのだ。
どれだけ危険なのかはこれまでの経験でわかってきている。
そんなものを扱うことができる魔術師が平凡なものであるはずがない。
「でも、どうやってその合成獣を捕まえるなり、殺すなりするんですか? 相手がどこに現れるのかなんてわからないでしょう?」
「そんなことはない。物事には大抵理由があるものだ。これを見ろ」
室長が今度は机の上に地図を広げる。
「最初の被害者が発見されたのがここ。次はここ、そして、ここ。最後にここだ」
以前のひどい『円』で反省したのか、今回の室長は被害者が発見された場所にサインペンで点を打っただけだった。
四つの点が地図上に打たれたものの、特に何かしらの規則性は見つからない。
……結んだら台形ぐらいにはなるか?
いや、微妙にならない。
絶妙に意味がない配置としか思えない。
そんな僕を放って、ヘムロッドさんは、ほう、という声を漏らす。
「なるほど。ということは陰陽師の可能性もあるね」
「あくまで可能性、だがな。決めつけるには情報が足りなさすぎる。合成獣をとっ捕まえるなり、ぶっ殺すなりして、それから首謀者の動きを待つしかないな」
……ちょっと待った。
なんだか話が僕を置いたまま進んでいっている。
ヘムロッドさんはどうやらこの点の配置から何かを読み取ったらしいが、僕にはさっぱりわからない。
「笠酒寄、お前はわかったのか?」
困った時には笠酒寄に話を振る。
余計なことを室長に尋ねると、あとでいじり倒されることはわかりきっている。
「う~ん。もう一味足りない、感じ?」
何言ってんだコイツ。
「惜しいな、笠酒寄クン。まあしかし、時間がない。わかってないコダマにも笠酒寄クンにも説明しよう。注目すべきは点の順番だ」
そう言いながら室長は最初の被害者の発見場所から二番目の被害者の発見場所に線を引く。
「魔術というモノは形式がとても重要なんだ。とくに何かしらの大掛かりな魔術になればなるほどな」
二番目の点から三番目の点に線を引く。
「手順。これは特に重要だ。材料がそろっており、その上に術者自身も一流だったのに失敗した、なんてことは枚挙にいとまがない」
三番目の点から四番目の点に線が引かれる。
出来上がったのは二本の辺の長さが余ってしまったような三角形だ。
だが、ここまでを見てきて、さすがに僕も気づいた。
「五芒星、ですね」
点を線で結んでいく順番は五芒星を描く順番だった。
ということは、この中途半端な図形はまだ完成じゃない。
最後の点。
最初の点に戻ってくるための中継地点が必要だ。
つまりはそこが……
「次の合成獣の出現場所はここだな」
室長がペンで指し示した場所は地図上に五芒星を描くとすれば、最後の点が来る場所だった。
「本当にそこに出るんですか? 出るとしたら、いつですか?」
「出る。しかも行けば確実にな」
なんだろう。自信満々だ。
なぜそんなことを断言できるのだろう。
少なくとも、いままでの事件の発生間隔に法則性があるようには思えない。
強いて言うならば、だんだんと間隔が長くなってきていることぐらいか。
それ以外には何も見えてこない。
「室長に自信があるのはいいですけど、僕にも納得できるような根拠はあるんですか? カン、とか言われても僕は信じられませんよ」
「コダマ、考えるよりも先に見てみた方がいいときもある。今はまさにそんな時だぞ」
は?
見ろって、何を?
見ろ、と言われると、ついつい室長がペン先で指し示している場所に目が行ってしまう。
ペン先が指しているのは、病院の地図記号だった。
だが、この病院は……
「廃病院……。犠牲者になる人間自体がここにはいないってコトですか?」
「珍しく察しがいいなコダマ。そういうことだ。首謀者がわざとやったのか、それとも単純にミスを犯したのかはわからないが、とにかく、合成獣がこの場所で犠牲者を出さない限り、目的は達成できない。このまま放っておいてもいいんだろうが、合成獣が制御を外れてほかの場所にでも行かれたら厄介だ。私たちで処理するぞ」
「それ、本当に僕たちが行かないといけないんですか? 統魔の隠蔽班とかは動かないんですか?」
「統魔の隠蔽班は魔術の行使が確認されない限りは動かない。基本的には事後処理部隊なんだ。その上に統魔の日本支部はあまり荒事が得意じゃない。確実に殺るつもりなら本部から精鋭を呼んでくることになる。日本支部の最高責任者は事なかれ主義だから、おそらくは確証がない状態では動けないんだろう」
あいつは決断が遅すぎる、などと室長は毒づく。
室長が今回の件を統魔の尻拭いだと表現したのはこういうことか。
本来は統魔が始末しないといけない件だが、その場合には更に犠牲者が増える可能性も出てくる。
つまりは、確実に合成獣を始末できる室長のような存在が必要になってくるのだ。
百怪対策室に依頼が来たのは当然ということか。
わざわざヘムロッドさんが百怪対策室に来たのも、旧知の仲ということもあるのだろうけど、日本支部が頼りない部分もあるのだろう。
なんとも苦労の多い御仁だ。
どことなく、室長にからかわれまくっている僕と姿を重ねてしまう。
仕方ない。
室長も僕も、百怪対策室に所属しているのだから、仕事だ。
これ以上、合成獣なんかの犠牲者が出るのは避けたい。
僕もなりそこない吸血鬼ではあるが、人が死んで喜ぶような感性はしてない。
魔術師の責任は魔術師が取るべきだ。
見習い魔術師としても、僕は行かないといけないだろう。
そして、人間としても。
「……室長、決行はいつですか?」
「今夜だ。そうそう、笠酒寄クンは留守番だ」
「えー。何でですか!? 空木君とイチャイチャする気です!? 許しません!」
「今回の合成獣はどのような素体を用いているのかが不明だ。人数は少ない方がいい。私がフォローできるのは一人が限度だ。というわけで今回の笠酒寄クンは待機」
「ぶーぶー」
「ふくれっ面をしてもだめだ。キミの安全が保証できない。安心しろ、コダマなんぞとイチャつくほど飢えてないから大丈夫だ」
「むうぅ……」
笠酒寄は不満顔だが、さすがに室長に逆らってまではついては来ないだろう。
これで、廃病院に行って合成獣を退治するのは僕と室長の二人だ。
……夏休みを思い出す。
結果まで夏休みみたいにならなければいいのだが。




