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第十一怪 その2

 いつものようにハイツまねくね二〇一号室。またの名を百怪対策室。


 これまたいつものように入る前にアホなやりとりをして、僕と笠酒寄は百怪対策室に入った。


 しかし、入ったところで、違和感を覚えた。


 正体はすぐにわかった。


 靴がある。


 室長のものではない。明らかに男物だ。


 その上、もう一足。


 室長なら絶対に履かないようなかっちりとしたデザインの女物の靴もある。


 少なくとも二人は先客がいるということだ。


 ……いやな予感がする。


 僕の介添(かいぞ)えなしで百怪対策室に入ることができる人物は限られている。


 その中でも女性と男性の組み合わせは、夏休みに非常に厄介な依頼をしてきた二人組を思い出す。


 (……覚悟しておこう)


 夏休みに起こった事件を知らない笠酒寄には悪いが、僕は思い出すだけでも嫌なのだ。


 黙って靴を脱いで応接室に向かう。


 ドアをノック。


 「入れ。今日は素敵なゲストもいるぞ」


 中から返ってきた室長の言葉は僕の心を非常に重くしてくれた。


 意を決してドアを開け、中に入る。


 いつものようにソファには室長。そしてその対面には痩躯(そうく)でスーツ姿の初老の紳士。


 更にその紳士の後ろに控えるように僕たちと同じぐらいの年の女性が控えている。


 くそ、夏休みの再来だ。


 「おや、コダマ君。久しぶりだね。あれから色々と妙なモノに関わってきたみたいだが、元気そうで安心したよ」


 初老の紳士、いや、ヘムロッドさんは微笑をたたえてそうおっしゃる。


 ヘムロッド・ビフォンデルフ。


 統魔の最高評議会の一員にして、統魔での室長の同期らしい。


 「空木様、ご無沙汰(ぶさた)しておりました」


 ヘムロッドさんの後ろでメイドかなにかのように控えている女性はクリシュナさん。


 どっからどう見てもメイドっぽい服をきた人間の女性だが、ゴーレムらしい。


 ヘムロッドさんの最高傑作という触れ込みなのだが、僕はいまでもこの人がゴーレムであるという確証が持てない。


 そんな二人が、百怪対策室に、いた。


 「さて、ヴィクトリア。コダマ君も来たようだし、そろそろ世間話はやめて本題に入ろうか」


 「いいだろう。ほれ、笠酒寄クンは私の隣に座れ。コダマはヘムの隣だ」


 統魔の最高評議会なのに、野良魔術師である室長が名前を略して呼んでいいのか、とも思ってしまうが、やはり、同期の絆というやつは強いのだろう。


 逆らってもしょうがないので僕も笠酒寄も素直に従う。


 座ってからヘムロッドさんとクリシュナさんは笠酒寄に自己紹介をしてくれた。


 とは言っても、名前と室長の知り合いということぐらいだが。


 この二人の脅威度が全く伝わっていないとは思うのだが、まあいいだろう。


 わからなくてもいいことが世の中にはある。


 クリシュナさんのほうにやけに視線を向けている笠酒寄を無視して、僕は隣のヘムロッドさんと室長に集中することにした。


 ばさり、とヘムロッドさんが机の上に何枚かの写真と、書類を広げる。


 端っこに極秘とか書いてあるが気にしない。


「どの事件もここ一ヶ月で起こっている。被害は様々だが、共通していることは一つ。被害者は必ず負傷、もしくは死亡しているということだね」


 資料の一枚を手に取って、読んでみる。


 〈十月三十日。午後九時。被害者、四十代男性。全身に裂傷あり。裂傷は深さ五ミリメートルから二センチメートル。長さは五センチから四十センチメートルまで。男性の死因は失血死。痕跡から、大型肉食獣の爪によるものと推測される〉


 〈十一月四日。午後十時。被害者、三十代男性。右脚を残して、行方不明。未だ発見されず。切断部から大型肉食獣によるものと推測される〉


 「動物園からライオンでも逃げ出したのか? それとも、獣憑き(ライカンスロープ)あたりでも暴れているのか?」


 二枚目の資料を見て、室長はそんなことをヘムロッドさんに尋ねる。


 まあ確かに、この二枚から考えられることはそれぐらいだろ。


 とは言っても、一番近い動物園までは二時間ぐらいはかかるので前者の可能性は低い。


 となると、後者か……


 「慌てないでくれ、ヴィクトリア。全部の資料に目を通してから考えてみてくれ」


 あくまで紳士な振る舞いでヘムロッドさんは続きを促す。


 僕と室長、そして笠酒寄は再び資料に目を落とす。


 〈十月十日。午後九時。被害者、五十代女性。蛇毒による心臓停止により死亡。左太腿に咬み痕あり。咬み痕から蛇は体長十メートル以上と推測される〉 


 「はあ? 何なんですか? これ。こんなでかい毒蛇なんているんですか?」


 「いや、存在しないな。世界最大の毒蛇であるキングコブラでさえも最大で四メートルぐらいだ。十メートルを超えるとなると、ニシキヘビ並だな」


 すっとんきょうな疑問の声をあげた僕に、室長が答えてくれた。


 なるほど。自然にはいない、ということか。


 となると、魔術師やら『怪』が絡んできている可能性は高い。


 とは言っても、僕には一体何が起こっているのかは見当もつかないが。


 そして、資料は最後の一枚だ。


 〈十月二十日。午後九時。被害者、二十代男性。全身打撲並びに頭蓋骨骨折。また複数箇所に強い力で握られた痕跡あり。手の形状は人間のものであり、推定される身長は四メートル程度〉


 いよいよ意味がわからなくなってきた。


 今度は巨人か。


 全くつながりが見えてこない。


 一枚目と二枚目ぐらいにはつながりがあったが、三枚目、四枚目に関しては全く別の事件にしか思えない。


 あえて言うなら時刻が九時から十時の間だということぐらいか。


 しかし、そんなものはなんの共通点にもならない。


 偶然の一致と言うことだってあるのだ。


 室長はなにか難しい顔をして、考え込んでいる。


 笠酒寄の方は添付されていた写真を見ているが、そっちは単なる現場写真だ。


 僕は、ヘムロッドさんを見つめる。


 この人は室長に何をさせたいのだろう。


 数十秒、そんな状態が続いたのだが、ぱさり、と室長が資料を机の上に投げて戻したことで終わった。


 「……ヘム。これは統魔の大失態だぞ」


 室長の眼差しは鋭い。


 「分かっているよ。だからこそ、ヴィクトリア、君に解決を依頼したい」


 室長の視線を受けるヘムロッドさんも真剣な顔だ。


 「報酬は私個人の口座から用意する。できうる限りはキミの要求に応えるつもりだよ」


 「当然だ。よりにもよって、統魔の尻拭いを私にさせようというんだからな」


 室長に対して、できうる限りという言葉は厳禁だ。


 本当にできうる限りをさせられる。


 それを知っていないヘムロッドさんではないだろう。


 つまり、それでも解決してもらわないといけないぐらいに緊急事態だということだ。


 「室長、一体何が起こっているんですか? 二人だけで納得してないで僕と笠酒寄にも説明してください」


 完全に置いてきぼりを食らってしまったので、そんな風に抗議する。


 やや間があって、室長は気が進まない様子で口を開いた。


 「……そうだな。キミたちにも協力してもらった方がいいからな。説明しよう。この事件の犯人はおそらく、合成獣(キメラ)だ」


 キメラ。







 なんでしたっけ? それ


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