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空木コダマの奇妙録 ~百怪対策室におまかせを~  作者: 中邑わくぞ
だいじっかい ふたくちおんな
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だいじっかい そのよん

 百怪対策室を訪ねた翌日、九臙脂中学校。


 昼休みになると同時にわたしはこっそりと校舎裏に来ていました。


 なぜかというと、ここがコダマさんとの待ち合わせ場所だからです。


 コダマさんはまだ来ていません。


 時間にルーズな男子はモテないと思います。


 しかし、どうやってコダマさんはここに侵入する気なのでしょうか?


 九臙脂中学校は高台に建っています。


 正門と裏門以外は崖になっていて、登れるのは野生動物ぐらいです。


 この校舎裏も例外ではなくて、わたしが見上げている校舎を囲むようにフェンスが張ってあります。


 となると、門から堂々と入ってくるのでしょうか?


 わたしのような清廉潔白(せいれんけっぱく)系女子ならともかく、男子のくせにポニーテールにしているようなコダマさんがすんなりと入ってこられるとは思えません。


 もしかしてこれは……


 「女装して入ってくる気なのでは?」


 コダマさんはわりかし細い体格をしていたので、女装しても、ちょっと体格のいい女子という主張はできるかもしれません。


 なるほど。やはりコダマさんも少しばかり常人とは違った嗜好をしているようです。


 (あなど)れません。


 「まあ、小唄ちゃんに言いつけて、しばらくは変態のレッテルを貼っておきましょう」


 「やめてくれないかな。風評被害は」


 「!」


 いきなり後ろから飛んできたコダマさんの声に驚いて、わたしは振り返ります。


 そこにはフェンスの上に座っているコダマさんがいました。


 学校の制服姿です。男子の。


 ちっ。


 「今、舌打ちしなかった?」


 「してません。幻聴です。お薬はちゃんと飲んでいらっしゃいますか?」


 「……ある種、室長に通じるものがあるかもね。君」


 フェンスから飛び降りて、コダマさんはそんなことを独り言のように言います。


 かっこいいとか思っているのでしょうか?


 見た感じ、間抜けです。


 ともあれ、コダマさんが来たので、昨日渡された二口女の退治方法が(しる)してあるという封筒をやっと開けることができます。


 このためだけにやってきたコダマさんはどういう気持ちなのでしょうか?


 できる女子であるわたしはすでに封筒を手に持っています。


 「さあ、コダマさん。速やかにこの二口女の退治方法が書かれている封筒を開けてください。あなたはそのために存在しているのですから」


 封筒をコダマさんのほうに突きつけます。


 「はいはい。鍵は室長から預かってきたからとっとと開けようか。あと僕の存在理由を勝手に決めないでくれないかな」


 言うが早いか、コダマさんはライターを取り出して封筒に火をつけます。


 「うぁ!」


 わたしはびっくりして封筒を離してしまいます。


 地面に落ちた封筒の火は消えることなく燃え続けています。


 そのうちに、封筒全部が燃え切ってしまい、中にあったものがあらわになりました。


 文字が書かれた紙と、また一回り小さな封筒です。


 紙の方にはこう書かれていました。


 〈二口女が出現した(のち)、残っている封筒を破壊し、中を見ろ。その際には浦原クンは逃げずに一緒にいること。あと、浦原クンはコダマの指示に従うこと〉


 え? なんですかこれは?


 全然役に立ちません。しかもコダマさんの指示に従え、とか書いてあります。


 というか、なんで更に封筒があるのでしょうか?


 二段階開封とか聞いたことがありません。


 面倒くさすぎます。


 ヴィクトリアさんは何がしたいのでしょうか? わかりません。


 「じゃあ、室長の指示に従ってみようか。浦原君は前と同じように掃除用具入れのロッカーに潜んでいるといいんじゃないかな。僕は自分で隠れるから」


 「この美少女にもう一回ロッカーに隠れていろと言うんですか? 人の心というものがないようですね。コダマさんには」


 「最近ちょっと人間離れしているから、あんまりないかもね」


 よくわからないジョークです。


 ユーモアのセンスがありませんね。コダマさん。


 ともかく、コダマさんがわたしの抗議を受け入れてくれる気がないことはわかりました。


 仕方がありません。これも心優ちゃんを救うためです。


 わたしの大人なところを示しましょう。


 もし、二口女を退治できなかったら、コダマさんには責任に取ってもらうことにします。


 破産するまでわたしにおごってももらいます。


 というわけで、わたしは再び掃除用具入れのロッカーに潜むことにしました。


 でも、コダマさんはどうする気なのでしょうか?


 高校生が放課後までずっと隠れていることはなかなか難しいと思うのですが。


 「ああ、僕のことは心配しなくていいよ。こうやって隠れているから」


 パチン、とコダマさんが指を鳴らすと、その姿がフッとかき消えてしまいました。


 「!」


 コダマさんが消失してしまい、わたしは驚いてしまいます。


 これは一体どういうことでしょうか? 


 二口女の解決の前にコダマさんが怪奇現象に巻き込まれてしまいました。


 いえ、もしかしたら、これはコダマさんがやったことなのではないでしょうか?


 「驚かせてごめん。僕も一応は魔術師見習いだから室長の力を借りたらこのぐらいはできるんだよ」


 さっきまでコダマさんがいた場所から声が響きます。


 「なるほど。変態でしたか」


 「その結論はおかしいね~」


 突っ込みをいれる人が見えないということはなかなか妙な感じです。


 ともかく、コダマさんが発見される可能性はなくなったので、わたしは教室に戻り、ロッカーの中に潜むことにしたのでした。



 


 わたしは今、教室のロッカーの中に潜んでいます。


 すでに時間は放課後になっています。


 またしても、わたしの行方不明に関しては軽い扱いになっていましたが、気にしません。


 最優先事項は心優ちゃんのことなので、わたしの扱いなんて小さなことです。


 絶対にこの扱いをされたことは忘れませんけど。


 とにかく、すでに教室の中に人はまばらです。


 心優ちゃんは静かに座っています。


 コダマさんは多分、姿を見えなくしたまま教室内にいるのでしょう。


 きっとうら若き女子中学生に対してじっとりとした視線を送っていたに違いありません。


 そうこうしているうちに、教室からはひとり、またひとり、と人がいなくなり、とうとう心優ちゃんだけになってしまいました。


 コダマさんもいるのでしょうが、そのことを知っているのはわたしだけでしょう。


 さて、このままいくとおそらくは二口女のご登場です。


 いい加減に狭いロッカーに入っているのも体が痛くなってきたので、早くしてほしいものです。


 と、心優ちゃんが前と同じように机の上に乗りました。


 そして、ぷるぷる震えています。


 出現の前兆です。間違いありません。


 ざわざわと心優ちゃんの髪がうねり始めます。


 やがて髪が()り合わさるように、大きな口が心優ちゃんの後頭部に出現しました。


 これで二度目ですが、かわいらしい心優ちゃんの後頭部にあんなものがくっついている、というのはショックです。見ていたくありません。


 早く仕事して下さい、コダマさん。


 「そこまで。君の『怪』を解決しに来た」


 コダマさんの声がしました。


 二口女がぐるうり、と気持ち悪い感じで向きを変えます。


 その目線(口線?)の先にはきっとコダマさんがいるのでしょう。


 「なんだァ! テメエは! ぶっ殺されてえのか!」


 大口が唾をまき散らしながら叫びます。


 声は心優ちゃんのものですが、絶対に言わないようなことを言います。


 聞くに()えません。


 「僕は空木コダマ。百怪対策室の助手兼、使いパシリ兼、見届け人だよ」


 コダマさんは何をかっこつけているのでしょうか?


とっとと二口女を退治してください。


 「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ! 消臭してやる!」


 二口女はぐ、と身をかがめます。


 コダマさんに飛びかかる気なのでしょう。


 二口女がジャンプしようとしたその瞬間です。


 びたり、とその動きが停止しました。


 「なんだァ! 何をしやがった!」


 「悪いけど、動けなくさせてもらったよ。おーい。浦原君、出てきていいよ」


 コダマさんが何か言っていますが、怖いので無視します。わたしはか弱いので。


 「……出てこないと、君の親友はいつまでたっても二口女から解放されないよ」


 ふむ。心優ちゃんのことを人質にするとはいい度胸です。


 それに、ヴィクトリアさんの指示ではコダマさんに従うように書かれていました。


 それに、やはりクライマックスには美少女が必要でしょう。


 多少諦めの気持ちも入った状態で、わたしはロッカーを開けて、中から出ます。


 「ガァ!? グァ!?」


 なんだかわかりませんが、二口女が苦しんでいます。


 もしかして、わたしのオーラに当てられて苦しんでいるのでしょうか?


 「浦原君、残りの封筒出して、中身を見てくれないかな」


 二口女のほうを見たままコダマさんはわたしに指示します。


 話すときには相手の目を見なさいと習わなかったのでしょうか?


 まあいいでしょう。ここは従っておきましょう。


 封筒は手で開けることができました。


 入っていたのは一枚の紙です。


 〈二口女、いや佐奈平心優クンの言いたいことを好きなだけ言わせろ。終わり〉


 書いてあったのはそれだけでした。




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