だいじっかい そのに
『なにか』に憑りつかれてしまった心優ちゃんを目撃した翌日、わたしはある人を待っていました。
豹変してしまった心優ちゃんを目撃してから、わたしは必死になってどうにかできそうな人を探したのです。
そして、見つかりました。
隣のクラスの空木小唄ちゃんのお兄さん。
なんでもあの九臙脂中学校七不思議のひとつ、『動く標本』を終わらせてしまった人らしいのです。
渡りに船とはこういうことでしょうか。
即座にわたしは友達の友達の友達から小唄ちゃんの連絡先を聞き出して、コンタクトを取ったのでした。
すんなりと小唄ちゃんはお兄さんに伝えることを了承してくれて、その上で待ち合わせ場所まで指定してくれました。
学校が終わって午後五時。
小唄ちゃんが指定してくれた喫茶店の席。
テーブルの上にぬいぐるみを置いて、わたしは小唄ちゃんのお兄さんを待っています。
ぬいぐるみは小唄ちゃんの指定です。
それにしても、一体どんな人なんでしょうか?
噂によると、妖怪退治屋的なことをしているようでもあり、人助けのようなことをしているようでもありますけど、あんまり具体的なことはわかりません。
小唄ちゃんのお兄さんということですから、きっとさわやかなイケメンなのではないでしょうか。
ちょっと楽しみです。
約束の時間ぴったりに入り口のドアが開いて、連動しているベルが、からんからんと音を立てました。
小唄ちゃんのお兄さんに違いありません。
わたしの席からは見えませんけど、たぶんそうだと思います。
入店してきた人はしばらく席をきょろきょろしていたみたいですけど、そのうちにわたしの座っている席に向かって近づいてきました。
「えっと、君が浦平花帆さん?」
「はい、そうです。間違いありません」
後ろのほうから声をかけられたので、わたしは振り向きます。
高校生ぐらいでしょうか? わたしとそうは変わらない年齢の男子が立っていました。
制服を着ているので学生なのでしょう。ということは多分高校生なのでしょう。
あんまり目立った箇所は存在しません。
唯一の特徴らしい特徴は髪型がポニーテールなことぐらいでしょうか。ちょっと残念です。
「人違いじゃなくてよかったよ。僕は空木コダマ。君が小唄を介して僕に依頼を持ち込んできた人かな?」
「そうです。わたしの親友を助けてほしいんです」
慣れてる感じです。
これは期待できそうです。
とにかく、こっちだけが座ったままで話すのもアレなので、コダマさん(小唄ちゃんのお兄さんなので同じ空木姓ですからこう呼ぶことにします)にも座ってもらいます。
こうして、年上の男子と向かい合って座ってみると、流石にちょっと緊張してしまいます。
「あ、あの……コダマさんは本当にわたしの親友を……心優ちゃんを助けられるんですか?」
「僕じゃないよ。僕はあくまでも助手。解決するのは室長だ」
はて? 室長?
誰でしょう?
初めての登場人物です。
どこの室長さんでしょうか?
というかコダマさんが助手っていうことは初めて聞きました。
実は下っ端なのでしょうか? てっきり、わたしはコダマさんが妖怪変化を相手取って縦横無尽の大活躍をしているとばかり思っていたのですけど、それは違ったみたいです。
「じ、じゃあその室長さんがわたしの親友を助けてくれるんですね」
「ああ、君の友人の身に起こっていることが『怪』ならね」
『怪』。
心優ちゃんに起こっていることはあえて言うなら『妖怪』でしょうか。
妖怪に憑りつかれてしまったのか、それとも、妖怪が心優ちゃんのふりをしているのかは分かりませんが、とにかく普通のことではないのだけはたしかです。
「その、室長さんは妖怪も解決できるんですか?」
「できるよ。たぶんね」
頼りないような、頼もしいような回答が返ってきて、わたしは微妙な感じです。
こういう風に知ったような口をきく人は個人的には苦手なのですが、今回ばかりは頼れるのはコダマさんしかいないので、ここはわたしが大人になって我慢します。
偉いですね、わたし。
そうやって、わたしが大人な態度をとっていると、コダマさんは、さてと、なんてことを言って、メモを取り出しました。
「それじゃあ聞かせてもらえるかな。君の友達に、いや、親友に起こった出来事を」
そうして、わたしの説明が始まりました。
数分後。
「うーん、聞いてる話だけだと『怪』みたいだけどさ。本当にその、心優ちゃん? の後頭部に大きな口は出現していたの?」
いきなり疑いをかけられてしまいました。
心外です。
わたしがこんな荒唐無稽な嘘を吐くと思っているのでしょうか?
「本当です! わたしの視力は両方とも2・0なんですから!」
「いや、この場合視力はあんまり問題じゃないんだけどね……」
「じゃあ何が問題なんですか? わたしの性根とかですか?」
「まあそんなと……じゃなくて、人間の記憶っていうものは結構改ざんが働いてしまうものだからね。特に思春期なんてものは、ね」
思春期真っ只中のコダマさんにだけは言われたくないと思います。
でも、一理あります。そこは認めましょう。
わたし以外に心優ちゃんの豹変を目撃した人はいません。
だけど、確かにわたしは見たのです。
あの心優ちゃんを。
あんなことになっている心優ちゃんをわたしは見てられません。
友達として、いえ、親友として、わたしは心優ちゃんを助けたいのです。
「間違いでもいいんです。わたしはとにかく、もし心優ちゃんが困っているのならどうにかしてあげたいだけなんです」
まっすぐにコダマさんの目を見ます。
真剣に。わたしの想いが届くように。
「わかった。どうも本気みたいだしね。君を百怪対策室に連れていくよ。本物の専門家に紹介しよう」
びゃくかいたいさくしつ?
センスないですね。その名前。




