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空木コダマの奇妙録 ~百怪対策室におまかせを~  作者: 中邑わくぞ
だいじっかい ふたくちおんな
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だいじっかい 

 わたし、浦平(うらひら)()()は公立、()臙脂(えんじ)中学校の二年生です。


 ごく普通に中学生として過ごして、ごく普通に学校生活を楽しむ。


 そう思ってました。


 でも最近、わたしの無二の親友である、佐奈(さな)(ひら)心優(みゆ)ちゃんの様子がおかしいことに気付いてしまったのです。


 いつもなら放課後にはファーストフード店に寄って、みんなでおしゃべりしたりしていたのに、最近の心優ちゃんは来てくれません。


 そのうえ、一緒に帰ってくれることもしてくれなくなりました。


 一年生の時に同じクラスになってから大抵は一緒に帰っていたというのに。


 これは心優ちゃんになにか起こったんじゃないかと考えて、掃除用具を入れるロッカーの中にこっそりとわたしは潜んでいるのでした。


 ちなみに、掃除が終わったと同時に入ったので軽く行方不明扱いされてましたけど、花帆のことだから大丈夫でしょ、みたいな結論になってました。


 みんなに信頼されているということはうれしいことです。


 これも人徳というやつなんでしょうか?


 それはさておき。


 ようやく放課後になってくれました。


 教室からは一人、また一人と人がいなくなり、とうとう残っているのは心優ちゃんだけになってしまいました。


 この時間は、部活動をしている生徒は部活動に忙しく、していない生徒はとっとと帰ってしまっているので、人目を忍んでの行動にはぴったりです。


 この時間帯に心優ちゃんが何かをしているのではないかというわたしのカンは果たして当たっているのでしょうか?


 もしかしたら友達の秘密に関して突っ込んでしまうのかもしれませんが、そのへんは年ごろの女子の好奇心に免じて許してほしいと思います。


 学校内での禁断の恋愛とか大好物です。


 さて、心優ちゃんは自分の机に座っています。


 さっきまで、宿題をやっていたみたいですけど、もう終わっちゃったみたいです。


 後で写させてもらおうと思います。


 宿題をカバンの中にしまって、入れ替わりに心優ちゃんはなにかを取り出しました。


 細長い、缶?


 何でしょう? ちょっと変わったジュースでしょうか?


 うむむ、とわたしが細長い缶の正体について考えを巡らせていると、心優ちゃんがいつの間にか机の上に立っていました。


 上履きのままで。


 潔癖症気味の心優ちゃんにしてはとても不自然なことです。


 少なくともわたしは見たことありません。


 これは……なにかが起こるに違いありません!


 わたしはそう確信して、ロッカーに空いている横に細長い穴に対して更に目を近づけます。


 ぷるぷると心優ちゃんは震えてみるみたいです。


 細長い缶を両手に持って、机の上でぷるぷる震えている少女。


 意味が分かりません。誰か解説してください。


 でも、それも長くは続きませんでした。


 そのうちに、心優ちゃんに変化があったのです。


 心優ちゃんはわたしのほうに背中側を向けていたのでよくわかりました。


 ざわざわと心優ちゃんの長い髪がうねって、だんだんと大きな口を作っていったのです。


 ちょうど心優ちゃんの後頭部のあたりに口は出来上がりました。


 それはそれは大きな口で、大きなくちびるがセクシー、とか言えるような感じじゃありません。


 人間の頭ぐらいならそのままかぶりつけそうなぐらいの大きさです。


 見ただけで気の弱い人は失神しそうです。


 「がああぁぁぁぁあ! (くせ)え! 臭え臭え臭え臭え臭え! 腐った生ゴミのほうがまだましなニオイ

だぞぉ!」


 でっかい口はその大きさに見合った大声でいきなり叫びました。


 あんなに大きい口が動いていると、圧倒されます。生物的本能が、逃げろと言ってくるのですが、今はロッカーの中なのでどこにも逃げられません。恐怖です。


 声だけは心優ちゃんのものでしたが、清楚で可憐な心優ちゃんが言うはずのないことを叫んでいます。


 なんというか、罵詈雑言。


 そんな感じです。


 ぐ、と心優ちゃんが膝を曲げます。


 その体勢から一気に天井近くまで飛び上がりました。


 「天井からして臭え! 消臭!」


 心優ちゃんの後頭部の口が唾を飛ばしながら叫ぶと、心優ちゃんは両手にもっている細長い缶を天井に向けます。


 ぷしゅー。


 そんな音が響いて、缶から霧状のなにかが噴射されます。


 ……消臭、とか言っていたし、たぶん消臭剤なんじゃないでしょうか。


 きれいに机の上に着地すると、今度は消臭剤を噴射できなかった天井に向かって心優ちゃんはジャンプします。


 何度も何度も、教室の天井全体に消臭剤をぶっかけて、やっと心優ちゃんは動きを止めました。


 ちょっとぜいぜい言っているのは気のせいでしょうか?


 「次だ! ここから! 消臭!」


 ぷしゅー。


 今度は机に消臭剤をぶっかけ始めました。


 そこ、わたしの机なんですけど。


 やけに入念に心優ちゃん(?)はわたしの机を消臭しています。


 よくはわからないですけど、たぶん、びしゃびしゃになっているんじゃないでしょうか。


 「よし! 次!」


 満足したのか、今度はほかのクラスメイトの机も消臭し始めました。


 徹底的です。


 机が終わったら、今度は床や、荷物を入れておく棚の消臭をし始めました。


 全部が終わるのには三十分ぐらいはかかったでしょうか。


 教室内が徹底的に消臭されてしまって、わたしの隠れているロッカーにまで消臭剤のニオイが漂ってます。


 心優ちゃんは自分の席の前に戻っていました。


 その後頭部に発生した大きな口が、するすると逆再生のように(ほど)けて元の髪に戻っていきました。


 心優ちゃんはなにも言葉を発しません。


 ただ、静かにカバンを持って、教室から出ていきました。


 あまりにも衝撃的すぎることを目撃してしまって、わたしはしばらくぽかんとしていました。


 でも、そのうちに、なんとか頭のほうが復活してきたので慎重にロッカーから出ます。


 教室には一面、ラベンダーの香りが漂っていました。


 いえ、漂っていたというよりもそのニオイしかしなくなってしまっている状態なのでした。


 ある種の惨状だと思います。


 そして、わたしはひとつのことを確信していました。


 心優ちゃんは『なにか』に憑りつかれてしまったのだ、と。



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