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第八怪 その4

 室長の運転するクルマで僕たちは曽呂トンネルに向かっている。


 ナビによると、もうすぐのようだ。


 「ところで室長、今回の犯人はほとんどわかっているみたいですけど、それをどうにかする手立てはあるんですか?」


 「ある。よく考えろコダマ。今回は『怪』のほうから接触してきてくれるんだ。これほどありがたいことはないぞ」


 ふむ。言われた通りに考えてみる。


 高速移動するクルマにべたべたと手形を残していく、なにか。


 「()くとかですか?」


 「ずいぶんと残酷な発想だな。お姉さんはびっくりだ」


 お姉さんって言うかおばあさんの年齢さえも超えているのだが、その辺は突っ込まないほうがいいだろう。


 どうも外れらしい。


 まあ、あらゆる場所に手形を残していくような存在をどうやって轢くのかという問題があるので、これは無理だろう。


 となると……。


 「ん、そろそろか。加速するから気をつけろ」


 同時に室長がアクセルを踏み込み、クルマが加速する。


 一気に軽自動車とは思えないようなスピードまで達する。


 ……どうも、このクルマも普通ではないようだ。


 そうして、前方にはトンネルが見えてきた。


 僕の視力はなんとかトンネルの横についているプレートを捉える。


 〈曽呂トンネル〉


 間違いない。ここだ。


 弾丸のようにクルマはトンネルに突入した。


 直後、僕の聴覚はひとつの音を捉えた。


 ぺたり、という何かがくっつくような音だ。


 ちょうど後部座席の上の方から聞こえた。


 「室長!」


 「ああ、来たみたいだな」


 前は見たまま、室長は僕に応える。


 さっきから静かだと思っていたら笠酒寄は寝てやがった。


 暢気(のんき)すぎるだろ。


 起こす気も失せたので、このままにしておくことにする。


 音はだんだんと前方に向かって行っている。


 つまりは室長のほうに近づいている。


 「どうするつもりなんですか?」


 「まあ見てろ」


 ぺたり、ぺたりと音は止まず、ついに音は運転席の真上まできた。


 と、室長がクルマの天井に向かって、手をかざした。


 「炎熱付与(エンチャント・フレイム)


 ごう、という熱気がこっちまでやってきた。


 ということはクルマの天井部分がどれだけの熱を持ったのかは想像に難くない。


 「ギャアアアアアァァアアァァァ!」


 なんだ? 今の声。


 何というか、聞いているだけで気分が悪くなってしまうような声だった。


 「ぐえっ」


 「んぎゅ」


 室長が急ブレーキをかけたせいで、僕と笠酒寄は慣性の法則に従い前に飛び出そうとして、シートベルトに引っかかった。


 おかげで変な声が出た。


 「ちょっと、なにするんですか! 室長。急ブレーキかけるならかけるって言ってください」


 「……朝?」


 抗議する僕と寝ぼけている笠酒寄には反応せずに室長はクルマから降りる。


 しょうがないので、僕もクルマを降りる。笠酒寄は再び寝始めた。


 てくてくとやって来たほうに歩いていく室長。


 それを僕は追いかける。


 数十メートル歩いた場所に『それ』はいた。


 ごろごろと地面を転がりながら、ぎゃあぎゃあ(わめ)いていた


 外見は……なんだろう、よくある小悪魔(インプ)みたいな感じだった。


 角こそないが、皮膜のある翼が生えているところといい、なんとも醜い感じなところといい、悪魔っぽい。


 「なんですか? これ」


 「今回の『怪』の犯人だ」


 短くそう言って、室長はつかつかと『それ』に近づき、背中を踏みつけた。


 短く叫んで、転がりまわっていた変な生物は動きを止められる。


 「すいません、室長。重ねて質問しますけど、なんですか? それ」


 「グレムリン、だ」





 ……なんかイメージと違う。グレムリン。


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