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だいななかい そのきゅう

 「あら? 彦様、二人とも様子がおかしいですわ。どうしたのでしょう?」


 「ああ、きっとほんのちょっとの勇気が出ないんだろう。僕たちで応援してあげようじゃないか」


 「それはいい考えですわ! 流石は彦様。では(ちぎ)りを交わさんとする二人にわたし達からの(はげ)ましを!」


 ……ちっともいい考えなんかじゃないから、消えてよ。


 ものすごーく、わたしは怒ってる。


 髪の毛がざわざわと動いているのがわかる。


 人狼化しそう。


 そんなわたしの気も知らないで、織姫と彦星は声を合わせて、わたし達を『応援』しだした。


 「「あ、そーれっ! 接吻! 接吻! 接吻! よいよい!」」


 殴っていいよね? ムードぶち壊しだし、もうキレていいよね?


 自分に確認したけど、わたしのぜんぶがOK出しているからもういいや。


 もう、すんごい殴る。殴れなくても殴る。


 わたしの中の人狼が解放されそうになった瞬間、どこからともなく、二枚の紙が飛んできた。


 ううん、なんだか文字が書いてあるし、お(ふだ)って言ったほうがいいかもしれない。


 そのお札はぺたりと織姫と彦星の体に張り付く。


 「あら? 彦様、これは?」


 「うん? どうも一時的な封印術の札みたいだね」


 「あら、残念ですわ。せっかくわたし達が力添えをしてあげようというのに。無粋(ぶすい)ですわね」


 妙に落ち着いた感じで織姫と彦星はお札に吸い込まれるように消えてしまった。


 わたしは怒りのやり場を失くして、力が抜けてしまう。


 そして、気づいた。


 空木君の顔が目の前にあることに。


 空木君の目がまっすぐにわたしを見ていた。


 こんなにも近くで空木君の顔を見たのは初めて。


 そして、わたしはやっぱり、空木君のことが大好きなんだとわかった。


 真剣なまなざしの空木君。


 わたしはそっと目を閉じる。


 少し間を置いて、唇に柔らかい感触があった。





 そのあとのことはよく覚えてない。


 なんだか、とってもぽわぽわした感覚だった。


 ついでに、わたしと空木君の体から光の粒みたいなのが出ていったのも何とか覚えてる。


 でも、他の、そのあとの会話とか、何を食べたのか、とかは全然覚えてない。 


 気が付いたら、わたしの家の前にまで来ていた。


 ふにゃふにゃの頭のままで空木君と別れる。


 おかえりなさい、と迎えてくれるお母さんに生返事をして、自分の部屋に行く。


 ベッドに倒れこんで、そのままファーストキスの感触を思い出して、足をばたばたする。


 まだ、どきどきしてる。馬鹿みたいだけど、抑えられない。


 顔もまだ熱い。


 少し冷まそうと思って、洗面所に行って顔を洗っていると、確認しておきたいことができた。


 思い立ったらすぐ行動!


 わたしはコンビニに行ってくると嘘を吐いて家を出た。



 


 百怪対策室応接室。


 いきなりやってきたわたしをヴィクトリアさんはすんなりと入れてくれた。


 ついでにコーヒーも淹れてくれている。空木君はいない。


 「それで、織姫と彦星はどうなった?」


 コーヒーを置いて、ソファに座りながらヴィクトリアさんは訊いてきた。


 「お空に(のぼ)っていきました。たぶん」


 「まあ、今の笠酒寄クンからは織姫の気配を感じないから、恐らくは霧散したんだろう。成功だな。ありがとう」


 ヴィクトリアさんは柔らかく微笑む。 


 織姫と彦星が三か月も迷っていたのは統魔のせいだけど、今回のヴィクトリアさんはやけに協力的だった、気がする。


 「……これで、二人は来年の七夕まで離れ離れなんですか?」


 「そうだ。しかし、七夕には降りてくる。来年はきちんと統魔が仕事をしてくれることを祈るがな」


 「ダメダメな人もいるんですね。統魔にも」


 「まあ、仕方ない。全員が有能な集団なんて存在しないだろうからな」


 「いくらぐらい請求するんですか? 今回の解決料」


 「色を付けて二百万ぐらいかな。自分たちの無能さを呪ってくれ、といったところだな」


 「あのお札って、ヴィクトリアさんが作ったんですか?」


 「いや、あれは知り合いの陰陽師に……む」


 今度はわたしが誘導に成功した。


 「やっぱり尾行()けてたんですね!」


 「むう……あ、あれだ。ほら、きちんと解決したのか確認しないといけないからな。プロとして……」


 あたふたしながらヴィクトリアさんは弁解する。


 覗きはちょっとあれだと思うけど、わたし達のことを心配してくれたんだと思う。


 だから今回は許そう。


 「今度からは尾行禁止です」


 「しょうがない。わかった」


 参った、という感じにヴィクトリアさんは両手を上げる。


 ただし、交換条件はあるけど。


 わたしは手を差し出す。


 「なんだ、笠酒寄クン。口止め料でも欲しいのか?」


 そんなのは欲しくない。欲しいのはただ一つ。


 「空木君とのキス、撮ってますよね? だしてください」


こうして、わたしは普通の人は絶対に持っていないだろうファーストキスの瞬間の画像を手に入れた。


 これは、きっと宝物になる。


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