だいななかい そのはち
暗い空間に二人並んで座っているっていうのはそれだけでちょっと、何かを期待しちゃう。
いやいや、これは空木君にときめいてもらうための作戦なんだから、わたしがときめいてどうするんだろう。
でも、自然と、どきどきしちゃう。
映画館ではすぐの上映にまだ空きがあったから、隣同士の席にしてもらった。
こういう時に上手くいくのは迷い星のせいなのかな。それとも、神様は愛する二人を応援してくれるのかな。
都合よく考えよう。
とにかく、この映画が上映している間にどうにかして空木君から手を握ってほしい。
まさかリクエストするわけにもいかないから、映画の内容がとってもロマンチックなかんじとゆうことに期待するしかない。
空木君はヘタレだし。
そうして、〈花蜂にラブレター〉は始まった。
思ったとおりに恋愛映画だった。
仕事馬鹿の男の人に女の人が恋しちゃって、思いを伝えようとしするけど、上手くいかない。
そんな感じの内容だ。
……とにかく、わたしみたいな主人公。
空木君は仕事でわたしと一緒にいてくれているのかな?
今日デートしてくれているのも、『怪』の解決のためなのかな?
わかんない。
もしそうなら、とっても悲しい。
映画はもうクライマックスに突入してきている。
やっとお互いに思いを告げられた二人が、夜景を眺めながら手を繋いでいる場面だ。
映画の中のことだってわかっているのに、わたしは画面の中の二人に嫉妬してしまう。
そっと、わたしの左手に温かい何かが触った。
なんだろう?
左手を見てみると、わたしの手の上に空木君の手が重なっていた。
どきん、と心臓が跳ねる。
空木君の体温が伝わってくる。
それだけでわたしの体温も上昇してしまう。
でも、嫌な感じじゃない。
このままずっとこの時間が続けばいいのに。
いつの間にか映画は終わってしまっていた。
館内が明るくなって、他の人たちはそれぞれに出ていく。
わたしは空木君の手がまだ私の手に重なっていることにどきどきしていた。
「う、空木君。映画……終わっちゃったね」
「あ、ああ。そうだな」
慌てて空木君は手を離す。
もうちょっと黙っていたらよかったかも。
少しだけ名残惜しく思いながらわたし達は映画館から出た。
そろそろいい時間だから、ここで夕食を食べていくことにした。
このショッピングモールには二階にレストランがある。
その中にはバルコニーで景色を眺めながら食べることができるお店がある。
ちょっとお高いお店だから普段なら行けないけど、今日はヴィクトリアさんからお金をもらっているからそこにした。
もちろん、バルコニーの席だ。
まだ、ちょっとだけ夕食には早いからわたし達の他にはバルコニーにお客さんはいなかった。
貸し切りだ。
わたしと空木君だけ。
料理を注文してから二人とも何も言わない。
「あ、あのさ」
「あ、あのね」
「「……」」
「笠酒寄のほうからいいよ」
「あのね……あの……キスして」
一気に空木君が固まった。
ガチガチだ。石像みたい。
「い、あ、その……えっと……」
辛うじて、言葉みたいなものはでるけど、意味なんてものはなくて……。
ちょっとかわいいな、と思ってしまう。
わたしはちょっとだけ空木君のほうに身を乗り出す。
もちろん、空木君がキスしやすいようにだ。
もう、空木君は顔を真っ赤にして、パクパク口を開け閉めしてるだけだ。
ちょっとだけそれが続いたけど、何かを決心したみたいにわたしをはっきりと見た。
そして、ためらいながらも顔を寄せてくる。
ああ……初キッス。
もうちょっとで唇が触れるという時に、『それ』はでてきた。
「ああ、彦様。この二人の初々しさといったらなんなのでしょう! こんなにも一途にお互いを想い合っているだなんて、まるで最初の頃のわたし達のよう! 愛とはやはり美しいですわ!」
「ああ、そうだね織姫。そしてどうやらこの二人、これから接吻しようとしているみたいだ。若人を応援してやろうじゃないか」
昔っぽい服を着た男女。
ちょっと透けているから肉体を持っていないのはすぐにわかるし、口調から織姫と彦星ということもすぐにわかった。
……すっごい邪魔。




