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だいななかい そのご

 お星さまって言われても、なんていうか、コメントしづらい。


 普通の人が「こいつらの正体はお星さまだ」なんてことを言い出したらその人の正気を疑う場面なんだろうけど、ここは百怪対策室。そして言ったのはヴィクトリアさんだ。


 とんでもないことも今までたくさんあった。


 ということは今回もヴィクトリアさんはちゃんと正体にたどり着いたんだろう。


 でも、お星さまっていうのはわたしにはよくわからない。


 お星さまっていうのは空に浮かぶお星さまなのかな?


 そういう意味で言っているんなら、目の前の二人はどこからどう見ても人間だし、光ってもいない。


 もしくはとってもソフトな『死んだ』の意味なのかな?


 ……どう見ても目の前の二人は生きてる。


 それにさっきヴィクトリアさんは空木君のことを本物だって言っていた。


 それはきっとわたしが知っている空木君、ということなんだろう。


 言動は違うし、わたしのことはわかってないみたいし、知らない女の子といちゃらぶしててむかつくから認めたくないけど、再生能力といい、ヴィクトリアさんが身体は本物だと認めていることといい、本物の空木君なのは事実なんだと思う。


 となるとこの変な本物な偽物空木君は一体なんなんだろう。


 考えれば考えるほどによくわかんなくなってくる。


 わたしは考えるのは苦手だ。


 それでも、空木君に起きていることを知りたいから考える。


 ぐるぐるぐるぐる考える。


 「ぜんぜんわかりません。説明して下さいヴィクトリアさん」


 (あきら)めた。


 やっぱり専門家に訊くのが一番じゃないかな。


 ほら、オチはオチ屋っていうし。


 言わないかな? なんか違う気もするかも。


 「あー、そうだな。いきなりお星さまとか言ってもわけがわからないな。説明しようか」


 すっごく嫌そうな顔をしてヴィクトリアさんはタバコを取り出した。今日は普通に売っているやつみたいだ。珍しいな。とっても細いけど。


 小さな顔に似合う細いタバコを咥えて、ヴィクトリアさんはいつものライターを取り出して火を点ける。


 「ふう、笠酒寄クンも織姫と彦星は知っているな?」

 「はい。愛ゆえに引き裂かれてしまった恋人同士が年に一回だけ会うことを許されているっていうお話ですよね」


 色の薄い煙を吐き出しながら訊いてきたヴィクトリアさんにわたしは答える。


 七夕(たなばた)のことぐらいは知ってる。


 きらきらの快晴になったことはあまりないけど、その分だけ七夕の夜には織姫様と彦星様はそれはそれはロマンチックなひとときを過ごしているんだろう、なんてことをわたしも小学生低学年ぐらいまでは考えていた。


 そんな織姫と彦星がどうしたんだろう?


 「こいつらはな、その織姫と彦星だ。すさまじく迷惑なことにな」


 「星ですよ?」


 「だから、星なんだよ。こいつらは本来、肉体を持っていない。人の概念に寄生しているような存在なんだ。その点では『怪』に似ている部分もあるだがな」


 正確に表現するなら星を媒体にして人間のそれに対する思考を食って存在している精神的存在とでも言うべきかな、なんてことをヴィクトリアさんはとっても投げやりに言った。


 「幽霊みたいな感じですか?」


 率直に思ったことを訊いてみる。


 「幽霊とはまた違う。幽霊の形態にもよるんだが……これは別の機会に話そう。問題はこいつらの性質だ」


 性質。


 『怪』の本質は現象そのものであることが多い。


 奇妙な現象や存在は奇妙であることが存在理由になりやすいから、らしい。空木君が言ってた。


 じゃあきっとその性質がこの『怪』をヴィクトリアさんが嫌がっている理由にもなるんだろう。どんな性質なんだろう。


 ちょっと気になってしまう。


 「あー……。なんていうかだな、こいつらは七夕の日に夜空が晴れていないとだな、とある性質を帯びる」


 いまのヴィクトリアさんの表情を表すなら『うんざり』だとおもう。


 妙に歯切れが悪いのも気になるけど、ヴィうとリアさんにこれだけの顔をさせる性質って言うのも気になる。


 わたしは黙って話の続きを聞く。


 「まあ、その性質というのがだな、それぞれ人に乗り移って、それから一日中いちゃつくという性質だ。それが終わると再び霧散(むさん)して次の七夕まで人間の精神の中を漂ってる」


 うん? 乗り移る? それが今の空木君の状態なのかな。


 「厄介なことにだな。こいつらはある程度の適性がある人間じゃないと乗り移れない。それが何なのかはまだ分かっていないんだが、乗り移られてしまった人間は数時間経過すると自我を乗っ取られてしまう。そうなったらただの織姫と彦星だ。仕事も学業もほっぽりだしていちゃつく」

 「誰にでもは憑りつけないのに厄介なんですか?」


 能力が限定されてるのに厄介なんてことはあるのかな?


 「こいつらは乗り移る対象がいない場合はその乗り移れる対象が見つかるまで移動し続けるんだ。それこそ次の七夕までな。ゆえについた名称は『迷い星』だ」


 今は十月。七夕は七月七日。


 三か月近くもこの二人(?)は迷っていたんだ。


 愛しい人に会うために。


 それはとても美しいことだと思う。


 でも。


 「空木君がわたし以外の女の子といちゃいちゃするのは嫌です」


 本音が漏れてしまった。


 ヴィクトリアさんはきっと気づいていたんだろうけど、それでも言わずにはいられなかった。


 これは、女子の意地というか(ゆず)れない部分なんじゃないかと思う。


 「ああ全くだ。こいつらのおかげで毎年カップルが破局したり、なんらかの混乱が起こっているんだ。統魔からしてみたら一般人がどうなろうがどうでもいいんだろうが、私は我慢ならない。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、だ」


 なるほど。ヴィクトリアさんも女子だったということだ。わたしの気持ちがわかるみたいだ。


 うんうん。女子同士っていうのはこういう部分がとってもいいなと思っちゃう。


 わたしと空木君の恋人関係にヒビを入れかねないこの『怪』には退散してもらおう。


 「それじゃあ、ヴィクトリアさん。どうやって退治するんですか?」


 すでにわたしは戦闘モードだ、


 外見には現れない程度に人狼を開放している。


 合図があったらすぐさまとびかかっていける。


 「退治はしない。というかできない。こいつらは散るだけで消滅はさせられない。だからここは思いっきり願いを叶えてやろうじゃないか」


 お願い? それって……。


 「いちゃつきたいんだろう? 織姫、彦星。その願いを叶えてやろう」









 あ、これ空木君をからかう時の表情だ。


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