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だいななかい そのよん

 靴に履き替えて、ハイツまねくねに到着するまで二人ともいちゃいちゃらぶらぶしていたのはわたしに対する嫌がらせのような気がする。


 ……空木君に会えたら頭をなでてもらおう。


 これは決定事項だ。


 こほん。


 とにかく、嫌がる二人を連れて、なんとか百怪対策室の前までやってきた。


 インターホンをどうやって押そうかと思ったけど、偽物空木君の足を踏んづけておくことで解決した。


 手首を離してインターホンを押す。


 きん、こーん。


 よくあるチャイムの音がして、数秒経ってからヴィクトリアさんの声が聞こえてくる。


 「あー、だれだ? これから昼寝に入ろうとしていた私の邪魔をした罪は大きいぞ」

 「わたしです。笠酒寄です」


 不機嫌そうなヴィクトリアさんだったけど、お昼寝の邪魔をしてしまったのならしょうがない。


 秋のお昼寝は気持ちがいいし、ヴィクトリアさんもその誘惑には勝てないんだろう。


 「ん? 笠酒寄クンか? どうした。コダマは一緒じゃないのか?」

 「それなんですけど、空木君の偽物が現れて本物の空木君が行方不明なんです。ヴィクトリアさんは何か知りませんか? ついでに偽物も連れてきてます」

 「うーむ。コダマの行方に関してはわからないな。が、偽物のコダマに少しばかり興味がある。入ってくれ、鍵は開いている」


 ヴィクトリアさんの許しが出たのを確認してからわたしは百怪対策室のドアを開ける。


 と同時にまだいちゃついている二人を押し込んで最後にわたしが入ってドアを閉める。


 一度閉まった百怪対策室のドアはヴィクトリアさんの許可がないと開かない。


 これでこの二人は絶対に逃げられない。


 ちょっとだけ安心できたので、今までずっとつかんでいた襟首を離してあげる。


 「や、やっと解放されたわ……」

 「まったく、品がないな君は」

 「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと進んで。一番手前の右のドアね」


 今日のわたしはちょっと不機嫌だ。原因はわかっているけど、解決するには空木君に会わないとダメだ。


 この二人はヴィクトリアさんに任せてわたしは空木君を探しに行こうかな……。


 応接室のドアを開けながらわたしはそんなことを思っていた。


 いつもの応接室にはいつものようにヴィクトリアさんがソファに座っていた。


 お昼寝に入る直前っていうのは本当だったみたいで、ジャージに白衣を羽織ったいつもの格好じゃなくて薄手のパジャマを着ていた。


 ……なんでパジャマに返り血みたいなのがあるのかは今度訊こうと思う。


 「ふ~ん。そいつがコダマの偽物か。それとそっちの見ない顔の女子は何者だ? 依頼者というわけではないみたいだが」


 格好はパジャマでもいつもの調子でヴィクトリアさんは訊いてくる。


 「この偽物空木君の知り合いみたいです。恋人っぽい感じです」


 自分で言った、恋人という単語に胸がちくりとする。


 「ほう、恋人、ね。まあいい。座ってくれ。そこの二人も座ってくれ」


 言われたとおりにわたし達はソファに座る。


 ヴィクトリアさんの隣にわたし、向かい合うようにして偽物空木君とその姫が座る。


 正直、空木君が他の女の子の隣に座っている光景っていうのは見てて楽しくないけど、今はしょうがない。我慢しよう。


 さて、とヴィクトリアさんが口火を切る。


 「キミ達は一体何者だ? 正直に答えろ」


 雰囲気こそいつもののほほんとした調子だったけど、言葉はとても厳しい。


 きっと空木君の姿を真似するなんていうことに怒っているんだと思う。わたしも怒ってる。


 「な、なんのことやら……。僕たちはごく一般的な学生だ。ほら、怪しいところなんてひとつもないだろう?」

 「そ、そうよ。それにあなたのような年下にそんな口をきかれる覚えはないわ。わたし達のほうが年上なんだから敬意を払いなさいな」


 二人ともとぼけるつもりみたいだ。


 でも残念。


 ヴィクトリアさんにはとぼけるという選択肢はあんまり有効じゃない。


 「そうか。なるほどなるほど。正体は暴いてほしいらしいな。ほい」


 ひゅん、と鋭い音がしてヴィクトリアさんの手が偽物空木君の人差し指を握っていた。 


 あ。


 ぱきんというちょっと前に聞いたのと同じ音がした。


 「ぎゃああああああああああああああ!」

 「あ、あなた! 大丈夫!?」


 偽物空木君は今日二度目の骨折だった。


 躊躇(ちゅうちょ)なくヴィクトリアさんは偽物空木君の右の人差し指を折った。


 わたしにやられたときと同じように偽物はしばらくじたばたしていたけど、そのうちに回復したのか、ヴィクトリアさんのほうを(にら)みつける。


 「こ、この小娘……」

 「黙れ。どうやらその体、本物のコダマのようだな」


 いつになく冷たい口調のヴィクトリアさんだった。


 ん? 待って。今何か聞き逃せないことを言っていたような……。


 本物のコダマ?


 わたしの目の前にいるこれは本物の空木君っていうこと?


 「笠酒寄クン、事情説明は後だ。少しばかり確認することができた」


 素早くスマホを取り出してヴィクトリアさんはどこかに電話をかける。


 すぐにつながったみたいだけど、なんだかいつもよりも厳しい口調でどこかに取り次いで欲しいみたいなことを言っている。


 そのうちに目的の人につながったのか、今度はなにかの確認をしているみたいだった。


 ぼくせん、とかむのう、とかいう単語が出てきていた。


 最後に私が処理しておくからあとは請求するからな、と一方的に告げてヴィクトリアさんは電話を切った。


 あーもう、なんて珍しい言葉も発している。


 どうかしたのかな?


 少しの間、ヴィクトリアさんは何かを考えていたみたいだったけど、なにか閃いたのか顔をあげた。


 「さて、笠酒寄クン。待たせたな。こいつらの正体を教えてやろう。この迷惑極まりないバカップルの正体をな」


 さっきの電話でなにか分かったみたいだ。


 本物なのに偽物の空木君と、それとらぶらぶの女子。その正体は一体何なんだろう?


 わたしはヴィクトリアさんの答えを待つ。


 「こいつらの正体はお星さまだ」





 ? 頭の中がお星さまってことですか。


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