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だいななかい そのに

 「はっ! 夢?」


 机に突っ伏した状態からがばっと起き上がってわたしは疑問符を浮かべる。


 周りを見渡してみる。


 わたしのクラスだ。


 みんながワイワイ騒いでいるところを見ると休み時間だ。


 ということはさっきまで見ていたのはわたしの夢だったみたいだ。


 よかったよかった。


 本当にあんなことが起こっていたら空木君をぼこぼこにしてるところだった。危ない危ない。


 ふいー。


 出てもない汗をぬぐってわたしは安堵する。


 ちょっと最近夜更かしが多かったから授業の退屈さに負けてしまってあんな夢を見てしまったに違いない。たぶん犯人は数学だ。もうちょっと楽しい授業にすればいいのに、とわたしはさんざん思っているのに、担当の小瀬名(こせな)先生はちっとも改善してくれない。横暴だと思う。


 「あ、起きた?」


 声をかけられてそっちを向くと志奈(しな)ちゃんがいた。


 筑野原(つくのはら)志奈ちゃん。わたしのクラスメイトにして友達にして宿題を写させてくれる志奈ちゃんだった。


 弐朔高校は席替えがないので入学した時からずっと志奈ちゃんはわたしの隣の席だ。


 そして、わたしが苦手な理系分野が得意なのでよく宿題を写させてくれる。とっても優しい女の子だ。


 「うん、起きたよ。小瀬名先生も授業をもっと面白くしてくれたらいいのにね」


 まだよく状況はつかめていないけど、お弁当を出し始めている子もいるので恐らく今は昼休み。そして、昼休み前の四時間目の授業は数学。


 となるとわたしは四時間目の数学の授業で、がんばったもののやられてしまったみたいだ。


 そのうえにあんな夢を見てしまったので、今度小瀬名先生には文句を言おうと思う。


 生徒の安眠は保障されるべきです! と。


 そんな感じでわたしがうんうん頷いていると、志奈ちゃんは怪訝(けげん)そうなまなざしを向けてきた。


 「はぁ? なんで小瀬名が関係あんのよ。あんた教室に来るなりビービー泣いてそのまま泣き疲れて爆睡してたんだよ?」


 はて? 記憶にございません。


 「……なんか記憶にないって顔してるけど、あんだけ泣いてたんだから、なにかあったんでしょ。何? 空木がどうとか言ってたけどさ」

 「空木君? 空木君がどうかしたの?」

 「いや……質問してんのこっちなんだけど。まあいいや。空木なら保健室だよ。空飛んだらしいけどよくわかんない。まだ戻ってきてないから保健室にいるんじゃない?」


 空木君が空を飛んだ? 


 苗字に空の字は入っているけど、空木君には空を飛ぶような能力はないはずだ。


 少なくともわたしは聞いたことない。


 ということは他の何かが関係しているということだ。


 もしかして、『怪』!


 だとしたら空木君の身に危険が迫っているのかもしれない。


 それはいけないことだ。一刻も早く空木君に事情を聞いて、おかしなものに関わっているならわたしが助けないと!


 行動は決まったのでわたしは即実行に移す。


 「ごめん! 志奈ちゃん。わたし保健室に行ってくるね!」


 椅子を後ろに飛ばす勢いで立ち上がりながらわたしはそう言う。


 志奈ちゃんはぽかんとしていたけど、事情を知らないからしょうがない。


 百怪対策室の実情を知っているのはわたしと空木君だけなんだ。


 だから空木君が困っているならわたしが助けないといけない。


 保健室目指して、わたしは走らないけど、とっても急いで歩き出した。


   


 保健室には幸いにも先生はいなかった。


 こっそりと侵入したのが馬鹿らしくなってしまって、わたしは背筋を伸ばして歩き出す。


 見回してみても空木君はいない。


 ということはベッドで寝ているんだと思う。


 つかつかとわたしは奥に設置されている体調がよくない生徒が休む用のベットに近づく。


 一個目、外れ。二個目、外れ。三個目……。


 当たりだった。


 空木君が寝ていた。


 なんだかうんうん唸っているのが痛々しかったけど、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。


 危機が迫っているかもしれないんだ。


 恋人を守ろうとするこの気持ちはだれにも止められない!


 そんなわけで早速空木君を起こしにかかる。


 「起きて、ねえ起きて空木君……」


 ゆさゆさと体をゆすりながら起きてくれるように頼む。


 ちょっと揺らし過ぎだったのかもしれないけど気にしない。


 速やかに起床してもらわないと後々厄介なことになるかもしれないんだ。


 ぴしぴしと額にチョップを入れ始めたころにようやく空木君はうっすらと目を開けてくれた。


 「ぅうん……姫……かい?」


 誰のことを言っているだろう? 


 は! もしかして、男の子が彼女のことを呼ぶときには『姫』呼びなのかもしれない!


 と、いうことはここはひとつ、勇気を出して姫呼びしてくれた空木君の想いに応えるのも女の器量というやつじゃないかな。


 ちょっと恥ずかしいけど、今は誰もいないと思うのでわたしも勇気を出そう。


 「ぅん……空木君の姫だよ。心配したんだから……きゃ!」

 「ああ! 姫! 会いたかった。君に会うまでに僕がどんなに辛い試練に会ってしまったことか! 今さっきなんかは殴られて宙を舞う羽目になってしまったんだ! そんなことに遇っても耐えられたのはひとえに君を思っているからなんだよ! もう離さない!」


 いきなり起き上がった空木君に抱きしめられてわたしは思わず小さな悲鳴を上げてしまった。


 抱きしめられた拍子に空木君の匂いがわたしの鼻をくすぐる。


 ちょっとだけ消毒液の匂いがする。でもそれ以上に空木君の匂いがする。


 あんまりにも突然にやってきたどきどきのシチュエーションにわたしの頭はぐるぐるまわっている。


 あんまりよく考えられない。


 でも、こうやって空木君とくっついているのはとてもうれしい。


 「ああ、姫。僕の愛しい人。さあ、その美しい顔を見せてくれ」


 ポーっとなってしまっていたわたしは空木君の言葉でなんとかちょっとだけ正気を取り戻す。


 辛い目に遇ってしまったから、大好きなわたしの顔を見て少しでも元気を出そうということなんだろう。


 男の子の可愛い部分だと思う。


 だからわたしはゆっくりと体を離して空木君の顔を正面から見た。


 そしてにっこりと笑ってあげる。


 「ひ、姫じゃない! 誰だお前は! っていうかお前は僕を殴り飛ばした奴じゃないか! た、助けてくれぇ~!」







 は?


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