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第六怪 その2

 さて、僕の感覚が正しければすでに数十分はこの辺をうろつきまわっている。


 この迷路のように入り組んだ道の中を延々と僕たちはさまよっているのだ。


 さっきから先を行く笠酒寄の元気がない。


 入るときには意気揚々(いきようよう)としていたのに、今はもうおろおろしているのが後姿からでも伝わってくる。


 「笠酒寄、ちょっと止まってくれ。これは異常だ」


 流石に僕もおかしいことには気づいている。


 びくりと肩を震わせて足を止め、こちらを振り向いた笠酒寄は今にも泣き出しそうだった。


 ……少しばかり心が痛い。


 くそ、もっと早く声をかけてやればよかった。


 「う、空木君……わたし、わたし……」


 目の端にちょっぴり涙を浮かべるのはやめてくれ。何もしてないのに謝りたくなってしまう。いや、この場合は何もしなかったことがいけないのか。


 「大丈夫だ。怒ってないよ。それよりも現状を再確認しよう」


 なるべく優しく提案する。


 泣きそうになっている女子は刺激しない方がいい。妹という存在がいるとこういうことも学べる。


 ……普段はくそ生意気なだけだが。


 事の始まりはこの区画に入ってから数分経ったころからだ。





 「あれ? ここふさがっちゃってるね」


 前を行く笠酒寄が唐突にそんな声を上げたので僕は横に並ぶ。


 三メートルほどのブロック(べい)が行く手を遮っていた。


 今まで僕たちが進んできた道を完全に終わらせる形でそれはあった。


 「そりゃ道がふさがるぐらいのことはあるだろ。こんな狭い路地が入り組んでいるのならなおさらだしな」

 「それもそうだね。じゃあこっちに回って行こう。行き止まりっていうわけじゃないんだしね」


 そう。僕たちが歩いている道は幅こそ狭いものの、一本道というわけではない。


 いくつもの分岐点が存在しており、そのためにちょっとした迷路のようになっていた。


 ……慣れている奴以外は迷ってしまうだろうな。 


 そんな感想を抱いてしまうぐらいには複雑な構造だった。


 ともあれ、来た道を戻るぐらいのことではないので僕たちは横にそれたのだった。


 ……流石にブロック塀を乗り越えていくという選択肢はない。


 身体能力的には可能だろうが、不法侵入をやらかすことになってしまう。


 まだまだ学生の身分で犯罪者になってしまうということは避けたい。僕も笠酒寄も。


 そういうわけで再び笠酒寄の先導で僕たちは歩き始めた。



 


 「あれ? こっちもふさがってるね」


 再び壁に遭遇したのは五分もしないうちだった。


 再びブロック塀だ。高さもさっきと同じぐらい。


 一斉工事でもしているのだろうか? だとしたら住民はかなり不便な思いをしているに違いない。


 「この辺って工事多いのか?」

 「うーん、そんなことはなかったんだけどね。最近はあんまり来てなかったからそのせいかも。大丈夫! わたしに任せて!」

 「へいへい」


 別に制限時間があるわけでもない。


 室長はとにかく伊勢堂の新製品が食べたいだけなのだ。


 確実に入手するほうが先決だ。


 いくらか元気は無くなったものの、それでも鼻歌でも歌いそうな笠酒寄に導かれて僕は歩き出した。



 


 「……ここも、だね」

 「そうだな。この辺の区画整理でも始まっているのかもな」


 再びブロック塀に僕たちは遭遇していた。


 過去二回と同じようなものに。


 しかも今回は交差点の二か所がふさがっている。


 僕たちが来た道を戻るか、それとも残っている道に進むかしかない。


 「どうする? 戻ってみるか?」

 「うーん。でもこっちに行けばもうすぐ抜けられるはずだからこっちに行こうか」


 笠酒寄はふさがれていない道を指さす。


 確かに。僕の方向感覚的にはそちらが伊勢堂の方向だ。


 もうそろそろけっこうな距離を歩いているし、抜けてもおかしくないのは間違いない。


 妙な場所だったが、そろそろお別れらしい。


 まったく、情報収集の大切さというやつが身に染みる。


 とはいえ、あくまでも場所というものは有限だ。いつかは終わりがやってくる。


 多少は時間のロスがあったが、とりあえず伊勢堂に到着することぐらいはできそうだ。


 新製品が残っているかどうかはともかく。


 その時にはなんとでも言い訳はできるので心配しない。


 そんなわけで僕たちはやっとのことでこの迷路から解放されると思って歩みを進めたのだった。





 「……こんなのって……ある?」

 「どうだろうな。少なくとも僕はないな」


 今度は完全に行き止まりだった。


 やはり三メートルほどのブロック塀が道をふさいでいた。


 三方を囲むように。


 「戻るしかない……ね」


 意気消沈してしまっている笠酒寄は見ていて面白いものではなかった。


 そうだな、とだけ伝えて僕は(きびす)を返した。





 「そんな……」


 絶望。


 笠酒寄がそんな形容がふさわしい声を出す。


 僕たちはたしかに来た道をたどっていたはずだった。


 しかし、そこには三メートルほどのブロック塀がしっかりと存在していた。


 ……これはない。


 たとえ笠酒寄が道を間違えていたとしても、僕まで間違っているということは考えにくい。


 この場所には覚えがある。それに、僕は方向感覚がいいほうだ。


 確かに僕たちはこの場所で今現在ブロック塀がふさいでいる方角からやってきた。


 こんなのはまっとうな現象ではありえない。


 ふらふらと笠酒寄は仕方なくといった風情でふさがれていない道に進みだす。


 これは……まずい。


 いくら鈍くてもわかる。


 この事態は歓迎できるものではない。


 そして場面は冒頭に戻る。


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