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第五怪 その2

 思いっきり抹茶パフェを堪能してから矢筈さんと一緒に百怪対策室に向かう。


 高校生と中年の男性が一緒にパフェを食べているというのはなんとも形容しがたい光景だったとは思うが、知ったことじゃない。食べるものぐらいは自由にいきたい。


 途中、経営者としての苦労話なんかも聞けたので得した気分でもある。


 高校生という身分にはまだまだ遠い世界だが、やはり、人生経験のある人間の話というやつは面白い。い

つもくだらない与太話を垂れ流している室長にも見習ってほしいぐらいだ。


 そうこうしているうちに何事もなくハイツまねくねに到着する。


 矢筈さんには少しばかり不似合いな安っぽい階段を上って、百怪対策室の扉の前までくる。


 いつものようにインターホンを押す。


 キン、コーン。


 代わり映えのしない音がする。すぐにいつものようにノイズ交じりの室長の声が迎えてくる。


 「だれだ?」

 「百怪対策室助手兼、使いパシリの空木コダマ十六歳です。依頼人を連れてきたので開けてください。あと室長のおやつは昨日買ってきて冷蔵庫に入っていますからね」


 この数か月で僕も学習している。室長とのどうでもいいやり取りは省略するに限る。


 「そうだな。本当にコダマだったらこの間の大根のモノマネを……」

 「絶対にやりません」


 被せていく。やりたくないことは拒否する。特に大根関連は僕にとって思い出したくないことなのだ。夢に見る。というか見た。


 「その反応、本物のコダマのようだな。入れ。鍵は開いてる」


 ぶつり、と音声は途切れる。


 いちいちこういうことをしないと人を入れられないのだろうか? めんどくさいことこの上ない。ため息が漏れる。


 「なかなか君も苦労しているみたいだね」

 「ありがとうございます……」


 出会って数十分の人にさえも同情されてしまった。どうして僕はこうなるのだろうか。


 室長に関わっているからしょうがないのだろうが。


 中に入る。


 初めての矢筈さんは予想通りに広すぎる空間に驚く。しかし、フリーズしたり、逃げ出そうとしない辺りはやはり大人の貫禄であろう。それともあの二人が特別なだけか?


 靴を脱ぎ、応接室の前まできてノックする。


 「入れ」


 思いやりもへったくれもないぞんざいな口調の返事が来た。


 気にせずに入室する。


 いつものようにジャージに白衣でソファに座ってくつろいでいる室長がいた。今日は一人らしい。笠酒寄はいないようだ。


 僕は矢筈さんに室長の対面に座ってもらうように促し、室長の隣のソファに座る。


 普通はこういう構図になる。


 笠酒寄が百怪対策室に寄り付くようになってしまってからはあまりなかったが、それまではこういう図になることが多かった。久しぶりだ。


 「初めまして、矢筈と申します。本日はご依頼したいことがありましてお伺いさせていただきました」


 丁寧にあいさつをした後に矢筈さんは名刺を取り出して室長に渡す。


 それを同じく優雅に室長は受け取る。


 「私はヴィクトリア・L・ラングナー。この百怪対策室の室長です。どうぞよろしく」


 そう言うと室長は白衣のポケットから名刺を取り出して矢筈さんに渡す。


 「室長、名刺持ってたんですね」

 「当たり前だ。これでも事業主だからな」


 それもそうか。しかし、百怪対策室の業種はなんになるのだろうか? サービス業であることには間違いないだろうが。


 「僕にも室長の名刺もらえませんか?」

 「いいだろう。ほれ」


 どんな名刺なのか気になったのでもらってみる。正直、なんだかんだと渡してくれないか、渡す代わりになにか無茶なことをやらせられるんじゃないかと思っていたのだが、杞憂だったらしい。たまには素直なこともあるようだ。


 もらった室長の名刺を眺めてみる。


 〈百怪対策室室長 ヴィクトリア・L・ラングナー〉


 味もそっけもない白い名刺にただそれだけ書いてあった。


 「これ、名刺の意味ないですよ」

 「ある。キミにはわからないだけだ」


 わかりたくない。というかわかってしまったらそれはそれで問題があるような気がしないでもない。


 とりあえずゴミ決定なのだが、目の前で捨ててしまったら後で何をされるのか分かったものじゃないのでとりあえずポケットにしまっておく。


 「それではお聞かせ願いましょうか。あなたが遭遇した『怪』について」


 名刺交換も終わり、室長は本題に入る。


 「ええ。ヨーロッパ貴族風の格好をした幽霊を見てしまいまして、それの解決を依頼したいと思っております」


 簡潔に、そして目的ははっきりと。こういうわかりやすい話し方ができるようになりたい。間違っても、何かにつけて横道にそれるような話し方はしたくない。室長のほうを見ながら僕はそう思う。なんで室長と矢筈さんが逆じゃないのだろうか? 世の中は理不尽だ。


 ふむ、と室長は何かを考えるように指を(あご)に当てて黙ってしまう。流石に室長でも手がかりがなさすぎるのだろうか? 


 僕の推測が正しかったのかはわからないが、室長はしばらく考えた後に矢筈さんに質問を始めた。


 「出現した時間はわかりますか?」

 「私が見たのは日の暮れるころ。他の社員もそのぐらいに見たと言っています」

 「なにか喋ったり、動いたりは?」

 「その場から動くことはありませんが、何かしらの動作をすることはあるようです。生憎(あいにく)と私は目撃していません。あと、どうもこれは私にはわからなかったのですが、フランス語を話すようです。目撃した社員の一人が言っていました」

 「……」


 室長は再び黙り込んでしまう。


 何かわかったのだろうか? それとも何も絞り込めないから考え込んでいるのだろうか? 

表情からは読み取れない。


 「もしかして、なのですが。近くに新築の建物があったり、道路工事をしていたりしますか?」


 なぜか頭痛をこらえるように室長は矢筈さんに尋ねる。こんな室長は初めてみる。


 「ええ、私自身のオフィスを新築したばかりです。……そういえば、幽霊が出始めたのはオフィスを新築してからですね」


 ぐう、とこれも初めて聞く室長の声だ。


 なんとも形容しがたい、あえて形容するならば腸捻転を起こした蛙はこんな声を出すのではないかと思う。


 「室長、どうしたんですか? なにか心当たりでも?」


 めずらしく僕の質問にも素直に室長は答えてくれた。


 「サンジェルマンのアホの仕業だ」






 だれですかそれ?


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