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第四怪 その5

 事件の犯人というものは多種多彩だ。


 古今東西の事実、虚構問わず必ずしも犯人は人間だという保証はない。事実、僕は人間以外が犯人だった『怪』に関わってきたのでそういう偏見はないつもりだった。


 しかし、一体どこのどいつが想像するだろうか? 事件の犯人は大根だった、などと。


 大根。野菜である。煮物に多く使われるが、生で食べることもできる。その場合はさっぱりとした味とシャキシャキした触感を楽しむことができるだろう。主役を張ることはあまりないが、いぶし銀のわき役としてはかなりのものだろう。食卓に欠かせない存在というわけでもないが、なくなってしまったら大分寂しさを感じることだろう。失くして初めてその存在を意識するような野菜だ。


 そんな大根が、『怪』を引き起こしていたという。


 室長は大真面目にそんなことをのたまった。


 「大丈夫ですか室長。おもに頭が。医者なら呼びまブッ!」


 ついつい思ったことが口に出てしまった。


 と同時に室長に殴られた。かなり痛い。歯が砕けたらしく口の中に何かの破片がある。すぐに治るが。破片はその辺に吐き出す。


 「……何も殴ることはないんじゃないですか?」

 「やかましい。失礼な口をきいた罰だ」


 取りつく島もない。流すのが正解だろう。笠酒寄はぽかんとしている。大根が犯人だなんて言い出したら当然か。


 「で、室長。大根が犯人って言うのはどういうことなんですか。こいつらが入山者を襲って殺していたってことなんですか?」

 「まさにその通りだ。こいつらが殺していたんだろう。まったく、厄介なものだ」


 この先、一生大根に大して使われないであろう単語が出てくる。厄介な大根ってなんだ。


 「あの……大根が人を襲うっていのはなんていうか、もう、ギャグ通り越してシュールなんですけど。人食い大根参上! とか三流ホラーですよ」

 「正確に言うと大根じゃない。マンドラゴラだ」


 どこか冷めた視線で大根らしきものを見ながら室長が言う。


 マンドラゴラ。聞いたことはある。ただ、それは普通の植物だったはずだ。ファンタジーに登場するようなマンドラゴラも大根じゃない。


 「言いたいことは分かるぞ。だがな、いわゆるファンタジーに登場するマンドラゴラは古種マンドラゴラというんだ。それを一般人から隠すために生み出されたのが今現在一般社会で知られているマンドラゴラ。そしてこいつはダイコンモドキマンドラゴラだ」


 なんともコメントしがたい、直接的すぎるネーミングだ。つけた奴の感性を疑う。

 室長の話は続く。


 「もともとマンドラゴラはB指定、その上に栽培に関しては統魔の許可が必要なんだ。だから基本的には入手困難。それで、あるアホがほかの人間にはマンドラゴラとわからない品種を作った。大根に偽装して普通に畑で栽培していたんだが、脱走してな。大騒ぎになって元凶の魔術師は拘束指定になり、ダイコンモドギマンドラゴラもすべて焼却処分になった、はずだったんだが、逃げ延びていたようだな」


 もしくは再び作ったやつがいるか、だな。


 本当に珍しく、室長が嘆息する。


 それだけに面倒くさいのか、馬鹿馬鹿しいのかはわからないが。とにかくはっきりしていることはある。


 B指定、つまりは統魔自身が管理しないといけないと設定しているモノが危険でないはずがない。今はまだこの山の中ぐらいしか行動範囲はないようだが、いつ被害が拡大するのかわからない。


 大根(正確にはダイコンモドキマンドラゴラ)に襲われて死んだ、なんて悲しくなってくる被害は今のうちに食い止めるしかないだろう。第一、人間の居住区にでも侵入されてしまったら一大事だ。大根が人を襲うというなんとも表現しがたい記録が残りかねない。


 「それじゃあ、やっぱり根こそぎ殲滅ですか?」

 「ああ、それこそきれいさっぱりにやってしまう。調査だけではなく可能なら解決も依頼の内だからな」


 この広い山の中、どこに植わっているのかわからない大根を一本一本破壊していく。


 想像しただけでうんざりする。しかし、やらないといけないのだろう。月曜日には帰れそうもない。統魔の応援でも頼みたいところだが、依頼として受けている以上は僕たちがやらないといけないのだろう。もう少しばかり依頼内容は鑑みてほしかった。


 「うんざりしますね」

 「そうでもない。強度は普通の大根と大して変わらないから破壊は容易だ。問題はこいつの能力だけだが、それもキミがいるなら問題ないな」 


 は? どういうことだろうか? 


 大根どもを探し回る手間というものを忘れているのだろうか。それとも何かしらの手段が存在しているのか。ただ、嫌な予感はする。


 「……問題な能力っていうのは一体なんですか?」


 とりあえずは室長が問題視しているこのダイコンモドキマンドラゴラ(間抜けな名前だ)の能力について聞いておいた方がいいだろう。対処させされるのは僕だろうから。


 「ああ、こいつらも古種マンドラゴラと一緒の能力を持っているんだ。引き抜いた時に絶叫してそれを聞いた生物を絶命させる」


 聞いたら即死かよ。どうやって対処したらいいんだそんなもの。耳栓か? もしかして鼓膜を破ったりされるのだろうか? すさまじいバイオレンスの気配がする。


 「変な想像をするな。こいつらの叫びはたしかに強力な絶命効果を持っているが、実は古種マンドラゴラとは明確な違いがある」

 「なんです、それ?」

 「声が小さい」


 ダイコンモドキマンドラゴラは喉が弱かったらしい。そんな器官が存在しているのかどうか知らないが。


 「で、それで僕が何の役に立つんですか? 叫ぶのにはかわりないんでしょう」

 「こいつらの叫びは精々十メートルぐらいしか響かない」


 ……なるほど。僕ならたしかに対処可能だ。十メートル以上離れてから能力を使って引っこ抜いてやればいいわけか。なんだか室長の返答がぞんざいになってきているのは気にしない。


 これでダイコンモドキマンドラゴラ(もう大根でいいか)を安全に引き抜くことはできる。しかし、山中の大根を見つけるのはどうしたらいいのだろうか? その問題は解決していない。 それとも探すのは統魔任せになるのか? どっちにしろ、かなりの時間がかかってしまう。


 これからの作業を考えて僕が憂鬱な気分になっていると、室長は踵を返して道のほうに戻り始めた。


 「どこ行くんですか、室長?」

 「山頂だ。恐らくはそこが大根どもの拠点だからな。そこで殲滅する」


 わからないことがまだあるが、室長は答えてくれそうもないので僕も笠酒寄もおとなしくついて行くことにした。


 あと笠酒寄、大根の葉っぱをむしるのはやめろ。

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