第一怪 その2
笠酒寄ミサキ。十五歳。
二朔高校一年生。というか、同じクラス。
知らなかった。クラスメイトに対しての関心のなさがばれてしまう。
向こうは僕のことをクラスメイトだということをちゃんと知っていたらしく、「普通に話してくれていいよ」なんてことを言ってくれたのでお言葉に甘えることにする。
「クラスメイトっていっても、僕のことなんてよく知ってたな」
「だって有名じゃない。変な事件を解決してる、変な人がいるって」
とんでもない噂が流れていた。
風評被害だ。
室長はともかくとして、僕がそんな噂を立てられる謂れはない。
たしかに、僕が夏休みに何件か妙な事件に関わったのは事実だが、解決したのは実際には室長だ。
「男子でポニーテールって十分変だと思うんだけど……」
校則違反はしていないのだから、文句を言われる筋合いはない。
男女平等の世の中だ。男子も出産できるぐらいにはなっていいと思う。
「そういうところだと思うんだけどな……」
ちなみに今僕たちはとある場所に向かっている。その道中である。
益体もない話を続けながら歩いていると、やっとその場所に到着することができた。
ハイツまねくね。
妙な名前だが、ごく一般的なアパートである。
外見上は。
されど、妙な事件を解決する怪しい人物の居城である。
隣の笠酒寄は「ここでいいの?」というセリフを発しそうな顔をして立っている。
へんちくりんな事件の専門家なのだから、もっと曰くありげな場所にでも住んでいると思っていたのだろう。
僕も最初はそうだった。
「ほら、行くぞ」
いまだに頭の上の疑問符が取れない笠酒寄に声をかけて、僕は安っぽい音を立てる階段を上る。
二階に上がってすぐの二〇一号室。
ここが目的地だ。
「あの……ねえ、これって……」
笠酒寄はドアの真ん中に貼られたプレートを指さす。
〈百怪対策室〉
やけに流麗な書体で書かれたそれは怪しさ爆発だった。
「……それには突っ込まないでやってくれ。本人はかっこいいと思ってやっているんだ」
笠酒寄からの疑わしさ満載の視線を流しながら、僕はインターホンを押した。
キン、コーンというよくある音が響く。
二十秒ほどしてからインターホンからノイズ交じりの声が聞こえた。
「だれだ?」
ぞんざいな口調とは裏腹にやけに可愛らしい声音である。
「僕ですよ。コダマです。依頼人を連れてきました」
「本当にコダマか? 最近は私の命を狙う輩も多いからな。本物だということを証明して見せろ」
「なんですかそれ? というかインターホン越しにどうやって証明したらいいんですか?」
「そうだな、この間やってくれた瀕死の鶏の威嚇の声をやってくれ」
「……そんなニッチすぎる芸を披露した覚えはありませんよ」
「ふむ、どうやら本物のコダマのようだな。入れ。鍵は開いている」
毎度毎度、こんなやりとりをするのは疲れるのだが、やらないと室長は入れてくれないのだからしょうがない。
前に何も言わずに入ろうとしたらひどい目にあった。
ともかく、とっとと入ろう。
ドアノブを捻って引くと、ドアはそのまま開いてくれた。
「ほら、入れよ。閉まったらまた開けてもらわないといけないんだから」
恐る恐るといった様子で笠酒寄は百怪対策室に入っていった。




