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第二怪 その5

 府明道神社は小さな神社だった。


 というよりもこじんまりとした神社、と言ったほうが正確かもしれない。


 巨大な鳥居に迎えられるなんてこともなく、僕と笠酒寄は三メートルぐらいのミニ鳥居をくぐった。


 社のほうも古ぼけていて、どうにかするとみすぼらしく見えてしまうような外観だった。


 しかし、その後ろには大きな樹が存在していた。


 「たぶん、あれが御神木なんだろうな」


 確認するように僕は呟く。


 「そうだね、音もするし」

 「あん? 何の音だよ」

 「倒れる音」

 「そんな音してるか?」


 耳を澄ましてみるものの僕にはそんなものは聞こえない。


 怪訝に思って笠酒寄のほうを見るといつの間にか耳を生やしていた。


 「聴覚強化かよ……」

 「そうそう。人間のままだと聞こえないけど、この状態なら聞こえるみたい」


 なるほど。確認というのはそういうことだったか。


 人間には聞こえなくても、人狼には聞こえる可能性があるということか。


 人間には聞こえない?


 「耳生やす前は聞こえてなかったのか?」

 「うん。聞こえなかったよ。こうなってからやっと聞こえるようになったの」


 笠酒寄が聞こえるというのはわかる。実際に僕たちは天狗倒しに遭遇したからだ。


 しかし、人間の状態では聞こえないのはどういうことだろうか? 何十件も天狗倒しに遭遇したという報告があるというのに。


 わからない。


 しかし、とりあえず今はやることをやってしまおう。


 僕たちは社の裏に回って御神木のもとに向かう。


 近くで見ると巨大な樹だ。


 いや、他を探してみればいくらでもこれよりも大きな樹なんていうものは存在しているのだろうが、こうやって直に対面すると、少しばかり圧倒されそうになる。


 札なんて貼ってばちはあたらないだろうか? 


 そんな弱気な考えまで浮かんでくる。


 されど、やらねば『怪』が深刻化してしまう。それは室長としても僕としても困る。


 ゆえにここは勇気を出して指令を実行するのみだ。


 「さすがに正面に堂々と貼るのはまずいよな」


 誰かに見つかって剥がされでもしたら元の木阿弥だ。


 僕たちは御神木の裏に回る。


 幸いにも裏側は塀ができており、その上雑木林が広がっていた。昔の鎮守の森の名残なのかもしれない。


 さて、あとはもっと見つかりにくく貼ればいい。


 札に意識を集中する。


 後ろでまとめている髪がふわりと浮く感覚が生じる。


 同時に札が僕の手を離れて宙に浮く。


 そのまま御神木に沿って上昇していく。


 「すごいすごい! 空木君の能力を実際に見るのは初めてだよ!」

 「笠酒寄、ちょっと黙っててくれ。集中が切れる」


 しっかり集中してないと僕のこの能力は発揮できない。


 途中で落としてなにか起こってもまずいので一応釘をさしておく。


 札をふよふよと上昇させ、地面から十メートルぐらいの地点で止める。


 この高さならそうそう気づかれることもないだろう。


 そのまま御神木に押し付ける。


 小さな電気のようなものが弾けて、札はぴったりと御神木に張り付いた。


 「あ、音が止んだ」

 「ほんとか?」

 「うん、全然聞こえなくなっちゃった。すごいね、ヴィクトリアさんのお札」


 作ったのは絶対に室長ではないと思うがそこは黙っておこう。というか笠酒寄もわかって言っているのだろう。


 「んじゃ、役目は終わったし、帰るか」

 「うん」


 こうして僕たちは府明道神社を後にした。



 「ずっと悲鳴を上げ続けられるわけないだろう。御神木はもう死の瀬戸際なんだから」


 百怪対策室に戻ってきて室長に人間には天狗倒しが聞こえなかったことを報告したあとの第一声がそれだった。


 「でも、聞いた人たちは現に存在しているじゃないですか」

 「一時的に大きな悲鳴は出せても、持続的には出来ないってことだ」


 やれやれそのぐらいは推測できてくれ、と室長は肩をすくめる。


 「でも、大丈夫なんですかね? あの札、見つけにくい場所には貼ってきましたけど、絶対に見つからないってわけじゃないですよ」


 「心配するな。貼った本人にしか見えない術式を組み込んである。本来の呪符とはそういうものだ。見える呪符っていうのは見つかることを前提としているんだよ」


 また隠蔽の魔術か。


 知らない間に僕の背中とかに『大馬鹿者』とか書かれた紙が貼ってないことを祈る。


 「それよりもあの札は一体どういうモノだったんですか? 『怪』を封じ込めるような札ならもっと使ってもいいんじゃないですか」

 「そんな都合のいい代物が存在するわけないだろう」


 一刀両断にされてしまった。


 室長は続ける。


 「あれは単に貼った対象の出す音を遮断してしまう札だ。本来はやかましい付喪神なんかに使うんだが、今回はちょうどよかったからな」

 「ずいぶん限定的な使い方ですね」

 「その代わりに強力だ。剥がそうとしてもそうそう剥がせるものじゃない」

 なるほど。少なくとも天狗倒しに関してはこれでどうにかなるらしい。

 「でも室長、あの御神木はどうするんですか? このまま放っておいたらまずいような気がするんですが」


 今回封じたのはあくまで天狗倒し、つまりは御神木の悲鳴だ。


 御神木が苦しんでいることには変わりない。


 「ああ、その辺は鍵成警部が上手くやってくれるそうだ。近々調査を入れて切り倒すらしい」

 「……たたりとかないですよね?」

 「介錯してやるようなものだ。延々と苦しみ続けるよりもスパッと絶ってもらうほうがいいだろう」


 それに、たたりが出たならそれはそれでその時だ。


 そう言って室長は新しく開けた箱からタバコを一本取り出す。


 咥えて、優雅に火を点けて、満足そうに煙を吐き出す。


 「ところでコダマ、いいのか?」

 「何がですか?」

 「笠酒寄クンがさっきから時計をちらちら見てるぞ」

 「あ」


 女子高校生の帰りがあまり遅くなるというのはまずいだろう。特にこういうみょうちきりんな人物に関わっているとなると(決して僕のことではなく室長のことである)。


 「送って行ってやれ、女子の一人歩きは危険だろ」

 「痴漢のほうが危険だと思いますけど」

 「だからこそだ」


 はぁ。


 まあ、いいだろう。今日は平和に解決したんだ。


 「ほら、笠酒寄。帰るんだろ? 行くぞ」

 「う、うん」

 「じゃあ室長、今日はこれで僕も帰ります」

 「ああ、次は伊勢堂のロールケーキを持ってきてくれ」

 「……自分で買ってください」


 最後まで口の減らない人だ。


 笠酒寄と一緒に百怪対策室を後にして僕たちは家路についた。

第二怪天狗倒し、これにて幕となります。

次はそのうちに。

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