第一怪
刺すような空気の中を僕は歩む。
深夜の公園。
普通なら静寂に不気味さを覚えるような時間帯なのだろうが、今は違う。
殺気が満ち満ちている。
別段、暗殺者の集団やら、殺人鬼の集団が潜んでいるというわけではない。
ここにはいま、二人の人外がいるというだけだ。
一人は僕、空木コダマ。
残りの一人から発せられる殺気が、この公園を気の弱い人間なら気絶しかねない空間にしているのだ。
とはいっても、僕には効果は薄い。
死にそうな目は夏休みに何度かあった。
それに比べたら、あまり危機感が湧いてこない。
相手としては十分すぎるのだろうが、いかんせん僕も多少は修羅場をくぐってきた。
結局、慣れなのだろう。
しばらく歩いて、目標を発見した。
『そいつ』に向かって、僕はやや大きめの声で宣言する。
「さっさと終わらせて帰らせてもらうぞ。笠酒寄」
『そいつ』は咆哮で応えた。
時刻を遡ること七時間前。
夜の七時。九月とはいえ、まだまだ暑い。
稲木公園のベンチに座って僕、空木コダマはそんなことを考えていた。
なんでそんな場所にいるのかというと、手紙で呼び出されたからである。
みょうちきりんな事件の解決を請け負う百怪対策室の助手として、依頼人から呼び出されたら行かねばならない。
それなのに、約束の七時になっても依頼人は姿を見せない。
ポニーテールにしている髪をいじりながら待っていたものの、流石にこれ以上はいたくない。
こちらから探しに行こうと腰を浮かせようとしたその時、後ろに気配を感じた。
依頼人だろう。
とりあえず、向こうの準備もあるだろうから、声をかけてもらうのを待つ。
「……」
「……」
「……」
どうやらなかなかにシャイでいらっしゃるらしい。
このままチキンレースを繰り広げていてもしょうがないので、僕はベンチから立ち上がり、振り返る。
「こんばんは。あなたが僕に手紙をくれた方ですか?」
「ぁ、あの……はい」
いたのは小柄な少女だった。
僕と同じ弐朔高校の制服を着ており、セーラー服の襟のラインは僕と同じ一年生のものだった。
「奇妙な出来事に困っているのもあなたですか?」
「あの……はい。そうです」
小柄な体躯にボブカットの髪がどうにも幼さを感じさせるのだが、そのことは関係ない。
僕がやるのは『怪』の相談受付窓口だ。
「それじゃあ、聞かせてください。解決してほしい奇妙な出来事を」
「え、いきなり? 自己紹介とかないの?」
確かに。
ちょっと暑さで短気になっていたみたいだ。申し訳ない。
改めて、僕は少女に自己紹介をする。
「初めまして、僕は空木コダマ。百怪対策室の助手兼受付窓口です」
深々と頭を下げて、そう述べる。
「あの……ええと、笠酒寄ミサキです。よろしくお願いします」
僕に釣られるように少女、笠酒寄も頭を下げる。
夜の公園で僕は何をやってるんだ……。
気を取り直して再び笠酒寄に尋ねる。
「じゃあ、今度こそ聞かせてもらえますか? あなたに起こった奇妙な出来事を」
こくり、と頷いて笠酒寄は小さく息を吸うと、
「わたしにかかったオオカミの呪いを解いてほしいの」
そう、言った。




