魔王ってやっぱ襲われる運命なのよね
「ふー、ギリギリセーフ」
「イクリース様! 良かった、間に合った……もう! 心配したんですからね!?」
「ご主人ー!」
玉座の間になだれ込むとベスやダーシュなど先にいたメンバーが安心したように声を上げ突進してくるダーシュをステップで躱す。後ろからぐげえと声が聞こえたが気にしない。
「急いでください! もう使節団がすぐそこの通路まで来てます!」
「なにい!? みんな! 位置に着け!」
「ついてないのはあなただけですよ!」
それを先に行ってくれ! 大慌てで席に着くのと、扉が開くのはほぼ同時だった。
重々しく開いた扉の向こうからやってきた王国の人たちの真剣な顔を見ただけでため息をつきたくなる。その中に、妙に目立つイケメンとその手を握っている美女を見つけさらにやる気をなくした。
そしてお腹がすいた。
さて、本当に突然ですがここで問題。こんなテキトーな魔王がこんなまじめな場所で役割をこなせるでしょうか? 答えはもちろん否だ。普通ならね。
だがしかーし! べスやらアルヴァーナくんやらにここ一か月猛特訓を受けた僕は一味違う!
まず一つ目。魔王っぽい表情! 普段は少しつまらなそうに偉そうな表情をする。ここで、あまりにも偉そうにしたりしては問題になるため注意が必要だ。僕はこれをマスターするのに丸二日駆けた。そして二つ目、魔王っぽい姿勢&振る舞い! 常に二十ある魔王ポーズの中から適切なものを選ぶのだがこれがまた難しい。特に魔王ポーズその十三が僕にとって一番難しかった。とりあえずここは僕の一番得意なその七で行こう。そして最後、魔王っぽいしゃべり方! これが一番難しかった。一か月の大半をこれに費やしたといっても過言ではない。普段よりも少し低めに、ゆっくり重苦しくしゃべり、さらに言葉も選ばねばならない。なんてめんどくさいんだ。だが、僕はもうこれさえも完璧にマスターしている。今の僕に敵はいない! ではその成果、とくとご覧に入れよう。
「よく来たな王国の使者よ。僕がレンヴィナント魔道国の魔王、イクリース=ジル=ミザリクスだ」
「ミザリクス殿私は王国が使者、アーヴィス=ラーキィである!」
「ラーキィ殿安心してくれ。そんなに大きな声を出さなくてもちゃんと聞こえる。耳は昔からいいのでね」
室内で声が反響してうるさいのでもう少し小さくしてと頼んだだけなのだが、彼は大きく肩をビクンと動かし脂汗を垂らしながら小さく了解したと言った。めっちゃ怖がられてるな、僕。
「さて、ラーキィ殿。こんなところで話すのもなんだ。ベス、案内して差し上げなさい」
「畏まりました。皆様、どうぞこちらへ」
とりあえずべスに食堂まで案内させる。僕の気持ちを汲んでか、べスがご一行を連れていく。
さーて、飯だ飯だ。うっひょー!
ルンルン気分で玉座から立ち上がり、スキップしそうな足を抑えながら僕も食堂に向かう。すると、
「今だ!」
掛け声とともに何かがこちらに迫ってくる。
なんだよ、もう僕ご飯食べたいんだけど。
怪訝な顔をしながら、ゆっくりと振り返ると、さっきのイケメンくんが目の前まで迫ってきていた。鋭い輝きを放つ剣が、僕の首に触れる。そして___